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草の根かきわけてV − 旧・小説投稿所A

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草の根かきわけてV
− 蘇りし記憶 −
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※若干の残酷描写を含みます










 「ルンバは元に戻っただけなんだよ。本当の姿、オオカミに」

 ビンバは俺に向かって、そう言い放った。

 「ど、どういう事だ!? 説明してくれよ」

 一体・・・何を言って・・・・・・

 俺の背中の毛が逆立つ。ビンバが急に遠い存在になった気がした。



 「あの日、ルンバは俺の前にひょっこりと現れたんだよね。今日みたいにさ」

 「いつだよ・・・・・・」

 俺は力なく答えて、またビンバの話に耳を傾ける。

 「逃げようとした俺を、ルンバは襲わなかった。それどころか、まるで同じ種族のように話かけてきたよな」

 「ようにって、俺達は二匹とも鹿だったじゃないか」

 俺の指摘にビンバはゆっくりと首を横に振る。

 「ルンバの記憶の限りでは、そうなんだろう」

 一体なんだってんだ、俺が何を知らないってんだ。

 「違った種族の2匹が立場を入れ変える伝説は知っているよね?」

 「ああ、一応はな」

 少しでも手がかりがないか探っていた時にルウに少し聞いた。といっても、どうせ子供向けの語りものだとあまりアテにはしていなかったけどな。

 「俺は、肉食動物になりたかった。襲われる立場での辛い思いをしたくなかったから。そしてルンバは草食動物になりたかった。襲う立場での辛い思いをしたくなかったから」

 俺は何も言わず、ビンバの話に聞き入る。

 「利害関係が一致した二匹が”それ”を実行に移すまで、そう時間はかからなかったよ」





 あまりにも衝撃的な話を、俺は到底理解できなかった。まさか、そんな事があるってのか? いや、ちょっと待て。何かおかしいぞ。

 「それなら、なんでお前は今鹿なんだよ? おかしいじゃないか。それに、俺と昔っから一緒だっただろう? いつそんな事が」

 俺は思っていた事を矢継ぎ早に叫ぶ。

 「本当に、昔から一緒だったかい? よく思い出してみな。小鹿の頃はどうだった?」

 「それは・・・」

 いや、そんなはずは。だけど・・・・・俺は、俺は誰だ・・・・・・・

 「ぐはああ!」

 突然の頭痛に、俺は崩れ落ちた。

 「大丈夫か、ルンバ? ルンバ、ルンバ!」

 ビンバの叫び声に答える間もなく、次の瞬間には俺の周りの景色が全く違ったものになった。





 今にも雨が降り出しそうな草原に一匹の仔狼が佇んでいる。ちょうど狩りの後なのだろうか、足元には虫の息になった兎が倒れていた。

 よく見ると仔狼は不自然に痩せていて、あばらが浮き上がっている。その目は虚ろで何も映ってはいなかった。

 しばらくすると、雨がぽつぽつと降り始めた。それを無視して仔狼は兎を食し始める。その牙が体に食い込む瞬間、兎はミギッと小さく悲鳴をあげたがすぐに声も出なくなった。

 兎の体をむさぼる仔狼、兎の体はどんどんと肉を引き千切られてその姿を失っていく。そんな中で仔狼は表情1つ浮かべずに、ただひたすらに黙々と食事をしていた。

 兎の中に残っていた草を見て仔狼は思う、どうして自分は草を食べる事ができないのだろうと。草が餌だったら、こんなに悲しい思いをしなくて済むのに。ああ、草食動物になりたい。

 いつしか、仔狼は強くそれを願うようになっていた。





 このオオカミは、俺なのか? どこか懐かしさを感じる。奥底に眠っていた記憶が、ゆっくりと蘇ってきやがる。





 仔狼と仔鹿は隣に並んで向かう。その目的は分からないが、後ろから1匹のオオカミが必死に止めようとしていた。

 大切な仲間が遠い場所へ行ってしまう。それを恐れてオオカミは泣いていた。





 あいつは・・・ルウ!





 大きな湖に浮かぶ島とも言えない岩。そこに仔狼と小鹿はいた。二匹は何かを呟き、複雑な動きでお互いを回り始めた。しばらくすると、どちらともなく湖へ飛び込む。そして、そのまま世界は暗くなった。





 「大丈夫か、ルンバ」

 「あ、ああ。なんとかよ」

 ずいぶんと長い時間が経った気がするけど、一瞬の事だった。今のは俺の記憶なのか? どうして、今まで忘れていたんだ。一体俺の身に何があったってんだ。

 「続きを話すよ」

 「頼んだ」

 ビンバ、お前は何を知っているんだ。

 「晴れて姿を変えるのに成功した俺達だけど、それには条件があったんだ」

 「条件?」

 俺はごくりと生唾を飲み込む。

 「寿命を全うできなかった時は、元の姿に戻るんだよ」

 なるほど。俺の中でだんだんとつながってきたぞ。

 「つまりお前は」

 「情け無いことだけどな、俺にはオオカミとして生きていくだけの力が無かったんだ」

 「ビンバ・・・」

 少ししんみりとした空気が流れた。



 つまり俺はあの時ルウに喰われたからオオカミに戻ったということか? 信じられねえ。だけどさっき浮かんだあの光景、もしもあれが俺の忘れていた記憶としたら。

 「なあ、どうしてお前は急にこの事を話してくれたんだ?」

 ビンバのおかげで、少しずつ思い出せてきた。

 「ルンバが何も覚えていなかったから・・・かな」

 「え? どういう事だ?」

 確かに覚えちゃいなかったけどよ。どうして忘れていたのか、いや今でも思い出したとは言わねえな。少し脳裏に浮かんだだけだしよ。体が変わったショックのせいかもな。

 「ルンバがオオカミになって、色々と困らなかったかい?」

 「そりゃあ、色々とな」

 餌にも慣習にも色々と泣かされた。辛い毎日を思い出して、思わず俺の表情がひきつる。

 「草食動物を喰い殺す事に対して、嫌悪感とか罪悪感とか」

 「そりゃあ、感じたさ」

 今でもいい気分はしない。諦めたってのが正しいな。

 「俺には分かる。俺も一度はそれに悩んだから。だから、ルンバに同じ思いはしてほしくなかったんだ」

 「そうか・・・ありがとう! 俺はもう大丈夫だぜ!」

 妙に明るく、ガルガルと唸る。



 夕陽が射し込む中、いつかのように俺達は笑いあえた。それだけで、今は充分だ。





2回分同時投下
<2013/03/06 14:55 ぶちマーブル模様>
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