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狼と狐のち日常 − 旧・小説投稿所A

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狼と狐のち日常

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視界は暗闇で、何一つこの眼が捉えるものは何も無い。
捉える事が出来るのは、我が呼び出した存在のみ。

「あ? こ、ここは……?」

聖なる夜に愛すべき者を失った、悲痛なる世界から
召還した存在。

「汝は鍵ではない……よって、我の供物となるが良い」

我の姿は分からぬ。強いて言うならば、三頭の獣。
とでも言えば良いだろうか。

「ど、どういう事だ!? ぐっ……」

下種の言の葉などいらぬ。
荒々しく押し倒し、三つ首から各々、熱気、冷気、毒気の吐息を零す。
その吐息に当てられ、獲物はぐったりと力を失った。

「舐めてやろう……」

抵抗の灯火を失った人間の胸板をじっとりと舐め上げる。
右で脇腹を、左で下半身を舐め上げる。
同時複数に与えられるこそばゆさと、高い粘性の唾液に包まれ
感じさせられる生暖かさから逃げ出そうと、身を捩る。
しかし、抵抗も出来ぬ様に毒を廻しているが故
弱々しく、動きを見せるだけ。
三つ首責めの場所を変え、さらに舐め上げ
唾液を塗りたくっていく。
この空間に響くのは我の獣声、獲物の喘ぎ。

「あ、ちょ……んっ////」

しかし、舐めるのも飽いた。
そう思案した我は、右首で獲物を一口で口腔内に収める。
そこは、火を司る首。
口腔は熱く、従って唾液も熱い。
その口腔で獲物をいたぶってやる。
舌で執拗に舐め転がし、ぐちゅぐちゅと余す所無く熱唾液を塗り込んでいく。

「ひゃあっ……あ、熱いっ!」

その何とも言えない声を聴いてしまったせいで
中央、左の口端から止めどなく涎が滴ってしまう。
そこれ我は獲物を空中に吐き捨てる。
体を右方向にスライドさせ、今度は左首で獲物を捕らえる。
左首は一転、氷を司る。
口腔は凍てつき、粘液も氷水の如き冷たさ。
今度は冷気で命を削るとしよう。
もう十二分に味わった。
今度は肉を味わおうか……
ぐにぐに、あぐあぐと獲物の体に牙を突き立て甘噛む。
左首の鋭牙は、例えれば氷柱。
接点から急激に体温を奪い、さらに凍てつかせる。
我が牙を立てる度に、獲物は氷像に近づく事になる。
舌や顎を蠢かせ、右奥歯から左奥歯まで
存分に肉の感触を楽しませてやる。
時折、ガリッと硬い物を砕く音が漏れるが。

「あっ……っ……」

獲物の声は随分と弱々しくなった。
著しい環境変化から、体温を奪われ
冷酷な氷鎧を纏い
その命は風前の灯であろう。
我は左首から獲物を吐き出し
獣眼……六つの獣眼で獲物を見下す。

「た、助け……」

命乞いは聞かん。
今度は中央の首で、獲物に食い付く。
中央は、毒を司る。
動きを封じる程度の毒から、
触れる、嗅いだだけで致死量の毒まで……
そして、口腔内に引き込んだ獲物に
体内生成した毒液を浴びせかける。
あらゆる神経を増幅させる猛毒を。

「我の一部になれる事を誇るが良い」

我は天を仰ぎ、獲物を喉に滑り込ませた。

 ごくん……

喉が膨らみ、胃袋に嚥下されていく。


「次の召還の糧になる……後悔する事は無い……」




<2012/03/31 22:57 セイル>消しゴム
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