彼は目を開けた。

ぼうっとして、思考が定まらなかった。

 

(待てよ……確かさっきまで……)

 

そう、さっきまでサーナイトの口の中にいたはずだった。

だが、それにしては妙に寒い。

 

彼は身を起こす元気も無かった。

うつ伏せのままの状態で、辺りを観察した。

そこは道端のど真ん中。

すぐ前には怪しげな巨木が依然としてあった。

ここは、ドンカラスたちに襲われたはずの場所だった。

そして、この先で落とし穴にはまったはず。

しかし、その跡は見当たらない。

もう空は白み始めていた。

 

「あら、目が覚めたようね。」

 

声はサーナイトではない。

朝もやのかかる中、そこに現れたのは……

 

「ム、ムウマージッ。」

「いかにも、その通りですわ。

オーッホッホッホ。」

 

彼はダーテングの言葉を思い出した。

すぐさま合点がいった。

 

「全部、お前の仕業だったのか。」

「よくお分かりね。」

「何でこんな事を…」

「何でって、何だかだんだん楽しくなってきちゃったの。」

「はぁ?」

「だって、あなたほどからかい甲斐のある人ってそうはいませんわ。

オーッホッホホ。」

 

あまりにも適当な答えを突きつけられ、

彼は何か言葉を返す気も失せた。

 

「でもあなた、いい年して“お漏らし”なんて

ちょっと恥ずかしいですわよ。」

「はっ……」

 

(まさか……)

 

言われてみれば、腹部から膝下にかけて嫌に湿っぽい。

彼は自分でも分かるくらいに赤面した。

 

「もうその時の顔ったら、可笑しくてたまりませんわ。

オーッホッホッホ。」

「お、お前のせいだろうがっ。」

 

顔から火が出そうだった。

恥辱はムウマージへの怨念をみるみる増幅させた。

 

「おのれぇぇぇっ。」

 

シュゥゥン。

 

彼の“リーフブレード”は空を切った。

ムウマージはなおも笑いながら、

霞の中に溶け込むようにして消えた。

そして、テレパシーでこう言い残した。

 

『何があっても他の村の者には、絶対に口外してはなりませんわよ。

…あなたの村を想う誠実さ、私にはひしひしと伝わってきましたわ。』

 

「誰が言うもんか。」

 

言えるはずが無かった。

こんなにひどく辱められて、誰が自慢げに話すものだろうか。

考えてみたが、ムウマージの言っていることは全く筋が通らない。

彼はその言葉の真意を汲み取れずにいた。

 

もう空はかなり明るかった。

鳥の鳴き声がしきりに響き渡った。

霞も次第に晴れ、視界がはっきりとしてきた。

 

 

そして、彼の眼前には

たわわに実るオレンの実の木々が一面に広がっていた……


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