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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜 − 旧・小説投稿所A

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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜
− 二度目の閃光 −
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ロンギヌスの行方が分からなくなって3時間が経とうとしていた。
最初は軽んじていたカイオーガ達も、待てど暮らせど帰ってこないことに、ようやく焦りを露わにするようになった。
クルーザーを基地として懸命に海中を探し回るが、一向に見つかる気配もない。
それも当然……今彼は、海中に眠る巨大な軟体生物の胃に収まっているのだから……


「馬鹿な……これほど探してもいない…?」

「一応、旅館中の部屋も回りましたけど……僕の見る限り、先に戻っている様子はないですね」

一番事を神経質に受け止めているギラティナが、四度目となる唸り声を上げた。
涙ぐむミロカロスに至っては、今にも自責の念に押しつぶされそうな状態だ。
異性の相手が得意なラティオスが必死に慰めようとするが、あまり実っていない。
もはや"ロンギヌス発見"という特効薬でしか、彼女の涙は止まらないらしい。


「肝心なのはあの海底の遺跡だが……隅々まで確認したのか……?」

「ボ、ボクとミロカロスさんでちゃんと確認したよ。でもT字路の先はどっちに進んでも行き止まりになってて……捜しようがなかったんだ…」

「……バビロンさん、調査進みました?」

「悪いが答えはNOだ。"ブロブ"とやらが微弱な電波でも発していない以上、私には手の施しようがないんでね」

全員をさらにもう一段階落ち込ませる一言だった。
バビロンの担当はあくまでリーグのサーバー管理なのだから、出来ないのも無理もない。
その代わり、彼は"ブロブ"に関する情報をわんさかと集めていた。
習性や細かな生息場所はもちろん、外見、捕食方法、呑み込まれて救助された者の感想など。
それらのお陰で、ブロブが何処に潜んでいるかはおおよその見当が付いていた。
しかし…………


「おかしい……ミロカロスの証言やバビロンの情報からして、このT字路の辺りが最も怪しいのだが……」

ギラティナは旅館から貰った海底遺跡の地図上で、T字路の分かれ目に翼を押しつけた。
しかしカイオーガやミロカロスによると、そこには誰も居なかったという。
ギラティナはまるで姿も見えない、足跡もない幽霊を追っているような気分に陥った。
これだけ捜して見つからないとなると、ロンギヌスが本当に実在の人物なのかさえ疑いたくなってくる。
と、そのとき…………


「あっ、あいつら……っ……!!」

カイオーガが横を通り過ぎていった船を睨み、ギリリと歯を唸らせる。
乗員が見えたのは一瞬だったが、その姿はギラティナの目にもしっかり焼き付いていた。
広々とした甲板で、やんややんやとお祭り騒ぎで歓声をあげている連中。
中には半裸の状態で、マイクを手に歌い狂っている輩もいた。

しかしカイオーガの怒りの矛先は、船尾でゴミ袋をまとめている男の2人組だった。
なんと船上パーティーで出た大量のゴミを、ロープで吊るして海に廃棄しようとしている。
さらに悪質なことに、片方の男はたっぷり吸い殻を溜め込んだらしきタバコのケースを、ポイッと海に放り込んだ。
ギラティナはそれを機に、カイオーガの瞳に炎が宿ったように見えた。


「………殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる喰べてやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる」

「ギラティナさん、キレた兄さんを抑えるのは貴方の仕事ですよ」

「そ、そこはやはり私なのか……!?」

90%無理な相談に思えたが、やむなくギラティナはカイオーガの肩に手を掛ける。
しかし彼が「気持ちは分かるが……」と前置きを言うその前に、既にカイオーガの舌は船尾の2人組に向けて伸びていた。

ーーーうわっ……なんだこr……
ーーーおい、逃げるz……わあっ…!!!

全速力の船に瞬く間に追いついた舌先は、器用に男たちの首や腕を絡めとった。
甲板の仲間たちや操縦士に助けを呼ぼうとしているが、口さえも彼の舌肉に丸め込まれている様子だ。
ギラティナは即座に止めようとしたが、同時にゴミ袋の塊が海に落下するのを見てその手を引っ込めた。


カイオーガの実力もあって、不届き者の捕獲には1分も掛からなかった。
操縦士は前を見ているため船尾の仲間が消えたことに気付けないらしく、そのまま彼らを残して船を進めていった。

カイオーガは中に海洋投棄の犯人を含んだ舌の肉団子から、唾液をぴちゃぴちゃと甲板に滴らせていた。
団子からは唾液まみれの細い腕が2本、不格好に突き出している。

「……兄さん、そいつらどうする気ですか?」

「ひひひ……ホントなら死刑どころじゃ済まさないんだけどね〜。今回は特別に、2週間の監禁ってことでいいや♪」


顔に匹敵する巨口を開け、舌を引き戻して男らを肉の牢獄へと送り込むカイオーガ。
彼が舌袋から誰かを解放するシーンなど、親睦の深いギラティナでさえ見たことがない。
ということは「2週間」という刑期も表向きだけで、現実は永久に体内に幽閉するつもりかもしれない。

そんなギラティナの心配をよそに、カイオーガの右胸の辺りがぷくんと膨れた。
今回の者たちを含めると、既にポケモン1匹、人間4人を宿しているということになる。
彼の胸部のレントゲンを撮ろうものなら、きっと凄まじい写真となるに違いない。


「ひ、酷いっすよ先輩……俺というものがありながら……そんな奴らだけ優先的に食べちゃうなんてっ!!!」

「ちょ……は、離してよ…ッ…!!」

鼻血ブーのまま飛びついてきたダークライを、カイオーガは渾身のヒレの一撃で操縦席へと叩き込む。
しかし彼はそれを物ともしない回復力を見せ、執拗なまでにカイオーガの背中を追いかけ回す。

彼らの騒々しい鬼ごっこやら、ロンギヌスの迷子やらで、ギラティナの鬱憤はもはや限界に達しようとしていた。
しかしとうとう彼が「うるさい!!」の罵声を浴びせようとした刹那、ダークライの一言が場の空気を硬直させる。


「先輩、さっきの奴らだけじゃきっと足りないッスよ!! 俺も先輩の腹に埋めてほしいっs……」

「「「埋め……?」」」

ダークライの何気ない言葉が引き金となって、とある可能性が弾き出される。
参謀役のバビロンやギラティナだけではない。
ラティオスからレムリア至るまで、全員の脳裏を閃光が貫いたようだった。
カイオーガにしてみれば、まさに数式の答えを導き出したときと同じ感覚だっただろう。
背中にチューチューと吸い付くダークライには目もくれないまま、唖然と空を見つめている。


「そうか……埋まってるんだ、マスター……」

「だから、遺跡を捜しても見つからない訳ですか」

「フフ……私としたことが。その可能性に気付きもしないとはな」

バビロンは空間に巨大なデスクトップを立ち上げると、この海域の断面図を素早く映した。


「……此処だな。遺跡のT字路の真下に、陥没によって3メートル程の縦穴が出来ている」

「つまり……そこにブロブが潜んでいたと? そしてマスターを引き込んだというのか」

「まぁそう言う話だ」

「ちょ……ちょっと待ってよ…」

カイオーガがゆっくりと耳元に手を持っていった。
背に粘着テープのように変態が貼りついているが、気に留めない。


「その縦穴って、T字路のすぐ下に出来てるんだよね? 僕、そこもちゃんと覗いてみたけど……おっきな穴なんて無かったよ?」

透明度の高い海であるだけでなく、水中でのカイオーガの視力は相当良い。
そんな彼が人間を引き込めるような大きさの穴を見逃すとは、到底誰も思えなかった。
しかし突然、ダークライが何かを閃いたように顔を上げた。
背中に陣取ったまま、そっとカイオーガの耳に口を近づける。


「せ、先輩……もしかして障害物があったんじゃないスか?」

「……どういう意味? あと早くそこから降りてくれないかな」

「いや〜……僕も先輩がそんなデッカい穴を見落としたりする筈は無いと思うんスけどね。もしその穴の上に、海藻とかが密生してたら話は別かなぁ……っと思って」

「あっ……」

突如、カイオーガは思慮深い表情に切り替わり、うーんと遺跡を捜索したときの記憶を引っ張り出す。
一方、ダークライは一秒でも彼の背中にいられることが嬉しいようで、卑屈なニヤニヤを称えている。





「……ちょっともう一回捜しに行ってくるね。君も来る?」

「えっ……先輩が自ら俺にお誘いを持ちかけた!!?」

「ちっ、がーう!!! 今回は役に立ってくれそうだから持ってくだけだよ」

まるで便利な道具のような扱いだが、それがダークライのマゾヒストとしての心を掻き立てたようだ。
カイオーガはアヘ顔の彼を背負い、遠足に出かける児童のようにギラティナに微笑む。


「えへへ……それでは隊長!! エターナル突撃兵、これよりロンギヌス救出に行って参ります!!」

「え、ああ……き、気をつけてな」

「は〜い♪」

角度の整った敬礼の後、カイオーガは背泳ぎの飛び込みのように、勢いよく海に突っ込んだ。





<2012/03/27 20:43 ロンギヌス>消しゴム
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