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カードに溺れろ 〜Dead or Money〜 − 旧・小説投稿所A

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カードに溺れろ 〜Dead or Money〜
− EMPEROR −
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「…ごちそうさま♪」


自分の腹に目をやるミロカロス。柔らかい筋肉が収縮し
て、ポチエナを奥へ送り込もうとしている。これ以上弄
ぼうにも、もう彼に意識はないだろう。控えめなゲップ
を漏らした後、ズルズルと部屋の隅に這っていった。


「ふふ…次は誰がきてくれるのかしら」


もっこり膨らんだ腹に、既に興味はないようだ。美貌
すら感じられるとぐろを巻くと、自分の鎌首をそこに置
いた。マリンブルーに光る瞳にまぶたを被せ、ため息を
ついて眠り始める。




====================




「い、いやあああああああああああっ!!!!!!!」

「残念でしたね….ご参加、ありがとうございました」


断末魔のように泣き叫びながら、ワカシャモはハートマークの
描かれたドアに吸い込まれていった。再び回ってきた順番、
彼女はそれに勝てなかったのだ。ラティオスは悲痛な叫び
にも耳を貸さず、勝ち残った5人を呆れた眼で見つめていた。


「物好きな方々ですね….せっかく勝ったのに、まだ帰らないんですか?」

「ああ、もちろん」
「僕を他のやつらと一緒にされちゃ…困るんだよね」
「・・・・・」
「俺は金のために来てんだよ。命なんざ二の次だ」
「右に同じく」


明らかに別室行きとなったワカシャモや、ゴルダックと
は違う。金に天井を設けず、ラティオスを打ち負かせる
ほどの実力者。『常連』だけが持つオーラが、彼らから
波動のように放たれていた。



「(ブラックジャックじゃ勝ち目無し….かな)」


自嘲を込めて心の中でそう呟くと、ラティオスはため息
混じりにトランプを片付けだした。参加者らの視線が、
急に矢のように鋭くなる。


「おい待った…何をしている!?」
「まだ一周しかしてないぞ!!」





「・・・・飽きました、あなた達と勝負するの」

「「「なっ…!!!」」」


その発言に、参加者一同は立ち上がった。ラティオ
スは両手を上げ、興奮した牛をなだめるときの動きを
した。そして真剣そのものの表情で、テーブル下の
ゴミ箱にトランプを投げ入れる。


「誰もゲームを中止するとは言ってません。う〜んそうですね….『Eカード』でもしますか」

「い、い〜カード?」

「そう、Eカード。ルールはご存知ですか?」


小声で「ああ」と呟く者もいたが、半数近くが首を横
に振った。ラティオスはちょっぴり失望した様子で、
新たなカードをカウンターから取り出した。トランプ
とは違い、それらには人らしきものが描かれている。


「ルールは至って簡単。要するにジャンケンと同じですよ」


強豪の揃ったテーブルの上に、10枚のカードを表を向け
て並べるラティオス。軽く咳払いをしたあと、司会者ら
しい声立ちで説明を始める。


「カードには三種類、【皇帝】【市民】【奴隷】があります」


ディーラーの手ですっきり揃えられた、高級感の漂う10枚のカード。
その内訳は、こうだ。


皇帝側:【皇帝】が1枚、【市民】が4枚。
奴隷側:【奴隷】が1枚、【市民】が4枚。


どうやらこのゲーム・・
「皇帝側」と「奴隷側」の二人が向かい合って行なうようだ。


「【市民】は、もちろん【奴隷】より強い。
【皇帝】は、【市民】よりさらに強い。
しかし【奴隷】は、【皇帝】にだけ勝てる」


ブラックジャックより、遥かに単純なルール。
参加者は説明を聞いて納得する者と、何かを理解して
青ざめる者に分かれた。おそらく後者は、このゲーム
で勝てる確率を計算したのだろう。


「ちょ…ちょっと待った。
このゲーム、皇帝側が圧倒的に有利じゃないか?」
「あっ…そういえば…」


奴隷側が勝つ確率は1/5。
それに対して、皇帝側の勝率は4/5だ。この差は大きすぎる。

しかしラティオスは口を少し開けて笑うと、あっ
さり対策を打ち出した。


「ハハ…ご心配なく。
奴隷側で勝利なさった場合、賭け金の倍率は50倍です」

「ごじゅ…!?」


それ相応の『飴』は用意してあるという事らしい。どちら
を選ぶか悩んでいる参加者を見回しながら、ラティオスは
最後のルールを言い放った。


「なお今回は、それぞれペアを組んでもらい、1vs1の
デュエルを行ってもらいます。だから私は参加しません…
…と言いたいところですが、5人なので1人余りますね。
余った方は私がお相手させて頂きます」


この鬼畜野郎とは闘いたくないと、参加者達は大あわて
で隣に座っている者の手をつかんだ。
結果として、キレイな対戦表が完成する。


=============
〜皇帝側 〜〜 奴隷側〜
エンペルト VS ジラーチ
ゾロアーク VS モウカザル
エーフィ VS ラティオス
=============


「…それでは始めましょうか?」


ディーラーのその一言が、部屋の隅から四匹のルカリオを
呼び出した。ルカリオはブラックジャックで使ったテー
ブルを軽々と持ち去り、代わりにデュエル専用のテーブルを
三つ置いた。


「それでは各テーブルに分かれて、勝負開始です。
お飲み物はご気軽にお申し付けくださいね」


どんなに喉が乾こうとも、「ご気軽」には無理だろう。何せ
その飲み物が、人生で最後の一杯になるかもしれないのだ。



・・・・・


「…よし、始めるぞ」
「りょーかい♪ 勝っちゃったらゴメンね」


こちらはエンペルト対ジラーチ。お互いに五枚ずつの
カードをカード立てに置き、顎杖をついて作戦を立て
始める。何しろこのEカード、ブラックジャックとは
違い、運の要素はほとんどない。頼れるのは自分の頭脳だけ。


「・・・・・」
「…じゃあボクこれっ!」


ジラーチは目の前に並ぶ五つのカードから、一枚を取り上げた。
エンペルトは五分経っても、「考える人」の姿勢を崩さない。


「ねぇ早く選んでよ〜。ボク待つのって嫌いなんだ」
「・・・・・」


無言を維持したまま、ついに中央のカードを摘み、場に出すエンペルト。彼が唇を震わせながらカードをひっくり返すと同時に、ジラーチも楽観的な面構えで裏返した。



エンペルト:【市民】
ジラーチ:【市民】


「ありゃりゃ、引き分けか」
「……よしっ…」


まだ勝利を掴んだわけではないが、エンペルトの表情が
少しゆるんだ。実はEカードのルール上、一度使ったカ
ードは再使用できない。つまり二匹のカードの枚数は、
4枚ずつになったのだ。わずかでも減ってくれた方が、
皇帝側のエンペルトの勝率は上がる。


「嬉しそうだねぇ〜、コウテイペンギンさん」
「…っ……!!」


【皇帝】のカードを握りしめ、いつ出そうかと案ずるエンペルト。
早くケリを着けて、こいつの顔が恐怖に歪むのを見てみたい・・・
頭に血を昇らせながら、エンペルトは二枚目のカードを場に叩き出した。


「ふふっ、じゃあボクはね〜….どーれーにーしーよーうーかーなーっと。これ!」


ケラケラと可笑しそうに笑いつつ、ジラーチも二枚目を選んだ。
彼の「いっせーのーで」の合図で、二匹はカードを表に向ける。


エンペルト:【市民】
ジラーチ:【市民】


「えへへ…また引き分けだね」
「……この…野郎…」


カードを裏返す度に、ジラーチの態度に怒りがこみ上げ
る。冷静さを失ってはまずいと、エンペルトはバーテン
ダーにワインを注がせた。綺麗なグラスの水面に、紫色
の美酒がゆらゆら揺れる。



「な、なにを動揺してるんだ私は….こんなガキ相手に…」


少なくとも自分は、実力でブラックジャックを勝ち
抜けた。こんな種族が珍しいだけの青二才に負けて、
別室行きなど考えられない。
そう自分に言い聞かせると、エンペルトは再度カードを手に取った。


「…すまない….再開しようか」

「大丈夫? 顔色悪いけど…」

「ちょっと気分が優れなくてね….だがもう大丈夫だ」


ジラーチも短い腕を伸ばし、カードをそっと持ち上げ
た。彼の手からは、まるで白いオーロラのようなもの
が垂れている。エンペルトは気を取り直すと、先陣き
ってカードを裏返した。


「…えいっ」
「・・・・」




<2011/08/15 17:31 ロンギヌス>消しゴム
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