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狼と狐のち日常 − 旧・小説投稿所A

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狼と狐のち日常
− 『一緒に探すよ』 −
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「一緒に探すよ、フラウ」
「……感謝します、マスター」

と、言ったもののこの人数から
王女だけを見つけるのは至難の業だ。
さらに、この迎春祭自体に来ていない可能性もある。

「王女の動向とか分かる?」
「う〜ん……分かりません……」
「そっか……」

困ったな……手がかり無しか……

「ん、ヒスイじゃねぇか」
「えっ?」

横から声が飛ぶ。
僕は東雲、フラウはフラウ。
’ヒスイ’とよばれる節は無い。
僕とその人物が挟まれている状態なのか。
しかし、次の瞬間には納得した。

「あっ、お久しぶりでございます」
「ん。元気そうで何よりだ」

’ヒスイ’と呼ばれたのはフラウだった。
その声の主とは知り合いのようで、何やら嬉しそうだ。
銀の体毛に身を包み、双眸には大空が広がっている。

「きゃー! 誰かっ、取り返してっ!」

叫び声に自分を含めた、周囲のヒトがそちらに向く。
こういうお祭り事では人通りが急激に増加する。
無論、それに乗じて犯罪者も増え
機会を窺っている。
今のもそうだ。
油断をついた、ひったくり。
悪人面の虎獣人が婦人からバッグを奪い取り
こちらに向かっている。

「ヒスイ。ほら」
「えっ……」

その狼獣人はフラウを前に押し出した。
何をするかと思えば、その手に刀を握らせた。
よろめいたフラウが体勢を整えるのと
ひったくり犯の接近とは、同時だった。

太陽に白刃が煌めく。

「ひぃぃっ!?」
「一歩でも動けば、首を刎ねますよ?」

それは余りにも一瞬だった。
峰で両膝に一撃、正座の体勢で動きを封じ
神速の抜刀、首筋に刃がぴたっ、と寸止めされた。

「’膝落とし’。膝を峰で粉砕、2太刀目で首を刎ねる」
「あなたは?」
「名乗る時はそっちからじゃねぇのか?」

なんてやり取りをしている内に、フラウはバッグを取り返し
持ち主に返しており、納刀しこちらに帰っていた。

「シャオン=ルッツ様です。私の刀の師ですよ、マスター」
「そういうことだ。刀の腕は鈍ってないようだな」
「シャオン様には及びませんよ」

フラウは深く頭を下げ、顔を上げると刀を返した。

「僕は東雲 海羅です。フラウがお世話になったようで……」
「フラウ? あぁ、ヒスイの事か」

一瞬、戸惑いを浮べるシャオンだったが
その名がヒスイである事が理解できたようで、小さく頷いた。

「あ、あの……ルーテル王女は……?」
「嬢ちゃんか? そこの喫茶店でお茶してるが?」
「ほ、本当ですか?」
「あ、フラウっ」

シャオンの言葉を聞いた途端に、フラウは目の色を変えて
僕の制止も聞かず、指差した喫茶店に走り出してしまう。

 * * *
 
「あの……ルーテル王女、これをお返しします」
「王女は止めろと言っているだろう?」

フラウは前髪に留めていた髪飾りを外し
机の上に、王女の前に差し出した。

「ヒスイ……今はあの男に従えているのか?」
「あ、はい……王女の仰る通りで……」
「……王女は止めてくれないか?」

ルーテルのさりげない言葉に
フラウは返答に困った。
テーブルの下で手を組み、強く握った。

「お前はもう、私の秘書ではないんだ。お前に王女と呼ばれると、縛っている気がしてあまり良い気はしないのだ」
「……申し訳ありません……王女様」
「……強情だな」

紅茶を口に運び、溜息を零すルーテル。
注意された事を早速、反故にしたフラウは身を竦めていた。

「そうやって、新しい主を困らせているのだろう?」
「困らせてな……」

フラウは突如、言葉を切った。
それは思い当たる節があったからだった。
東雲の家事手伝い。
少しでも負担を軽くしたいと言う、フラウの心遣いが
東雲自身の負担になっている事を
フラウ自身も理解している。
しかし、それはフラウが良かれと思っている事ー

「ふふ、図星か。きっと主はお前の献身的な態度に、嬉しい思いをしているだろうな」

それも分かっていた。
東雲は時折、フラウに労いの言葉をかけていた。
それで東雲の嬉しさを感じられる事も分かっていた。

「しかし、行き過ぎた優しさは、時に刃となるからな?」
「……はい」
「その髪飾りはヒスイ。お前が持っていろ」

フラウは目を丸くした。
本来、王女が持つべき秘宝を
本人自ら’いらない’と主張しているのだ。

「’礼’をさせてくれなかったからな。’返品’は受け付けんぞ」
「な、なら私からお礼を……」
「いらん。もう、十分’礼’なら貰っている」

間を置いて、頷いた。
それに続いて、ルーテルは肩の力を抜くと
手を挙げ、こう言ったー


「すまんが……ミルクティーをこの者に」




<2012/03/30 23:45 セイル>消しゴム
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