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偽りの日 − 旧・小説投稿所A
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偽りの日
− No.1 −
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…ザッ…ザッ…

僕は今、山の中を彷徨っている。


昨日の夜、寝る時までは間違い無く自分の家に居た。
だが、朝起きた時、僕は山の中に居たのだ。
夢なのかもしれないが、身体の感覚は鋭く、とても夢の中とは思えない状態だった。

山は広く、今もこのようにして、下へ下へと麓を目指して進んでいるのだが……何時まで経っても似たような景色しか見えない。

木々の隙間から覗く麓の景色、だが、それは何故かぼやけて見えなかった。
目が悪い訳ではない、曇り硝子をかけたかのようにそこだけが霞んでいる。

…ザッ…ザッ…

今はただ…歩く事しか出来ないのだ。



それにしても、今さら思ったが、音が全く無い。

聞こえるのは僕が歩く時の音ぐらい、一度立ち止まってみると、完全な静寂が空間を支配する。

ここは……時間が止まったかのような空間だった。



…ザッ…ザッ…

この山は何となく、懐かしさを感じる物があった。

…ザッ…ザッ…

何だか分からないが、記憶の隅に存在する風景、その風景もぼやけて見えない。

…ザッ…ザッ…

ぼやけた風景がはっきりと分かる時、僕は帰れるのだろうか……

…ザッ…ザッ…

…本当はずっと気が付いていたんだ。
心の隅に追いやり、気が付かないふりをしていただけだった。










僕は立ち止まってから

《一 歩 も 動 い て い な い》


<2012/04/01 01:16 ラギア>消しゴム
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