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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜 − 旧・小説投稿所A

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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜
− 白と黒 −
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ーーロンギヌス失踪事件の片がつき、みんなが呑々とした時間を過ごす午後。


「バビロン……良かったら散歩にでも行かない? 私と」

「……は?」

レムリアは、丸々とした腹を上にして寝転ぶバビロンの元へと歩み
寄った。スーパーコンピュータの頭脳ですら計算外の発言に、バビ
ロンは口を半開きにして訊き返す。彼女はさっきと同じ台詞を繰り
返した。


「フフ、何故私なんだ」

「あら迷惑だった? お気に召さないなら取り消してもいいんだけど」

「……別に。丁度、雑務も終わったんでね」

雑務といっても彼の場合、ロンギヌスが猛スピードで書いた帳簿の
ミス確認ぐらいだ。バビロンは腹筋に力を込めて起き上がると、天
井すれすれの高さから部屋を見渡した。カイオーガはラティオスと
将棋を指しており、彼が見たところ、若干ラティオスが優勢のよう
だ。ロンギヌスはいつの間にか姿を消している。

「まぁ、無断外出で構わないか。おい金ピカ」

「…………」

「分かった分かった。それじゃあギラティナ先輩」

「何だ、どこか出掛けるのか?」

バビロンはレムリアの方向に親指を向けた。

「こいつがどうしても私と二人になりたいらしいんでね。マスター
が帰ったら伝えてくれ」

「……他人に物事を頼むときにはそれ相当の……」

「はいはい、何とかお願いしますよ、先輩」

礼儀に関するギラティナの演説が始まるのを見越したバビロンは、
早々にレムリアを連れて部屋を出た。引き戸をぴしゃりと閉め、彼
女の右手を引いて歩きだす。真新しい木の廊下が、彼らの重みでミ
シミシと唸った。


================


思考パターンがロンギヌスに似たのか、彼らの向かった先は遊戯室
だった。扉を抜けた瞬間に押し寄せる熱気に、レムリアは思わず息
を呑む。「捕食者」の名がよく似合う野獣のようなモンスター達が、
種族の壁を越えてゲームに没頭していた。それこそ親睦が目的の緩
いカードゲームから、食うか食われるかを賭けた博打まで。その結
果としてか、室内には明らかに腹に膨らみを持った者が何匹もいた。
さらに混雑の中から幾度となく、ゴッキュンという強烈な音が漏れ
聞こえていた。


「……まるでカジノだな、驚いた」

「ある意味、本物のカジノより迫力あるかもね」

「"3万円以内なら現金を賭けることも可能"……か。どうする?」

「遠慮するわ。そんなにお金無いし……それに賭博はあまりすきじゃないの」

「フフ……まあ女王様がそう仰るんなら仕方ない」

「だ、誰が女王よ!」

「YOU」

バビロンは先程よりも力を込めて彼女を手を掴んだ。ほぼ満席のル
ーレットやバカラ台の合間を、縫うようにくぐり抜けていく。
一方レムリアは、彼の歩速についていくだけで精一杯の様子だ。

「捜すのは御免なんでね。はぐれたら自力で帰ってもらうぞ」

「わ、分かったわよ……」

その言葉に気圧され、レムリアも彼の手をギュッと握り直した。
まるでカイロを握り込んだように、バビロンの熱い体温がじんじ
んと伝わってくる。力むあまり、彼の血の流れさえも感じられそ
うだった。

三十歩は歩いただろうか、遊戯室の最も奥側の壁にたどり着いた。
竜の脚でそれだけ掛かるのだから、この遊戯室も相当広い。壁際
には竜や巨大ポケモン用の重厚なベンチが置かれ、誰かが座って
くれるのを待っていた。

「……とりあえず座りましょうか。今は混雑してるみたいだし」

「フフ……仰せの通りに」

「だからその喋り方はやめてって言ってるでしょ!!」

しかしそのとき、何者かが背後から彼らを呼び止めた。二人が
同時に振り返ると、ここの従業員の風貌をした男が走ってくる
ところだった。ゼェゼェと荒々しい呼吸を整えながら、唖然と
している二人に声を掛ける。

「はぁっ……はぁっ……お、お客様、入場券はお買い求めにな
られましたか!!?」

「入場券? い、いえ……買ってないけど……」

「そ、それは困ります!!」

従業員の男が喚き散らすのには理由があった。
実はこの遊戯室、午後になると客足がドッと増えるため、旅館
側は500円の入場料を取ってバランスを保とうとしているのだ。
ところがそのチケットの販売係が諸用で不在だったため、レム
リア達は券を買いそびれた、という。


「そ、そう言われても……と、とにかくゴメンなさい、知らな
かったの」

「上司から、無断入室は厳しく取り締まるよう言われています。
これも一応規則ですので、お名前と部屋の番号をお願いできますか?」

「……おい」

困惑するレムリアを覆い隠すようにバビロンが立ち塞がった。


「午後はチケットが必要になる旨を明示しなかったのはそちらの責
任。販売員を置き忘れたのもそちらの責任。私達にどんな非があっ
たのか教えて頂こうか」

「し、しかしうちの規則では……」

「規則。規則。規則。ああ、なんて素晴らしいんだ。規則さえあれ
ば自分たちの失態も揉み消すことが出来る。さぞかし便利だろうね
ぇ……」

「お、お宅はいったい何が言いたいんですか!!?」


相手を嘲笑うかのような独特な笑みから一転、バビロンは深い溜め
息をこぼした。顔を従業員の目と鼻の先まで近づけると、無表情で
舌をジュルリと舐めする。


「……別に? ただ、遺書も残せないまま消えゆくあんたが不憫だな……と思っただけさ」

「ひっ……し、失礼しましたぁぁぁッ!!!!」

従業員は蒼ざめた顔でポケットから入場券を二枚放り投げ、電光石
火のごとく来た道を駆け戻っていった。彼が人混みの中に消えたの
を確認して、バビロンは床に貼りついた入場券を拾い上げる。

「フフ……儲けた儲けた」

「相変わらず酷いことするわね……1000円ぐらい払ってあげれば良
かったじゃない」

「冗談じゃない。ポテトが3つは買える」

片方のチケットをレムリアに押し付け、バビロンは自分のを手荒く
ゴミ箱に突っ込んだ。レムリアは大袈裟に肩をすくめた後、入場券
に振られた番号に目を落とした。

「あら、ラッキー7じゃない。何かいいこと起こりそう♪」

「どの数字が出る確率も同じだ。そんなこと言ったら言ったらどの
数字でもラッキーになる」

「はぁ……ホントに夢も希望も無いのね、貴方って」

しかしそんな溜め息の後にも関わらず、レムリアは彼の横顔に笑み
を咲かした。バビロンのそういった部分に可愛さを見い出してしま
ったのは、誰よりも彼女自身なのだ。意を決し、バビロンの隆々と
した腕にそっと手を絡める。バビロンはあからさまに不意を討たれ
た顔で、しばらくは真っ赤な目を見開いたままだった。


「ふふ……とりあえず座らない? 立つの疲れちゃって」

「あ、ああ……」





<2012/04/06 18:25 ロンギヌス>消しゴム
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