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狼と狐のち日常 − 旧・小説投稿所A

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狼と狐のち日常

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「ソル〜、いるの〜?」
家の後ろの日陰。
そこがソルの主な定位置だ。
菫と椛はよく窓から見える庭に2人一緒にいる事が多い。
ガレイドは……知らない。
「んぁ? オレの寝込みを邪魔する気か?」
「いや、違うから」
重ねた両前脚に預けていた頭を上げ
いかにも不機嫌そうな表情を浮べていた。
「さっきは砂羽を引き止めてくれてありがとう」
「礼はいらねぇって言ってるだろ」
眉間に皺を寄せ、徹底的な不機嫌さをアピールしてくる。
しかし、何を思いついたのか唐突に表情を綻ばせ
口を半開き、湯気の零れる吐息を吐き始めた。
口端からだらだら、と涎が滴り落ちる。
これは……まずい……
「礼には礼が必要だったな……なら、オレの舌を楽しませてくれるな?」
「っぶ!?」
腹部に衝撃。
驚異的な衝撃で壁に吹き飛ばされ、したたかに背中を打ち付け
息が詰まる。
「苦しそうな声出してんじゃねぇか♪」
呼吸を整える暇もなく、ソルの前肢が僕を壁に押し付ける。
ギリギリ、と壁が悲鳴を上げる程の力で封殺され
酸素すら貪れない。
「ほらほら……もっと哭いてみろ」
足先で首を締め付けられたままで
手首に近いほうで殴打される。
誰に比べてもソルだけは手加減を知らない。
徹底的に獲物をいたぶる。
「おっと、悪ぃ。握り潰す所だったな♪」
酸欠にも陥りかけ、肋も何本か折れそうな雰囲気で
ようやく深紅の封殺が解かれた。
「はぁ……酷いよ……ソ……」
ソルが口に溜め込んでいた何かを突然吐き出した。
それは唾液だった。
酷い疲労で身動き一つできずに、頭から唾液を被ってしまう。
ほぼ熱湯に近い温度の唾液。
「熱っ!? あっ、っぅ!!」
さらには菫にも劣らない程の粘性。
液体の熱湯等は違い、体に纏わりつき
皮膚をじっとりと灼く。
「熱熱熱熱っ!ソ、ソルっ!!」
「熱いか? 大丈夫さ、ちょっとの火傷で済むからな♪」
流石に、これには怒りを露にする。
しかしソルは意にも介さず、笑顔を浮べている。
「ん……前脚に涎が垂れてるな……ほら」
「はぁ……?」
深紅の毛並みが唾液に濡れ、地肌にべったりと貼り付いてしまっている。
その左前脚が目前に荒々しく置かれ、ソルは僕を見下している。
「お前が舐めて綺麗にしろ……そうしないと、分かってるだろ?」
「……」
渋々、頷いた。
ソルの命令に背いた事は過去に一度だけあった。
その時は悪夢を見た。
口腔内で数十カ所を噛まれ、流血沙汰。
確か、右腕も砕かれた。
あの時の衝撃と激痛は今でも覚えている。
思いっきり蹴飛ばされた記憶も……
とにかく、病院で一命を取り留めたのは
襲われてから、4日後……
「んっ……んん」
抵抗感丸出し、恐る恐るソルの唾液を舐めとる。
ねばねばの熱湯が自分の唾液と混じる。
獣独特の臭いが口内に広がった。
「げほっ……がはがはっ……」
当然の様に噎せ返り、咳き込んでしまう。
その様子にソルが不満そうに舌をならした。
「仕方ない……なっ!」
「!? んんんん〜〜!」
咳き込む僕を尻目に、右前肢が頭部を覆いつけてきたのだ。
暗闇に放り出され、べたべたの毛皮に埋められる。
突然の事柄に抵抗を始める。
しかし、抵抗する度に押し付ける力は強くなり
抵抗も抑えられてしまう。
その間もソルはくつくつ、と喉を鳴らしているだけ。
まだまだ力は序の口だとも言いたそうな
余裕と優位、支配感を零し出している。
たかが僕の抵抗など無に等しいと。
「滑稽だぞ、東雲」
「っ、あっ」
がぶり、と腹部に噛み付かれる。
牙は腹部に深く食い込む程度だが、服は完全に喰い破られている。
そのまま前肢の拘束からは解放されるものの
食い付かれたまま、宙に攫われる。
そして、何度も咥え直す。
回数を重ねる度に甘噛みは程度を増し、
遂には服が地面に破れ落ちた。
それと同時に、口腔内に引き込まれてしまう。
「んっ……あっ、ちょっ……」
苦しそうな喘ぎに反応したソルが舌で奥に運び込む。
そこに待ち受けていたのは鋭牙。
奥牙に挟まれ、上から迫るのは……上顎の牙。
ガッ、と牙が皮膚に食い付く。
「痛い痛い痛い〜、痛いからっ!」
菫や椛のような甘噛みの比ではない。
流血沙汰にはならないにしろ、痛みは酷い。
皮膚を突き破らんかの勢いで激しく甘噛みされる。
粘る唾液に絡められ、ぐちゃぐちゃと舌で掻き回され
再び奥牙で噛み付かれる。
体全体、頭髪すら唾液に犯され互いが糸を引く程。
「唾液で蕩けそうだな♪」
「あっ……うぅ……」
「もうへばったのかぁ? しゃあねえな……呑み込んでやる」
鬼畜なソルは、呑み込むと言うよりも
舌で喉に放り込む、と言ったほうがしっくり来るだろう。
頭からずぶり、と喉肉に突っ込まれ
一拍置いて全身が呑み込まれた。
ごくり……ずぶずぶ……
なんとも鈍い音を奏で、今日はソルの胃袋に収まってしまう。

……生存報告。
東雲は生きております、胃袋内で監禁中なり。



<2012/03/21 17:38 セイル>消しゴム
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