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暗翳の空 解き放たれし竜 − 旧・小説投稿所A

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暗翳の空 解き放たれし竜
− 森の主 −
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まだ少しばかり明るい夜、

とにかく走った。

初めての森に好奇心を抱いている場合ではない。

ただ、ひたすら、木と木の間を走り抜けてきた。

速度は少し落ちてしまっていたが、足を休めることはなかった。



…少し喉が渇いてきた。
水筒の中の水も、あと僅かである。
ゆっくり準備する暇も無かったので、殆ど手持ち無しといった状況だ。
食料もない、水も少ない…
幸いにもこのあたりは、立派な木の実がなっていたため、食料の心配はないだろう。

近くにあった木を揺さぶると、幾らか木の実が落ちてきた。
それを拾い集めると、一つだけ口に咥え、残りをバッグに詰め込んで走り出した。

木の実には水分が多く含まれている
その為、喉の渇きは収まってくれた

ドンッ

「痛っ」

安心した矢先に体に痛みが走る。
何だ?と辺りを見回すが何もない。
ただ木が何本か並んでいるだけだ。



…ぶつかった物が見当たらないのも当然だった。
その正体は、大きなガラスの壁だったのだ。

何故この森の中にこんなものが…?

理由を考えている暇はない。
その透明な壁に沿って歩いていくと、ガラスの切れ目を発見した。
切れ目、と言っても、人一人が余裕で通り抜けられるほどの大きさである。

壁に疑問を抱きつつも、先へと急いだ。


それから数分すると、道の左右の木々の連なりが向こうの方で途切れていた。
「町か…!」
棒になりそうな足を無心で動かした。


それは町では無かった、
その代わりに、町ほどあろうかという位の大きさの湖があったのだ。

「うわぁ…大きな湖……」

近寄って、水を手で掬ってみる。
水はほとんど汚れていないようだ。
そのまま口に含むと、力が漲るような、そんな気がする。
僕は水筒に残っていた水を飲み干し、そこに湖の水を入れた。

それからその場に座り、先程採った木の実を頬張る。
それにしても、この木の実はかなり美味である。

足も疲れていないといえば嘘になる。
いつもなら歩いて行くし、休憩もあったので、幾分疲れというものは感じなかった。
僕の予想では、ここが森の半分ぐらいだろう。
ここまで約1時間。少しぐらい休憩しても…


ブクブク…


湖から泡が出てきた。
僕は身構えた。
そういえば、この森に入った者は皆、帰ってこない…

…軽はずみにこの森に入ったことを後悔した。
が、後悔してももう遅い。
とにかく早くこの森から出よう、休憩している暇はない。
そう体に言い聞かせようとしたとき、


ザパァァン!


激しく音を立てて水柱が立った

「私の住処の水を盗むなんて…許せないねぇ。」


唸るような声と共に、水柱から姿を現したのは…


「おや、私の好物までも食いおったか…」


もうほとんど何も見えない真っ暗の中、二つのぎょろりとした眼だけは黄色に輝いている、

それは、竜だった。

本の中だけの存在だと思い込んでいた。
まさか本当にいたなんて…
目の前にいるのに、まだ僕は信じる事が出来ない。

僕はその場に尻餅をつき、その巨大な躯体を震えながら見ていることしかできなかった。


「覚悟した上の行動だろうねぇ?」


その大きな顔を近付けてくる。
生暖かい鼻息が、ぼやけさせていた恐怖を生々しいものにさせていく。





(^ ^)
<2012/10/19 17:40 長引×どんぐり>
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