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忌々しき存在 − 旧・小説投稿所A

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忌々しき存在
− 本能の道標 −
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「こいつ、お前の知り合いだろ?」

緑竜の眼は激しく揺れ動いていた。これでは動揺しているのが丸わかりだ。こんなに感情が分かりやすい竜は初めてだ。やはり人間の感情は単純明快だということか。

「あ……ぃや違」

「そうかそうか・・・なら、こいつはお前が喰え。」

緑竜の見つめる先の人間を指差しながら、間髪入れずに言葉を重ねてそう言った。

「…えっ」

緑竜は狼狽えたままだった。

「そぅら…喰わないなら我が…」

と言いながら、ガクガク震えて動けない人間を摘もうと手を伸ばしたその時、

「やめろぉ!!」

緑竜はバッと獲物を奪い取った。その俊敏な動きには少し感心した。

―――ぐぁああ!!

獲物が呻く。力が強すぎるらしい。経験を重ねれば力加減は分かるだろう。

うわああ…

獲物が呻く声を聞いて手を離すということは、まだ人間の感情も残っているということであろう。少しぐらいは人間としての感情を持っていても面白いか、そんな有り得そうなことがふと頭をよぎった。

じゅるる…

感情は人間だとしても、本能は既に竜になっているようだった。人間を見る目が獲物を追いつめるときの鋭い眼をしていたのだ。
そして、ついに餌をぽいと口の中に放り入れた。緑竜が少しニヤリとしたように思われたその瞬間、

ぐちゅりぐちゃり

我は驚いた。緑竜は野生の竜と同様に、本能の赴くままに獲物を噛んでいた。
実に面白い。元人間とは到底思えない、やはり我がこいつを緑竜にしてやったのは正解だったのだろう。
それからしばらく噛み続けていた

緑竜がゴクリと音を立てて飲み込んだところで、我は口を開いた。

「ククク…気分はどうだ?初めて食べた人間は、旨いだろう?」

恍惚の表情で腹を撫でている緑竜に言い放った。
そう言うや否や、緑竜は唐突に恍惚の表情から血の気を失って青ざめていく。

「うゎ…ぁ…俺は…はっ!」

すると緑竜はすぐさま吐き出そうと、腹を強く押さえ始めた。

「吐き出しても無駄だ。お前は友を噛み砕いたのだぞ?」

「伝氏…を…殺した…?」

「あぁ、そうだ。口内にまだ“血”の味が残っているだろう?」

緑竜が慌てて口内に舌を這わせていると、その顔はますます青白くなっていき、しまいにはその場に崩れ落ちた。ドシッと重々しい響きが洞窟内に広がる。
我は緑竜の隣に歩み寄ると、緑竜の頭を撫でてやった。

「触るな…」

緑竜は我の腕を掴むと、突き返した。震える声は波のようにうねりながら我の耳に届いた。

「旨かったのだろう?なら素直に旨いと言え。」

「…」

あくまで緑竜は沈黙を突き通すようだ。

「なるほど、味が分からなかったのだな、ならば、もっと喰え。」

我は震えながら座っている人間の数人を握り、緑竜の目の前で手を開いて見せつけた。

「嫌だ…」

「ならば無理にでも喰わせてやる。」

と言うと、掴んだ人間をくわえると、緑竜の頭部を両手でがしっと持って、無理矢理口を開けさせた。

「や、止めろ!」

だが緑竜は、無理矢理口を閉じようとするわけではなかった。やはり人間を旨いと感じるのだろう、その証拠に緑竜の口から顎にかけて唾液がだらだらと溢れ出ている。
我は、くわえていた人間を口移しをする要領で緑竜の口内に投げ入れた。我の唾液も交じっていい味になる…かな。
我が手をゆっくりと離すと、緑竜は口を閉じた。目は少し暗がりに沈んでいたが、吐き出そうとはしなかった。

そう言えば、我はまだ喰っていなかったな。口内に残っている人間の味をジュルリと舐めずると、我は残った5人を片手で掴んで口の中にボイと投げ入れた。
口の中に広がる少し塩気のある旨味、ボキッと噛めば広がる血の味、

「旨いなぁ。そう思うだろう?」

にちゃくちゃぁと行儀の悪い音を立てて人間を舐めながらそう緑竜に言ってやる。
緑竜は既に口の周りが血で紅色に染まっていた。

「いや!、そんなことは…」

緑竜はふいと我から視線を逸らした。

「旨いのなら旨いと言え、自分の気持ちに嘘をつくな。」

説教するような口調でそう言うと、我はガブリと人間を噛んでみた。血が口内に流れ出して、微かに呻き声が聞こえる。そして肉片と化した人間を口内でにちゃにちゃと咀嚼する。いつもの人間より旨い味がした。

「…」

「う、ま、い、言ってみろ。たったの3文字だろう?」

我がぐいと顔を緑竜に近づけて言う。少し口に残っていた肉片が飛んだが、とくに気にせずに顔を近づけていた。二匹の鼻息が狭い空間の中で渦巻いていた。

「う…ま……くない」

「フン、まあ良い。」

鼻息を吐くと、ゴクリゴクリと人間を飲み下した。人間の微かな抵抗が心地良い。
緑竜もそれにつられたのかゴクリと音を立てた。暫くは味と喉越しに酔いしれていたようだったが、はっと我に返ってまた顔が青白くなっていく。

「もう、嫌だ…」

緑竜は躯と声を震わせながら俯いてそう言った。

「なら死んでも良いのだぞ?我がお前の亡骸を喰ってやるからな。」

「なっ…」

緑竜は驚きの表情でぱっと我の方に向いた。眼は今にも悲痛の雫が落ちそうだった。我は緑竜に向かってにっと血の付いた牙を見せつける。

「ククッ 冗談だ。」

ホッと安心したのか強ばっているのか分からないが、緑竜は我の方をじっと見据えていた。

「む?どうした?」

「いや、何も…」

緑竜は背を向けた。

「そうか…我はもう寝る。好きな場所で寝て良いぞ。」

と言うと、重たい躯を大儀そうに持ち上げ、出口の方へ歩いていった。

「ど、どこへ行くんだ?」

緑竜は振り返って、焦ったような口調で言う。どこか寂しげな表情にも見えたが、それは気のせいだったかも知れない。

「外で星を見ながら寝る。ククッ 寂しくなれば来るが良い。この洞窟を出たすぐそこだからな。もし寂しいというなら、一緒に寝てやっても」

「さ、寒くないのか?外で寝て…」

緑竜は我の話を途中で止めて尋ねてきた。やはり心細いのだろうか。

「脆弱な人間とは違う。風邪などは引かぬぞ、お前もな。」

「…」

「…おやすみ」

我は押し黙っている緑竜に背を向けながらそう言うと、ズシッズシッと音を立てて外へと歩いていった。




雲に隠れて星は殆ど見えなかった。
空気はからっとしていて、たまに吹く風が我の躯にぶつかって渦巻く。

「ククッ 面白くなってきた…」


我はその場に伏せて躯を丸めると、じわりとやってきた眠気に身を任せて瞼を下ろした。








ふぅ…ww
<2013/04/23 01:10 イオン×長引>
消しゴム
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