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【保】ヤマタノオロチ − 旧・小説投稿所A

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【保】ヤマタノオロチ

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「僕は…やっぱり、食われたくないです…」


「誰とて食われたくないものですよ。私は食いたくて仕方ありませんがね」


少し口に目をやれば、端からよだれが垂れてる。それを見るだけで体にゾクッと悪寒が走る。
今度は恐怖よりも逃げたい気持ちが勝り、必死になって逃げようと体を動かす。けど結果は見えてる。
しっかりと捕まれてて、その手から逃げるなんてもはや不可能じゃないかと思うほど。
諦めたくない。食われたくなんかない。でも…


「さて、これ以上時間をかけるわけにはいきません」


「うぅ……」


ゆっくりと持ち上げられ、口元に近づけられる。
思わず目を瞑る。目の前で何が行われるかはわかってる。だからこそ見たくない。見ようなんて誰が思うか。
けど音はどうやっても防げない。
グパァ…と口が開かれる音がする。目を瞑ってるからよりはっきりと耳に残る。
見てないのに目蓋の裏に今ある光景が映し出されそうな、そんな感覚すらする。
舌がネチャネチャと動いてる。粘り気のある音が耳を支配し、体は嫌悪感に支配される。まだ食われてもないのに。
体をくねらせながらうっすらと目を開けると、予想してた通り目の前にはバックリと開けられた口。口内と言うべきか。
鋭い牙からは何本もの糸が垂れ、舌はうねうねとその中に入ってくるものを待ち遠しそうにしてる。
逃げようにも今入れられようとしてる瞬間で、もし逃げる術があったとしても遅いだろう。
諦めたくない…そう思いたい気持ちはあるものの、諦めざるを得ない状況を前にしたら、無意味なんだ。
逃げようとするのをやめて、僕は大人しく口の中に放り込まれた。


「うぅ…気持ち悪い…」


放り込まれてすぐに舌が巻きついてきた。顔から下は包み込まれてて、唾液が毛に染み込んできてる。
味を確かめるように時々舌を動かす度に気持ち悪い感触に見舞われる。


「やめて…はぅ…んんっ!?」


どうにかしようと体を動かしてると、舌が顔にまで伸びてきた。
口や鼻までも塞ぐようにしてきたため息が出来ない。
動かそうにも舌の締め付けは予想以上に強くてまったく動かせない。


「んーっ!んんー!!」


声を出そうにも出せない。そんなことはわかってるけど、助けを求めたいから。
苦しくて、意識も遠のいてきた…声も出せなくなってきてる。


「んん…んぅ……」


意識が切れる……そう思った時、舌が解かれた。
気絶せずに済んだものの、体に力が入らなくてぐったりと舌の上に横たわる。
でもそのままでいては何をされるかわからないから、せめて体を起こそうと試みてみる。
しかし、毛が唾液を吸ったせいか体は思ったより重く感じた。
だけどどうにかしてみようと腕に力を入れようとしてみるも、持ちあがらない。
そうやってもたもたしてるうちにまた舌が動きだした。


「ぅわっ!今度は何を……」


予告もなく動いたから舌に顔をぶつけながらどうなるのか、その動きを見る。
ゆっくりと動く舌は僕に隙を与えずに次の動きを見せた。グイッと上に持ち上げて上あごに押し付けて来たんだ。
それと同時に僕の顔は舌に埋まる形になってしまう。グイグイしたから押しつけられて、柔らかい舌に顔がどんどん埋まる。
当然暴れることも声を出すことも出来ない。もはや助けを呼ぼうと声を出す気力さえない。
ただ次第に苦しくなるのに対して、小さく体を動かす程度しか僕には出来ることがない。
それでもまだ舌は離れない。ピチャ…ヌチャ…と耳元で音がしてる。なんだか、この音が心地よく感じるように…。
そんなことを思った時にようやく舌が離れた。


「げほっ…うぅ……力が…」


口に入った唾液を咳き込んで出すものの、完全に体から力が抜けてしまった。限界だった。
抵抗する力なんてない。もはや首を動かす力さえ残ってないのかも。
小さく息をするのがやっとみたい。体は唾液でベトベト。気持ち悪い感触だけが残ってる。
動けない…。何も出来ない…。絶望すらどこかへ行ってしまった…。
それを感じたのか否か、舌がまた持ち上がった。今度は傾斜がついてる。
ゆっくり、ゆっくりと体が下へ滑ってる。でも今の僕には関係なかった。何も出来ないんだから。
流れに委ねながら、ふと前に見える光に意識を向ける。
口が少しだけ開いて、そこから月明かりが…ちょうど月が見える。満月だった。
満月…いろんな話で満月は、不思議な力を持ってると言われてる存在。魔性の力を秘めてるとか言われてるところもある。
…最後まで、僕は懲りてなかったのかな…。

気がつけばもう腰が喉に入ってる。でも、もう覚悟は出来てる。
力を抜いて、胎動に身を任せる。ゴクリ、ゴクリと音を立てながら僕の体を呑み込んでいく。
胴、胸、首、あっという間に頭まで来た。
もう見られないなら、少しでも…と思い、意味もなくまだ見える月を見た。
魔性の力…か。今度は満月にちなんだ話でも、調べてみようかな…。
















ゴクンッ



<2011/07/06 22:41 ヴェラル>消しゴム
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