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バベルの塔 − 旧・小説投稿所A

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バベルの塔
− 剣が折れるまで −
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「(正直ナメていましたよ…..ここまで追い詰められる日が来るとは…)」


ーーー大富豪、最終戦。
ラファエルはカードを寄せ集めながら、心中でバビロンに賞賛と敬服を贈っていた。
まさかの2 対 2という、自分でも予想だにしなかった事態。
己の失態が、ここまで敵の追撃を許してしまったのだ。

社員がラファエルからカードを受け取り、素早くシャッフルを施す。
その後は通例どおり、12枚ずつのカードを二匹の手元に配った。



「(貴方の、命を捨てるその覚悟は素晴らしいかもしれない。
しかしそれは本当の決意ですか?….口先だけではありませんか?)」


そうだ。見せかけに決まっている。
架空の決意を見せつけて、こちらを畏怖させようとしているだけ。
自分の死が確実となれば、流石のバビロンも震え始めるだろう。
何しろ敗北の影はジリジリと、彼の背後から迫り寄ってきているのだから。


「おい…...誰だ? こいつらは」

バビロンの背後や両際に立つ、黒ずくめ猛々しい男達。
ウォリアは丁寧な口調で答えた。


「ハハ…人工竜といえど、死や敗北は恐怖の対象での。
まさか無いとは思うが、君が約束を破棄して逃げ出す可能性も否定できんのじゃ。
だから身勝手を承知の上で…保険を打たせていただいた」

「フフ….まあ確かに妥当な考えだ。だが…...公平感は崩れるぞ」

「…何が言いたい?」


バビロンはラファエルに人差し指を突きつけた。

「私には用心棒を付けておきながら、こいつのバックには自由を許す?
おいおい、それは酷い話じゃないのか…?」

「・・・・・・・」


バビロンはチッと舌を打った。
都合が悪くなると、こういう身分の高い連中は100%黙り込む。

バビロンは肺に溜めた空気を一気に吐き出し、カードを伏せてテーブルに置いた。
ラファエルの表情が曇る。


「まぁ構わないか…。
そっちが勝負の約束を反故にすれば、こちらもそれ相応の対応を取らせてもらうまで」

「「「……!!!」」」

バビロンが背中を掻くような動きを見せる。
その直後、手にはクシャクシャに丸められたメモ用紙が握られていた。
どうやらソファと背中の間に、ずっと隠していたようだ。
そこに書き込まれている内容を、咳払いの後に読み上げる。


「…8月、30億円以上の資金を横領。12月、ソープ社を不法に吸収。4月、国家支援金の不適切使用…」

「な、なんだ…それは….」

「フフ…会長ともあろうお方が、まさか知らない筈が無いだろう?
お前らが過去にしでかした悪行の数々だよ….」

ウォリアが顔を青ざめる様子を前に、バビロンは口元を吊り上げた。
彼は用心のために、この会社の裏事情や秘密をいくつも手中に収めていた。
もし彼らが大富豪に負けたにも関わらず、襲い掛かってきたり、ロンギヌスの返還を拒むような事があれば、彼はすぐさまこれらの情報を世間に流す。

メモの内容を一瞬でネットに公開するなど、バビロンにしてみれば造作も無いことだった。


「ここで生まれて一年間、お前らの悪どい商業戦略を横目に育ってきた私だ。
おまけにハッキングを仕掛けた際に…いくつか頂戴したスキャンダル情報もある」

「き、貴様なんと無礼な口を….!!!!」

右側にいた社員が怒り狂い、彼のこめかみに銃を押し付けた。


「…勘違いするな、貴様はあくまで勝負をさせてもらっているだけだ。
ウォリア会長の指先ひとつで、勝負取り止め、即座にお前を拘束することも出来るんだぞ!!」

「…ふぅん….それは失礼したな…」

バビロンはメモを握った左手をグーにしたまま、両手を顔の横まで上げる。
素直に降参を認めた彼にフンと鼻を鳴らし、男は銃を引っ込めようとした。




「あ、そうだ言い忘れていた」
「なっ…ああアッ!!?」

ガシッ…グイッ…ガチャッ…!!

突如、バビロンはその男の首根っこを掴んで引き寄せると、ヘッドロックを掛けて身動きを封じた。
さらには拳銃を勢いよくもぎ取り、銃口を男の口にグイッと押し込む。
男は痛みと恐怖に呻いたが、彼は一顧だにしなかった。

咄嗟に他の社員たちも銃を取り出したが、バビロンは薄ら笑いを崩すことなくそれを制する。


「…まぁやめとけ。こいつの喉が吹き飛ぶぞ」

「あ….ががッ…..ご…」

「フフッ…お前もそんな引き攣った顔するな。
いっそ、引き金引いて一緒に心中しようか?」


銃を使うまでもない。
腕っ節の良い彼がちょっと脇に力を込めれば、か弱い男の首など一瞬で砕けてしまう。
だがそれを犯せば、瞬く間に後方からの弾丸がバビロンの頭を撃ち抜くだろう。

バビロンは銃を捨て男を解放した。
首を押さえながら、男は怨みの目で彼を睨めつける。


「….フフ、悪かったな。こういうの一度やってみたかったんだ」

「貴様…!!!!」

「だが解ったろう…今は勝負中、第三者が横から下手なちょっかいを出すな。
今度妨害するような動きがあれば…..首と胴が繋がっている保証はないと思えよ」


ドスの効いた声で釘を刺されたためか、男に言い返す素振りはなかった。
ただ先程よりも少し離れた位置で、バビロンの監視に戻った。


「….待たせたな、勝負開始だ」

「いえ……」

ラファエルに向き直ると、バビロンは再びカードを手にした。
打って変わって勝負の雰囲気が、二匹をドームのように包み込む。
互いに『死』『消化』『敗北』などの単語が頭の中を駆け巡っていた。

最後の心理戦、その幕が上がった瞬間だった。



=========



先攻権は四回戦の敗者、ラファエルにあった。
負けが込んでいたにも関わらず、彼のカードのバランスは悪くなかった。
最強である2は無いにしろ、Aが二枚とKが二枚。
さらに同じ絵柄で6、5、4が揃っているため、階段を起こすことも可能だ。
バランスを重視するのであれば、これは確かに最高の札ぞろいかもしれない。


「(さっき無かった8があるのは幸いですが…..ただ、
2を持たずというのは多少痛いですね…)」


猛者は持っているが、最高戦力は持っていない。
こちら側に2が無い以上、その在り処はバビロンの手札か、もう二度と使用しないであろう余り札の山の中だ。


「(初手こそ勝負の最初の分岐点…...ここで勝ちの流れを呼び込まなければ…)」

12枚のカードを食い入るように見つめ、最善な戦法を組み立てていく。
時間制限が設けられていないのが幸いだった。どんな勝負においても焦りは禁物。
相手を待たせていることなど、思考の片隅にも置いてはならない。
何しろこれはパーティーゲームではない、両者の命を賭けた大博打なのだ。


パサッという音を立て、ラファエルは様子見の3を投げた。
バビロンはすぐさま、4でそれを切り返してきた。
彼の即決に不安を募らせながらも、ラファエルは手札から目を離さなかった。


「(流石にAやKを使うのは早いですね…..ここはひとまず7辺りで保険を…)」


その考え通りに指先を動かし、ラファエルは7のカードを提出する。
ところがカードから手を離した瞬間に、津波のような後悔がどっと押し寄せてきた。
別段、そのカードの選択にミスを感じた訳ではない。自分の考え方に問題を見つけたのだ。


「(な、何でカードを凝視してるんですか私は…!!
相手の心を探るのが勝利への近道だと…..あれほど骨身に染みていながら…!!!)」


有利。安全。確率。合理的。
バビロンがそんな縄で縛れるほど軟弱ではないことは、今までの戦いで嫌というほど思い知らされた筈だ。
それなのにまだ、「計算」や「定石」という沼に浸かったままでいる。
まだそんな浅い思考しか築けていない自分に、ラファエルは嫌気が差した。


「(負けたら…...居場所どころか命さえ…)」

負けたら死ぬ。負けたら死ぬ。負けたら死ぬ。
ただひたすらに、その言葉を心の中で念仏のように繰り返す。
それが一段落着いたときに初めて、バビロンがカードを手に取る瞬間を見ることが出来た。



ーーーパサッ。

「え…!!?」
「どうした…不満か?」
「あ、い…いえ…何でもありません….」

バビロンが場に出したカードはA、特に変わったところは無い。
だがラファエルの心拍数は、そのターンを機に上昇し始めた。

実はこの時、ラファエルの目が、勝利への糸口となるような事実を捉えていたのだ。
視線を自分のカードからバビロンの動きに向けたお陰で見つけた、まさに値千金の発見。

それは・・・・





「(まさかこいつ…..手札を並び替えてる…?)」

バビロンは手元のカードを左手に持ち、扇のように広げている。
そこから右手でカードを選択する、というのが彼の手法なのだが・・・
バビロンはさっきAのカードを提出する際、カードを扇の右寄り(ラファエルから見れば左寄り)から引き抜いてきた。

別にそれだけなら何も異常は無い。
だが前回のターンで彼が出した「4」は、その逆、左寄りから取ってきた記憶がラファエルにはあった。(ラファエルから見れば右寄り)

大富豪のルールを知っている者なら、「4」は弱い、「A」は強いと認識するだろう。
そう考えると、バビロンは弱いカードを右から、強いカードを左から持ってきたことになる。

単純な話、バビロンは強いカードを扇の右に持っていく癖があるかもしれない、ということだ。



「(これは使えるかも…...いや、確実に使えますね….)」


ところが容易に突っ込むのは危険極まりない。
その2ターンの話だけでは、その仮説が正しいとは証明できない。
ここはそれを踏まえた上で、もう一度相手の動きを観察するのが先決だ。

思いもよらぬ発見に驚愕するあまり、バビロンが不審そうな表情でこちらを窺ってきた。
ラファエルは慌てて何食わぬ顔を取り繕い、この最終戦で初となる「パス」を宣言した。
バビロンはしてやったり、という感じの顔を浮かべると、間もなく手元の扇に手を伸ばした。

彼が指先で摘んだのは、確認するには好都合な、最も左端にあった二枚のカードだった。
これらが「弱い」カードでありさえすれば、ラファエルの疑念は真実であることがほぼ立証される。
それさえ分かれば、この先どれだけ有利に勝負を進めていけるだろうか。

ラファエルの無言の懇願が漂う中、バビロンは迷うことなくダブルを場に吐き出した。







ーーー3のダブル。
ラファエルは歓喜に震えた。思わずテーブルに手を着いて立ち上がりそうになる。

間違いない。カードを強い順番に並べて持つのは、バビロンの癖だ。
彼は十中八九、手中のカードの並び替えが見破られることに、微塵の心配も寄せていないだろう。
無理もない、大富豪とはそういうゲームだ。相手のカードを覗くことは許されない。

ただし・・・



「(相手に法則性を悟られたらジ・エンド…..…)」

強いカードがバビロンから見て右側、弱いカードが左側から引き抜かれている法則性。
ラファエルはその勝利のカギを、偶然とはいえ自らの思考で導き出したのだ。
「発見」の醍醐味ともいえる優越感を、ラファエルは今バビロンに対し抱いていた。



「(まあ….本題はこれからですね…)」


達成感の愉悦にどっぷりと浸かっている場合ではない。
未だ、材料が揃っただけに過ぎないのだ。
後はどのような戦略を練っていくか、だが・・・


ひとまず、この場はKのダブルを切り捨てた。
一見は大胆に見えるが、Aのダブルという最終兵器がある以上、あまり懐で温めておく意義はない。

バビロンは一瞬、目線を扇の左に寄せたものの、すぐに諦めてパスを宣言した。


・・・・その後は数回に渡り、至って平凡な撃ち合いが続いた。
ラファエルは息を潜め、自分の発見が最大限に発揮できるタイミングを見計う。
勝ちを引き寄せられる絶好のチャンス、その機会をーーー





・・・パサッ

「(来た……!!!)」

ーーーついに訪れた最終局面。
二匹を乗せた列車は、刻一刻と終着駅に近づいていく。
数分後には勝負に終止符が打たれ、どちらかの顔が蒼ざめているに違いない。

ラファエルの手元には、A、A、8、[6、5、4(階段)]、6、5。
改めてバビロンの手札を数えてみると、自分より2枚少ない、6枚だった。


「(カードの枚数では僅かに劣勢ですが…..まあ…この程度なら問題ではありませんね…)」

罠や仕組みはとっくに築いている。
残る問題は、バビロンがこちらの計算通りに転んでくれるかどうかだった。
ひとまず、このターンの先攻権は自分にある。
バビロンのこれからの出方を熟考した末に、ラファエルは階段の456を場に捨てた。
この大富豪における大技に、バビロンが息を呑む音が聴こえる。

当然それを凌ぐ強さの階段をバビロンが持っているはずもなく、「パス」の声が響いた。


「(こいつらも一気に捨てた方が良いですね…)」

8を捨てて一瞬で場を流すと、ラファエルはすかさず6を単騎で放った。
一見、バビロンにチャンスを譲り渡すような行為に見えるが、これも彼の戦略だった。
バビロンのあの余裕の表情….あの顔は明らかに、強力なカード、もしくは8を持っている顔だ。
ならばこの6で、それを消費させてやろうではないか・・



「会長さん….この大富豪、8上がりは禁止なのか?」

「…….ああ…言うとおり…」

バビロンの質問に答えるウォリアの声を聴き、ラファエルは内臓が落ち込む気がした。
明らかにウォリアの声のトーンが険悪になっている。
恐らくは、2vs2などという大失態を招いた彼に対する信頼が折れたのだろう。

ーーだがそれも、勝負が済めば回復するに決まっている。
こちらには偶然にも発見したバビロンの癖と、Aダブルという切り札がある。
負ける筈がない。絶対に。


その証拠に、その後のバビロンの動きは、まるでラファエルの計画に沿うようだった。
彼が予測した通りの8を吐き出し、サッと場のカードを横に払い除ける。
ラファエルは心中でほくそ笑んだ。




「はぁ……っ…」


深い溜め息が漏れた。まだ一回も口を付けていないティーカップに手を伸ばす。

ーーーとうとうここまで来た。
思い返せば気の遠くなるような道だった。
断崖絶壁を登り詰めてきたような疲労と、張り詰めたままの極度の緊張。
喉を通っていった紅茶だけでは、それらは欠片も解消しない。
苦労を労ってくれる最高の薬は、やはり勝利しかないのだ。

手持ちのカード。残るはA、A、5の三枚。こうなると面倒な計算は必要ない。
誰もがAのダブルを出した後、最後の5を捨ててフィニッシュする道を選ぶだろう。
勿論、ラファエルもそのつもりだった。


「(何が来ても殺してあげましょう….このAのダブルで…)」

バビロンが扇の右端のカード…つまり手持ちで最も強いカードを切り出してくれるのを、ラファエルは息が止まる程に願った。
そんな圧倒的な懇願に応えるかのように、バビロンの手は扇の右端へと伸びていく。


「(そうですよそれそれ…...早く切ればいいじゃないですか…)」


ーーー案外行けるかもしれませんよ?
ーーー運に自信のある貴方なら、危険を顧みずに突っ走ってみては?
ーーー大富豪なんて、所詮はどれだけ勇み足を踏めるかどうかじゃないですか…


失敗を誘う言葉を胸の内で連発しながら、ラファエルは手招きをするように誘惑した。
しかしカードに触れる直前、彼の動作がピタリと止まった。
黒い爪のキラッと光る指先が、6枚のカードの上空を迷走し始める。


「・・・・・・」

「(な…そんな、まさかこの状況下で思い留まる気ですか…!!? ここまで来て…!?)」


ラファエルの望みを嗅ぎつけたのだろうか。
バビロンは思い悩むように右サイドのカードを見つめている。
まさか土壇場ならではの直感や感性で、危険を察知したとでも言うのだろうか。


「(馬鹿な….さっさと切ればいいじゃないですか…)」

鬱憤ともどかしさが噴水のように込み上げてくる。
しかし散々空中を彷徨った挙句、バビロンの指は右端の二枚のカードを掴んだ。
心に再び歓喜と安堵が蘇ってくる。


「(そうそう…貴方がそれを切りさえすれば私は…!!)」

この間、一秒が異様に長く感じられた。
バビロンが決心するのを、ただ地に根を張ってひたすら待ち続ける。



ーーー捨てろ。
ーーー捨てろ。
ーーー捨てろ。
ーーー捨てろ。
ーーー捨てろ。
ーーー捨てろ。
ーーー捨てろ。
ーーー捨てろ。

「(さあ……それを、今すぐ捨てろ…!!!!)」



















ーーーパサッ。


天が受け入れたのは、ラファエルの願い。
バビロンは右端の二枚を手に取ってテーブルに投げ捨てた。Qのダブルだった。
それが場のカードの天辺に触れるや否や、ラファエルはAのダブルを叩きつける。
身悶えしたくなる程の歓びが、彼の背筋を突き上げていった。






「・・・・・・」


研ぎ澄まされたような沈黙だった。
興奮するラファエルの吐息だけが、より一層虚しさを掻き立たせる。

バビロンの背後で待ち構えていた社員が、アッと声を上げた。
ラファエルが提出したAのダブルとバビロンの残りの手札を、「そんな馬鹿な」という表情で交互に見つめている。







「…言ったはずだぞ。私は負ける勝負はしない、と」

「だ、だから何です…? そんな御託は今さら聞きたくもな…」

「….御託じゃない。現実だ」


論より証拠だった。
バビロンは「パス」を宣言する気配など少しも見せず、今度は左端にある2枚のカードに手を付ける。





「…感謝するぞ。お前のお陰で私は、またあいつに逢える」

『あいつ』がロンギヌスなのか、他の誰かを指しているのかは分からない。
ただ彼の瞳の輝きは、明らかにラファエルを上回るほどの勝利への確信で満ちていた。

無表情に頬に涙を伝わせながら、バビロンは2のダブルを場に落とした。







ウォリアの怒声が轟いた。
それを合図にして、社員らが一斉にラファエルを押さえに掛かった。





<2012/01/23 18:49 ロンギヌス>消しゴム
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