テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル


バベルの塔 − 旧・小説投稿所A
RSS | 感想 | TOP
バベルの塔
− 同じ思考 −
|<< < 20 / 33 >>|





一方ロンギヌスはラファエルの腹の底で、「我が世の春」と「地獄」を同時に味わっていた。
ラファエルの清純そうな見た目とは裏腹に、胃の中は納豆レベルの粘液が幾重にも糸を引いている。
もがけばもがくほどに、胃壁はたゆんとした肉質をこれでもかと擦り付けてきた。


「ぐはッ…あっぶ….んぉ…!! ちょっt….強いにも限度ってもんが…」

そんな文句はいとも簡単に封殺され、じわじわと体力を蝕まれていく。
ブニブニと柔らかいので心地良いのは確かだったが、次第に感覚すら奪われていく。





「(バビロンお前…..また俺を喰いたいんだろ?
帰ったら今日の俺を馬鹿にして….ポテトでもせしめるつもりなんだろ?)」


我ながら何を言っているんだろうか。
同じ人工竜の中だからなのか、この中に居ると、バビロンと不可思議なネットワークで結ばれている気がした。


「(だったら勝てよ…..ホラ吹きでも…狡猾でも…嘘つきでもいい。お前なら…..)」


抵抗する気力が、水を失った植物のように萎えていく気がした。
ムチムチと圧迫してくる胃壁を押し返すのを諦める。
いざ温柔なそれに身を預けてみると、意外に苦しさは和らいでいった。



「(出るんだろ…...こっから…..)」







ーーーーーーーーーーーーー







きっかけは、年老いたウォリアが咳き込む音だった。
そのことが勝負に集中していたバビロンに、改めて彼の存在を気づかせたのだ。

そしてそんな些細なきっかけから派生してくる、ある思考・・・・

勝利への糸口….第二戦を制する確率を、飛躍的に高められる何か。






「(そうだ…....このラファエルの性格、忠誠心…...その裏をかけば、あるいは…..)」


….が、決して必勝法のようなおいしい策ではない。
あくまで机上論であり、間違えばまたしても敗北…..

それに第二戦を負けるということは、三戦目以降に「勝たなければ」という大きなプレッシャーが掛かるということ。
この二戦目、バビロンにとっては、精神的にも負けられない戦いだった。






「(いや…...どんなに汚い勝利の鍵でも、もう絶対に落とさない)」


勝機をつかんだにも関わらず、それを手離すようでは生き残りなどありはしない。
チャンスは自らの手で作ってこそ、初めてそこに価値が生まれる。

バビロンは意を決し、その土台を作りにかかった。









「(フフ….この顔つきといい…まさに何かを企んでそうではありませんか)」

ラファエルは心中でほくそ笑んだ。
一戦目の勝利の余韻に浸っている場合ではない。バビロンの行動に目を光らせる必要がある。



「…おい」

「はい?」

「カードを渡せ…..私がシャッフルする」

「あ、どうぞ…」


テーブルの中央には、一戦目で捨てられたカードがこんもりと山になっている。
ラファエルは警戒心を維持したまま、それを手でバビロンの前に押しやった。

しかし彼はそれに手を付ける前に、会長席のソファに座っているウォリアに顔を向けた。



「…...会長さんよ。ひとつ頼みがあるんだが構わないか?」

「ほう? 言ってみたまえ」

「…..賭け金の変更だ。ただしこちらは何も変えない。負けたらマスターは好きにしていい」

「…ならばこちら側の賭ける物を変えろというのかね。いったい何をどうしろと?」

「つまり…...」


バビロンは余っていたジョーカーを引っ掴み、会長めがけて手裏剣のように投げつけた。
カードは見事な曲線を描き、会長の顔さえ切り裂けそうな勢いで飛んでいった。


「な…何てことを!!」

ラファエルは激昂しながら、人並み超えた瞬発力でカードに追いつき、そしてウォリアに触れる寸前で止めた。
ウォリアは目の前にシュウシュウと煙を上げるカードがあるというのに瞬きすらせず、ラファエルの行動を当然のように見ていた。

ラファエルの罵声が響く。


「何という愚行を…..誰に攻撃したか分かっているのですか!!?」

「フフ.….だが今ので分かっただろう? 会長さん。私が最も消したいのはあんただよ。そんなエリート竜の命より、あんたが消えてくれた方がよっぽど好都合だ」

「…....クククッ…その要求を私が飲む…..君はそう考えるのかね」

「ああ、考える」


ウォリアから見れば、バビロンの瞳には確かな自信が溢れていた。
だが当然、返す答えは決まっている。




「誠に申し訳ないが、却下させてもらうよ。そのラファエルは、言わば私の最後の防衛線。
君はその線を素通りして私を倒そうとするが、そんなことは不可能。
私を倒したければまず、ラファエルの首を取りたまえ」

「なんだ…...意外とケチじゃないか」


バビロンは眉を吊り上げると、手元にあるカードをまとめてトントンと揃えた。
ラファエルとは比較にならない腕前で、カシャカシャとカードを切っていく。
そして自分とラファエルの席にその1/4を振り分け、彼を一瞥した。


「…..第二回戦、私からいくぞ。ほら」

ラファエルが席に着くのを待たずして、バビロンは颯爽とカードを投げ捨てた。
それを恨めがましい目で睨みつけつつ、ラファエルは勝負テーブルに戻った。



バビロンが出してきたのは、第一手からKのダブル。
それを確認した後、ラファエルは自分に振り分けられたカードを見た。

強い順に並べなおすと、
A、A、K、J、10、10、9、6、6、5、3、3 だ。

エースがダブルであるが、8が一枚もない。
良いとも悪いとも言えない・・・正直微妙なところだ。


ラファエルは十秒ほど考えた末、パスした。
初手からエースダブルなど出せる訳がない。これは最後に取っておかねば。


二巡目で、バビロンは最弱の3を出してくる。
対してラファエルは同じ弱カードを消費しようと、無難な5を提出した。


「(……おっ…来ましたね…)」

しかし無難どころか早くも流れが来たようで、バビロンが次に出したのは10。
ここでイレブンバックを使い、向こうが出したカードに対して3を出せば、高い確立で先攻、つまり先出しができる。

ラファエルはそう思考を巡らせ、計画どおりハートのJを放った。

しかしここで運がそっぽを向いた。
こちらにはイレブンバック中なら最強の、3があるので安心と踏んでいたのだが、残念ながら8で切られてしまった。
クズカード消費作戦は水泡に帰したのだ。
思わず、バビロンにも聴こえそうな音で舌打ちする。



ーーーーパサッー

「(…..どうやら今回は猛者を持ってるようですね…)」


バビロンが提出してきたクイーンのダブル。
お互いのカードが12枚と少ないこの大富豪において、これは相当強い。
十中八九、負け知らずの組み合わせと言っても過言ではないのだ。


「(…..しかし……)」


しかし二人の女王を倒せるカード、エースのダブルをラファエルは持っている。
これさえ出せば2のダブルでも来ない限り、バビロンに「パス」と言わせる事が出来る。

そうと決まれば即時決行・・・・と行きたかったのだが・・




「(………いや…待て待て….目先を考えるな…)」


この場面でエースダブルを出すという事は、終盤でのつばぜり合いを厳しくしてしまう。
ラファエルには8が無いため、8切りからの捨てで上がるという戦法は取れない。
そこでエースダブルという強コンボを、8の代わりに使おうとしていた。
早い話が、「もったいない」精神だ。


「(…..だがもうあいつのカードは残り5枚。もう終盤戦なのか……!?)」


もしこのままバビロンの先手が続けば、その切り札コンボを使うことさえ無く決着する。
それだけは避けなければならなかった。





「(やはりだめだ)パス。」


二回目のパス宣言。精神的にも苦渋の決意だった。


ーーーだがこの惜しみが後々、ラファエルに後悔を教えることとなる。








次順、この大富豪で初めての事態が発生した。
バビロンが出したカードはスペードの7、8、9。すなわち階段だった。



「(か….階段!!? 馬鹿な…この最終局にまだこんなコンボが残っているのか…!!?)」


はっきり言えば異常。まず確率的には起こらないはずだ。
しかし目の前に出てきたのは紛れもない、正真正銘の階段だった。

もちろん対抗できるカードの持ち合わせなどない。
当然のように「パス」と呟いた瞬間、ラファエルの敗北は決まった。




「フフ…...あ・が・り」

バビロンは最後のカード、4ダブルを投げ捨て、女の子のようなトーンで意地悪く勝利を宣言した。
そしてラファエルに任せようとはせず、自らの手で戦績表に大きな○を書き入れた。


「さあ…これで一勝一敗だ。おかげ様で自信が出てきた気がするよ」

「・・・・・・・」

バビロンの嘲笑すら届かない心理の奥底で、ラファエルは今さっきの勝負を考察していた。
単なる運の差で決められた勝負だったのか、それとも作為的なバトルだったのか。


視界の隅に、忘れ去られていた余りカードのジョーカーが見える。
それが決め手だった。少し焦げ目の付いたそれが、ラファエルに敗因を教えた。


「(まさかあれが…...あの挑発が…)」


バビロンがウォリアに賭け金の変更を要求した際に、脅し代わりにこのジョーカーを投げた。
それを受け止めるためにラファエルは席を離れ、それと同時に隙が出来た。
すなわちバビロンのイカサマを許す時間、その勝負を左右する一時を、ラファエルは自分で与えてしまったのだ。

バビロンは目の前からラファエルさえ消えてしまえば、あとは大量のカードの中から必要な物を素早く引き寄せるだけ。
たったそれだけで、勝利の鍵となるカードを容易く手中に収められる。

恐らく彼が山札から失敬したのは、Kや789の階段、そしてQ辺りだろう。
事実それらを武器に、バビロンは二回戦を制したのだから。








「(なんという失態…..こんなの避けようと思えば…)」


ところが、案外そうでも無さそうだった。
バビロンのゴトクのチャンスは、バビロンが会長にカードを投げつけた時に生まれたのだ。

ならばバビロンの「カードを投げる」という行為は止めようがない以上、ラファエルが席を立つのは必然。
会長に襲い掛かるカードを黙って見過ごすなど、ラファエルには到底無理な話だったのだ。



「………ッ…」

目の前には、勝利後の満悦に浸っているバビロンがいた。
ラファエルも一戦目は勝ったため、それが美味であることは百も承知だ。
バビロンは口に出さずとも、眼で彼に皮肉を飛ばしてきた。



ーーーわざわざ危険を侵す必要なんてないだろう?
こちらが隙を作らなくても、会長ご自慢の忠実な部下が時間をくれるんだからな….....フフ…..

「(…...き…貴様…)」


バビロンのしてやったり、という感じの顔つきが、ますます後悔を押し上げてくる。
彼と同じ種族、同じ工程を経て造られた身だと思うと、腸が煮えたぎりそうだった。

ところが第三戦の幕が上がる直前、これまで勝負を静かに見守っていたウォリアが突然口を開いた。




「…..愚か者が………」


声は荒立てていないが、どこか失望落胆しているようにも見える。
ウォリアはまず言葉の矛先をバビロンへと向けた。


「まずバビロン、貴様の幼稚なイカサマを見ていると虫唾が走る!!」

「…な…...」


カードを投げつけられ、最も見抜きにくいはずのウォリアが、実は気付いていた。

当然バビロンも、予想だにしなかった事態だ。
ーーー絶対にバレない。万が一バレるとしたらラファエルだと考えていたのだ。

勝利に酔っていたニヤケ顔が、一瞬にして青ざめる。



「本音を言えば、この勝負はラファエルの勝ちにしたい…..が、お前も同罪だ!」

「…か、会長…」

「ワシの目を誤魔化そうなど100年早い。年を取ろうとも、我が視力も観察力も衰えはしないのだ!」


ラファエルが最初にやったイカサマ、2の大革命も、ウォリアにはお見通しだったらしい。
バビロンに見せたのと同じ怒りをラファエルにもぶつける。


「どんな愚者や弱者を相手にしても、真剣かつ冷静に対応せよと…..いつもあれほど言っておるではないか!!」

「も、申し訳ごさいません…..」

「…ここまで真剣勝負から遠のいてしまうと興ざめだ。だが今さら中止する訳にもいかない。
そこで……..ルールを3つ、追加させてもらおう」

「ル、ルール…..?」

「1、今後いっさいのシャッフルやカードの分配は、幹部社員の手で行なう」


ウォリアが皮膚の垂れた指をパチンと打つと、扉から黒スーツ男がやってきた。
勝負テーブルの横に立ち、今までイカサマに塗られてきたカードを寄せ集める。


「ルールその2、今後イカサマが発覚した者は、無条件でその回は敗北とする」


その宣言にバビロンは息を呑んだ。
つまり今後は紛れもない真剣勝負…..互いの頭脳の闘いになるということだ。



「そして最後のルール。一度場に出したカードに触れることは許さない。
これを破れば第二のルールと同じく、その回は負け決定だ」


バビロンは、これもイカサマ予防の為だろうと踏んだ。
実は三回戦、今度は勝負中に場からこっそりカードを抜いてくる、というのを考えていた彼にとってこれは痛手だった。

水も漏らさぬ鉄壁のルール構築。
これでは普通の勝負をするしかないと、バビロンはイカサマへの執念を諦めた。




「以上だ。どうぞ始めたまえ」

「失礼します」


社員の手によってカードは公正に裁かれた。
きっちり12枚ずつ、ラファエルとバビロンの前に置かれた。


「…..マスターを救えるかどうかは…....結局運か…」






だが同じ状況下にも関わらず、ラファエルの口元は綻んでいた。
自らの勝利を100%確信したような笑いだった。

生憎バビロンは戦法を立てようとカードに釘づけになっており、その事には気づかない。


「(だからあなたは幼稚なんですよ…....新ルールが取り決められただけで、すぐに勝敗を運に委ねてしまう….)」


真面目に戦略を練っているバビロンの顔を見ると、嘲り笑いがこみ上げてくる。
ラファエルも表情ではそう見せかけているが、心中では非難、侮蔑の類いを彼に投げつけていた。













「(教えてあげましょう….....運は、運を求めない者にこそ味方すると」)」


ラファエルの膝の上で「それ」はシャンデリアに照らされ、鈍く光っていた。






ようやく構成ができてきましたw(行き当たりばったりで描いたのを後悔w

新作と同時進行とはいえ、最近更新がノロノロビームで…..
申し訳ないっ!
<2011/12/13 21:07 ロンギヌス>
消しゴム
|<< < 20 / 33 >>|

TOP | 感想 | RSS
まろやか投稿小説すまーと Ver1.00b