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孤高の雷帝 − 旧・小説投稿所A

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孤高の雷帝

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「アルザ!出てこい!」
僕の名が扉越しに紡がれた。
「今日も僕と殺りあうの?」
そんなような気はしなかった。
なにやら慌ただしい雰囲気を感じ取っておきながら、尋ねることを止めはしなかった。
荒い呼吸が混じりながら切迫した声は用件を僕に伝える。
「頼むっ・・力を貸してくれ!」
ただ事ではないことは分かっていたが、忌み嫌う呪人に助けを請うほどとは思わなかった。
相当な状況に陥っているらしい。
が、僕は首を縦には振らなかった。
普段、毛嫌いして忌み嫌って必要な時にだけ助けを請うなどと虫が良すぎるのではないか?
そうだから素直になれなかった。
「貴方たちでどうにかしたらどうですか?僕は貴方たちに力を貸すことはしません。今までそれでやってこれたじゃないですか?」
「っく・・た、頼むから・・」
ちくり、と心が痛んだ。
人狼であっても僕には暖かい人間の心が生きていた。
獣のような獰猛で残虐な心も持っているが、それが表に出ることは滅多にない。
彼らを助けたい気持ちはいくらかある。
自分が思っていることにも一理あり、助けたい自分とそれを否定する自分が葛藤していた。
「なぁ・・頼む・・もう何人もやられてんだ・・・」
何人もやられた・・つまり死者が出ている事なのか?
その言葉で踏ん切りがついた。
彼らを助けるのではなく、死に行く人間を助けるためだと思えばいい。
重い腰を上げ、扉を開く。

 * * * 

家宅が盛んに炎上し、灼け焦げた死体が無数に転がっている。
さらにはまだ生きたままの人間がそいつによって頭上に摘み上げられていた。
「ぇ・・ぁ・・そ、そんな・・」
摘んでいた手が離れ、重力に従い体が巨口に落下して行く。
たった一口でそこに収められ、生々しい音が辺りに響く。
一般人は人生でこの光景を目の当たりすることは無いだろう。
食物連鎖の頂点に君臨する絶対の捕食者たる人間が他者に喰われる事など。
その光景が僕の目前に展開されていた。
生理的嫌悪を抱き、恐怖を覚えるはずのその光景に目が離れない。不思議とその場を凍てつかせていた。
ごくり・・
そいつの喉が大きく鳴り、生々しく膨らむ。
膨らみは喉を下り、腹に下っていく。
ゆっくり、ゆっくりと下り、胃袋に落ち込んで動かなくなる。
「その脆弱な体に狼の力を宿す、呪われた人の子よ。」
遙かな時を生きてきた威厳に溢れた声が現実に引き戻した。
が、それと同時に隣の村人が大きく吹っ飛ぶ。
血のこびりついた紺色の尾が揺れている。
強靱な四肢。血で黒ずんだ爪。
隻眼の碧玉が僕を見据えて離さない。
「何故ここにいる?呪人。」
    ー孤高の雷帝ー
ここ周辺で姿を現している一体の竜族。
決して群れることなくその鱗が雷の落ちる闇夜に似ているためにそう呼ばれていた。
「ここにお前の必要性はない。」
疑問の言葉を問いかけつつも雷帝は捕食を止めない。
尾で巻き取った人を口に放り舐め回し呑み込む。
かれこれ三十人程だ。
「孤高の雷帝・・どうしてここの村を襲った?」
これ以外にも問うことはある。
だが真っ先に問いたかった。
村はほかにもある。
なぜ、小規模なこの村なのか。
「・・気分だ。」
感情に連動して呪いの封が引き裂かれた。
この村には世話になった。
呪いにかかり呪人になっても世話になった人もいた。
確かに嫌悪感はあったが、愛着はあった。
そんな村を気分で襲った?
冗談じゃない。
「貴様ぁぁぁぁぁあっ!」
人間の姿を捨て、呪いの力を全開させる。
瞬く間に狼の体組織に組み替えられ、筋力が倍増する。
孤高の雷帝。許すまじ。


<2011/05/13 23:24 セイル>消しゴム
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