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忌々しき存在 − 旧・小説投稿所A
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忌々しき存在

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ばぐっと口を閉じる音と共に一瞬にして視界が真っ黒に染まる

何も見渡せない暗闇の中、不気味な音が何層にも重なりぞっとするような孤独感を味わい、どっと冷や汗が身体中の肌から滲み出た

むわあぁ…と血の混じったつんとする匂いが鼻をつき表情が歪んでしまう

べちゃっ…と粘液の溜まり場のような所に頭から突っ込んでしまい多量の唾液を口に
どろりとした生卵のような生々しい感触が喉を下り、凄まじい嘔吐感を覚えてしまった

うんうんともがけばもがく程に粘着テープみたく両手両足が絡め取られて身動きがとれなくなるまま、あっという間にクモの糸のようにねばあ〜っとした唾液の糸に縛り付けられていく

「「旨い……ジュルッ」」

狭いか広いか口腔中に竜の声が反響してくる
両耳を塞ぎたくなるような轟音
じたばたと体を必死に起こそうとしたら、バランスを崩し舌の上を転がり落ちてしまい、ぼちゃんと涎の浅瀬に落っこちてしまった。
いやだ…いやだ…死にたく…バチャバチャ
心が生を懇願する前に体が動く
何も…考えられない…ただ、ただ生きようと逃れようともがいた

だが、どれだけ必死になろうともちっぽけな足掻きだったのかもしれない
蠢く底に足をすくわれひっくり返り波のうねりに巻き込まれ流されるがまま

「むぐぐ…ゴポッ…」

いや…いや…いやだ…考えたくもない…唾液に溺れて死ぬなんて…!
ああ…
もぅ・・駄目だ…いしきがぁ…

グッ

なにか

ジャバアアァン

何かが巻きついて…

「「おっと、溺れさせる所だった…。」」

反響して響く轟音にまたククッと笑い声が気味悪く響く口の底から大蛇のごとき巻きつかれ躰がサルベージされ、無理矢理意識を引き戻される

「…ぅグ

戻された意識と共にずっしりと重くのし掛かってくる疲労感
そして…舌の重量感…
呻きすら洩らすことが出来ないほど、赤い肉塊が密着し身を押し潰そうとしている

じり…
じとっ…と、唾液にまみれたでこぼこな肉が顔を覆う
ぐちゅ…といういやらしい音を立てながら、顔にまんべんなく塗り立ててくる……無防備なじぶんが腹立たしく思える…無抵抗に支配され舐められる屈辱…、自分がちっぽけな存在であることを思い知らされる…

______ぅううわあああ!!!
ドゴッドスッドコドスッ!!!

気がついたら、抵抗してた
必死に叫びながら、悔しくてくやしくて…とにかく舌を押し退けようとちっさい拳で殴って殴ってなぐって、か細い足で何度も何度も蹴ってた

怯むこともない巨大な赤蛇にがっちりと体を固められそのたびに締め付けられ…手足の力が抜ける

悔しい…
くや…しい…!
あぁあ゛ぁっ…

このまま意識がどっかに飛んでしまえばいいのに…
やるせない気持と屈辱が次々と膨らみ続けて…

巨大な赤に蹂躙され翻弄されてゆくうちに叫び、は無声に変わった

はぁ…はぁ…

もぅ 駄目だ…
やっぱり、駄目なんだ。
どうあがいても_…
舌を…どこを蹴っても、殴っても、遊ばれてる…
どれだけ足掻いても玩ばれる自分が悔しくて…悔しくて

ぼとっ と舌から解放されまた柔らかい舌肉に体を包み込まれる……悔しさと共に伝わってくる竜の体温、温もりに妙な感情がはたらく
……気持ちいい…?

いや…そんなわけ…

……っ
突然地面が傾いたが、そのまま叫ばずに無抵抗にごろごろと舌の上で転がされる最早叫ぶ気力さえ無い…なんてそんなわけじゃない…けど、けど、気持ちいい……体力も底をついていき、疲労がピークに達すると、反射的に言葉を発してしまった

「た、…たす…けて……」
声に反応するように、ぴたっと舌が止まって

……「「お前は我の餌だ…。それを分かって…言っておるのか?」」……

一瞬だけ浮かんだ希望をフッと打ち消すようにその言葉の意味がずっしりと舌よりもずっと重くおしつぶされそうだった

「…「「あ、そうだ。餌は…噛まないとな…」」

「か…噛む!」

希望は・・・あった。
もう少しで楽になれる・・という…。
沈黙を破るかのように発せられた言葉に怯えた
噛むなんて…あんな鋭い三角形に挟み込まれて…!
頭が勝手にフル回転して、自分が悲鳴を上げ噛み砕かれていく映像がざらざら流れる

ぐぐぐ…舌が動かされ、体が牙の方に運ばれていく…
……うっ
這い出ようともがくと赤い絨毯に力強く巻き上げられ…あろうことかギラリと光る処刑台の間に… !

「うわぁぁーー!!」



…迫りくる牙から目を反らす度に走馬灯がいくつも過ぎ去っていく
……やめて…やっ グサッ
「うぎゃああああぁぁぁ!!!!」

無慈悲に勢い良く牙が胸に突き刺さる
一際に狂った断末魔が口内に響き渡った

そのまま噛み砕いてくれれば終わるのに…!
終わらない痛み 終わらない苦しみ

涙が出る代わりに
表情が歪む代わりに
意識が歪む 視界がぼやける
舌の上に乗せられる自分

ああ……ああ………………………………………………………………ん……………・・・?
時間でも止まった…のか?一向に舌は自分を運ぼうとも弄ぼうともせず
竜の息だけが身にふわりとかかる

「な、何をする気だ…?」
ま、まだ・・・!

「「怖いか?恐ろしいか? 」」

終わらない…の?

「そ…そんな…事・・は」
恐ろしい、怖い、怖いに決まってる…けど、

「ククッ では教えてやろう…今からお前を『呑み込む』のだ」

音もなく声だけはっきりと…聞こえた
呑み…込む?

いやま…「ま…待てよ!」

反射的に声が出てしまう
ずるずると滑る身を止めるように無意識に舌にしがみついてしまう

「「食い物に情けをかけてどうするのだ?」」

やっぱり怖い。…怖い!
それでも叫べない…怖すぎて叫べない…!

「ひいっ…」

下の方が気味悪く蠢いている…何よりも
ぐにゅぐにゅという音が、不気味でたまらない

舌が手を振りほどくように激しく揺れる

「や、止めろ!!」

この手だけは…!離したくなっ…!
ズルッ

「うわああぁぁーーっ!!」
バランスを崩してしまい一気に肉洞の中へと突っ込んでしまう

グニュッグニュッグニュ

「や、止めろ…」

肉が蠢いて蠢いて
足掻く手を足を包み込むように動き下へ下へと追いやられて行く

あっという間に…ドチャ
ズリュウウ…グチャ…
広くて…どこか優しい空間へと落とされてしまった

あ…意識が…もぅ……

グニュッ…ズズズ









******

「………ん」
広く薄暗い空間で目が覚めた
地面が硬い…
じわっ…とゆっくり体を起こす
(……っ
痛い。身体中につうと痛みが走る


「…起きたか

頭上から声が響く
さんざんに耳に響いた
あの赤竜の声だ。

「なんで…」

なんで…まさか…また…喰われる…のか?

「……ちょっと試してみたいことがあるのだ」

目線を右に外し少しくぐもった声で竜は言った

試す…?
また喰われるんじゃないのか…?

俺にはその言葉の真意が分からなかった




うお…長くなってしまったΣ(´□`;)


<2013/01/28 22:43 イオン×長引>
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