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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜 − 旧・小説投稿所A
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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜
− 新事実 −
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「ん……朝ですか……」

ラティオスは欠伸を飛ばした。重荷を載せたような目蓋を開けるのに苦労する。
首を右に倒すと、布団を口元まで引き寄せたレムリアが穏やかな寝息を立てていた。
見ていて微笑ましい光景の選手権があったら、まずベストスリー入りは間違いない。

「…………寒い……ですね…」

夏場なら難なく起きられるのだが、やはりこの時期は布団が恋しい。
それでも欲望に鞭打ち、布団から出るタイミングをカウントする。三度の空振りを経て、ようやく起き上がった。
渇いた喉がモーニングコーヒーの温かさを求めていたが、場所が旅館とあっては叶わぬ夢だった。

布団を離れて始めて、まだ誰も起きていないことに気付いた。バビロンはレムリアの向こうで死んだように寝入っている。
カイオーガとギラティナに至っては、ボンドで接着したように頭をくっ付けて眠っていた。
本当、何故この二人はこんなに仲が良いのだろう。


「あれ……マスター?」

どういう訳か、隅に敷かれたロンギヌスの布団はもぬけの殻だった。
他を起こさないようそっと近づき、敷布団に触れてみる。完全に冷えきっていた。トイレに起きたという訳ではなさそうだ。


「う〜ん……何ごと〜? フルーツでも落ちてきたの?」

気が付くと、カイオーガが片目を開けてこちらを窺っていた。
無音で移動したつもりだったが、彼の聴力の前では無意味だったらしい。
自分そっくりの大欠伸を放ち、よいしょっとジャンプで起きる。
その影響でギラティナの頭が枕からずり落ちた。

ラティオスはカイオーガの隣で、無機質に眠っている巨大な龍を指さした。

「に…兄さん、これ何ですか?」

「ん、ボクの海龍だけど」

「……いや、それは分かってるんですが…」

今度はもっと正確に、海龍の腹に出来ている膨らみを指さした。
半透明な肌の向こうに、見覚えのある青い服の色が潜んでいる。
カイオーガは無きに等しい首を傾げた。

「…あれれ、こいつ何か食べちゃったのかな?」

「そもそもどうしてこれを出したまま寝てるんですか?」

「防犯用だよ。リーグで寝る前に作っておくのが習慣付いちゃって……つい♪」

「つまり、この人はそのガードマンに捕まった侵入者……ってことですか」

そうそうと呟き、彼は海龍の頭を咥えた。
太すぎる麺を啜るように、自然な動きで龍の巨体を呑み干していく。
恐らく海龍を単なる水分として扱えるのは、世界広しと言えどカイオーガだけだろう。
他の者にとっては、強大な水の化け物でしかない。

10秒後、カイオーガは海龍の尾を満足そうにチュルリと吸い上げた。
必然、その腹に収まっていた獲物は、カイオーガの胃袋行きとなる。
今度は彼のミルク色のぽこっとしたお腹に、またひとつ小山が出来た。中で熟睡しているのか、抵抗する様子は見られない。


「…泥棒さんはトロントロンの刑だからね」

「相変わらず酷いことしますね」

「えへへ……寝ているところを襲う方がずっと卑怯だよ♪」


このとき獲物の正体がロンギヌスであることに、彼らはまだ考えが届いていない。

結局その可能性が浮かび上がったのは、寝起きの効果で頭の冴えたバビロンが、カイオーガにそれを指摘してからだった。
どうやら彼は完全に消化する気でいたらしく、畳に敷いたタオルに吐き出されたロンギヌスの服は、ところどころ小穴が開いていた。
バビロンがあと数十分寝坊していたなら、本格的な消化運動が行われていただろう。

しかし朝っぱらからそんな死線を潜ってきたロンギヌスに対しても、やはり彼は容赦なかった。
ふやけて柔らかくなっているマスターの頬に、彼の強烈な平手打ちが飛ぶ。
本人曰く、"朝のスキンシップ"らしい。


「起きろ、いつまで寝るつもりだ。もう10時過ぎてるんだぞ」

えっ、と叫んだカイオーガの目が壁の時計に走った。7時30分ちょうど。
どうやら寝坊助を起こすには定番の、ウソの時間を教えるという作戦らしいが、相手がロンギヌスでは効果が薄いようだ。ウーンと微かに唸っただけで、すぐにまた鼾をかき始める。


「起き…ませんね……」

「ボクのお腹が気持ちよかったんだよ、きっと♪」

「大丈夫だ、問題ない」

バビロンはロンギヌスの耳元に顔がくるように寝転がった。
よからぬ事を企んでいるのか、ジャンクフード好きには似合わない白い歯を見せている。



「ようマスター。相変わらずファンタスティックな寝顔だな」

「・・・・・」

「どのぐらいかって? そうだな……まあ、例えて言うなら…」

「・・・・・」

「思わずディープキスを決めてしまいそうなぐらい、かな」


ーーーガバッ!!

ロンギヌスはゴムが弾け飛ぶような勢いで跳ね起きた。
嵐が去った後のような髪を急ピッチで整え、完璧な角度で敬礼のポーズを取る。


「皆さん、おはよう。今日も一日を有意義なものにしましょうね」

「……単純な人ね…」

「ああ、レムリア君。ご機嫌麗しゅう」

「麗しくないわよ」

呆れて肩を落とすレムリアの背後で、バビロンが得意げに笑った。


=============



十分後、ミロカロスが巨大なお盆を頭に載せて運んできた。今朝は和食らしい。
アジと納豆とアツアツの味噌汁、そして湯気が立ちのぼる白飯。
ギラティナが唾を呑む音がした。


「おはようさんどす〜♪ 熱いうちにおあがりやす」

朝っぱらから爽やかな笑顔だ。
ロンギヌスはカイオーガの体液で硬くなった髪をほぐしながら、彼女に対する尊敬の念が生まれるのを感じた。
ミロカロスは食事を各自の前に並び終えると、カイオーガの方を向いた。


「そう言えばあんさん、クルーザーの予約入れてくださりましたよね」


予想だにしなかった発言に、ロンギヌスはワカメが気管に入りかけた。
ゲホゲホとむせ返りつつ、カイオーガを問い質す。


「ク、クルージングっておい…..お前いったい何時の間にそんな予約を…!!?」

「えーっと…..昨日かな。日常に刺激を加えようと思って♪」

「刺激って….....」


そしてロンギヌスは重要な点に気づいた。
おそるおそるミロカロスを振り返り、震える唇で問いかける。


「あ、あの…..お値段の方はいったい如何ほど…」

「ふふ….….消費税込みの後払いで…」

ミロカロスは首を傾げ、にやにやと口元を吊り上げながら価格を発表した。









「0円どす」

「えっ….タダ?」

「ええ。おたくは招待券をお持ちですさかい、貸し出しは無料どす。一般なら10万円は頂きますが…」

「う….あ、あなたは天使だぁぁぁ…!!!」


感極まったのか自分でも訳が分からず、ミロカロスの人間さえ丸呑みに出来そうな巨体をがっしりと抱き締める。
最高にむっちりした肌に頬ずりすると、サービスでキュッと緩く巻き付いてもらえた。
このまま獲物のように呑み込んでもらえたら、本気で昇天してしまいそうだ。


「ふふ….随分と素直なお客さんやねぇ….あんさんらも手焼いてなさるんかいな?」

「「「どうぞ持って帰ってください」」」
「ついでに処分してください」

ラティオス達が呆れ果てようが知ったことじゃない。
今はこのスベスベした肌に身を委ねることこそ最優先事項ーーーー

という思考回路に陥ったところで、ロンギヌスはハッとした。




「ミ….ミロカロスさn….カイオーガが入れたクルージングの予約、いつになってますか?」

「そやね…..あんま覚えてへんけど、お昼過ぎだったように思います」

「も、もし良かったら…..俺らと一緒に遊びませんか?」


これが相手の胸に密着した状態で言うセリフなのかと、ロンギヌスは数秒前の自分を恥じた。
しかしそれでも儚い思いを汲み取ってくれたようで、ミロカロスはにっこりした。



「うちもお昼休みになら時間が空きますさかい….是非♪」

「ほ、本当ですか!!? やった…ッ…!」

告白が成功した中学生のように、ロンギヌスは空気を殴って喜んだ。
ミロカロスは自分を温かい「締め」から解放すると、戸をガララと開けた。

「それではうちは仕事がありますさかい、これで戻らせてもらいやす。またお昼に♪」

「ご苦労様でしたーー」

最後に優しく微笑み、ミロカロスは職場へと戻っていった。
ロンギヌスは緊張が一気に解けたようで、座布団の上にバフッと倒れこむ。
しかしそれと同時に、レムリアが何かに気付いたように顔を上げた。
彼女もカイオーガに話があるようだ。



「…..そう言えば、あなた免許持ってるの?」

「え、何の?」

「何のって….クルーザーよ。人間の乗り物って、大抵の場合は免許が要るんでしょう?」

「…やだなぁ…♪ 僕そんなの触ったことすら無いよ」

「え…...」

衝撃の発言に、ロンギヌスは顔がスケートリンクになった気がした。
免許が無ければ、当然、クルーザーなど出せるはずが無い。
それに既に準備してもらっているクルージングを消すとなれば、またミロカロスに世話を焼いてもらう羽目になる。(厳密には違うだろうが)

ロンギヌスにとって、それは何としても避けたい事態だった。


「バ、バビロン….…」
「断る」
「まだ何も言ってないだろ!!?」
「私はお前のドラえもんになった覚えは無い」
「う….....」

グサッと突き刺さるような返事だったが、彼に頼むときは生半可な覚悟ではだめだ。
こちらが脅すような気迫でいかないと、あっさり会話をへし折られる。


「で、でも…じゃないとお前だってクルーズ行けないぞ!!?」

「フフ…大体な、私が海に出ると思うのか? 知らないなら言うが、水もホコリも苦手なんでね」

「い、嫌なら来なくてもいいけど、なんか策を立ててくれ策を….!!」

「ほう…..来なくてもいい、か…」

バビロンは不敵な笑いを称えながら、テーブルの上に、ひょいと二枚のカードを放り投げた。
顔写真も付いていることから、一目で免許証だと分かった。



「え….これ、バビロンの免許…?」
「す、凄い…!!!!」

ラティオスが驚愕した理由を見ようと、ロンギヌスも身を乗りだした。
取得した免許の種類を表示している項目に焦点をあわせる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー

大型---1
普通---1
大特---1
自二---1
小特---1
けん引---1
大型二---1
普通二---1
大特二---1
けん引二---1

ーーーーーーーーーーーーーーーーー



「嘘だろ…..全部の免許を持ってる….!!?」

「え、ちょ…ちょっと見せて!!」

免許証がカイオーガとレムリアの手に移ると、ロンギヌスは彼が投げたもうひとつの免許証に目を向けた。



「やっぱり…...クルーザーの免許だ」

「いったい、何個持ってるんですか…?」

「知らん」


バビロンは何食わぬ顔で味噌汁をすすっている。
それを一回でゴクゴクと飲み干すと、バビロンは口元に付いた汁を舐めとりながら言った。


「まあ、そういう訳だ。行きたいのは山々だが…..何しろマスターが来るなと言うんでねぇ…」

「ちょ、そんな事言った覚えはないぞ!!!」

「フフ….じゃあ来いと?」

「あ、当たりま…...じゃなくて…..き、来てください」

「さて、どうするかな…ぁ…」

バビロンは圧倒的な権力を手にしたような表情で、壁に背をもたれさせる。
ロンギヌスはカイオーガとラティオスを味方につけ、必殺おねだり作戦を実行に移した。


「お願いだッ! 今日だけ運転手を務めてくれ!!」
「あなたが主役です」
「お願いマイメロディ」
「人生の大先輩っ!」
「ミジメな僕らに光を….」
「先週君のポテチ摘まんじゃったの僕なんだよぉ!!」
「あっ、兄さんそれ言っちゃ駄目」



「フン….やなこった」

「た、頼むよ…..帰ったら最高級のポテトおごるから!!!」


この誘惑ならば効果バツグン、ロンギヌスはそう確信していた。
しかしそんな期待を蹴るようにバビロンは溜め息をつき、やれやれと呟いた。


「はぁ…...分かってないな坊主…」

「ぼ、坊主…….!!!」

「何でもかんでも高級、一流、上等なんて言葉をつければ、私が釣られると思ってるんだろう?」

「いやっ…そ、それは….」

「生憎、私はポテトの高級さを追求しちゃいない。質より量….だろう?」

「は…はぁ…..」

「だから某ファストフードのLサイズポテトを、出来たて30個。いいな?」

「う…..うん….」

「…もし嘘ついたら、自殺したくなるほど恥ずかしい画像をネットに流させてもらうぞ」

「え….わ、分かったよ買うよ!! 買ってやる!!」

「フフ….そうと決まれば話は別だ」


免許証を自分のバッグの上へ放り投げ、バビロンは立って大きな伸びをした。
腰に両手をやりながら、珍しくカイオーガに自分から話し掛ける。


「おい、クルーズ何時だって?」

「んっとねー…...1時だったはずだよ」

「あと6時間。さぁどうやって時間を潰すかな….」


バッグをゴソゴソとまさぐり、バビロンは竜用のヘッドホンを取り出した。
グリーンの蛍光文字で「SONY」と刻まれている。


「….6時間経ったら電話してくれ。そこら辺り散歩してくる」

「あ、ああ…...」

ヘッドホンで周囲の世界を遮断した後、バビロンは首をゴキッと鳴らしながら部屋を出ていった。
引き戸がストンという音を立てて閉まる。








<2012/03/13 21:57 ロンギヌス>消しゴム
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