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孤高の雷帝 − 旧・小説投稿所A

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孤高の雷帝

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紫電の舌が身体を持て余すことなく舐め回す。
苦しませるようにではなく、労るように。
優しく、ゆっくり、かつ、唾液を塗り込むように。
「ぅん・・あぁ・・っ・・」
もう絶望したはずの身体が喘ぐ。
舌が身体を舐める度に粘液に隠されたザラザラが身体を撫でビクビクと反応を始める。
絶望した身体に快楽。
相反する感情の変化でさらに心は打ちのめされ、現実に沈んでゆく。
ただでさえ動かない体はもう動くことを放棄していた。
それと共に、紫電の舌にずっしりと重みを与えていた。
「生きているか?」
「・・・うん・・」
「安心しろ。丁重に扱ってやる。」
もう一度僕は頷く。
僕の肯定を認証した紫電は舌を蠢かす。
持て余すことなく舐め回された身体をもう一度優しく舐め回し始める。
「うっ・・んっ・・んっ・・・」
僕はとにかく喘いでいた。
“生”を捨て、空になった頭と本能が快楽に敏感に反応していた。
“死”を望む身体。
呪人の身体。
普遍の人間の身体と異なっていても基礎は人間だった。
喜怒哀楽があり、死にたくもなる。
快楽に反応することも。
「そろそろ、呑むぞ。」
「・・・うん。」
物心ついた子供が親に甘えるような声。
その声で僕はそう答えた。

 * * * 

やはり、喰うには惜しい。
この身にも災いした呪いの力を己の力で制御しているこの人間は珍しい。
その上、非常に美味だ。
喰らってその存在を消すには惜しすぎる。
だが、本人は死にたいと言っている。
ならばそうするしかなかろう。
私はクイッと上を向き、口内に傾斜をつける。
これで・・・2394人目。
あと何人喰らえば私は戻れるのだろうか・・

 * * * 

“生”と“死”
僕は何を知ったんだろう。
数人の犠牲で何を知ったんだろう。
「く・・ぅ・・・・ぁぁ・・」
暗闇の胃袋に収められ、身動きはしなかった。
やっと僕は死ねるんだ。
やっと・・呪人の命を全うできるんだ。
もう虐げられることも、この力で他人を傷つけなくても、命を奪わなくてもいいんだ。
唾液と体液に浸った身体。
もうこんな身体いらない。
早く溶かして。
だけど僕は苛まれるだろう。
この手でミリュイを殺したのだ。
他人の最も尊いものを奪ったのだ。
生物が最も畏れる“モノ”を与えてしまったのだ。
彼女は僕に与えてくれた。
傷ついた僕に“心”を与えてくれたのに。
僕は何も与えていない。
むしろ奪ったのだ。
彼女の命を。
「あああぁぁぁぁっっ!」
自分が恐ろしい。
今にでも狂ってしまいそうな頭を両手で抱え、喉が裂けるように声を張り上げて発狂した。
次は誰を殺す!?
隣人?知人?見知らぬ人?
嫌だ・・嫌だ・・誰も殺したくない!
もう嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!

早く殺して!
早く早く早く早く早く
ハヤクハヤクハヤク!


自分の真実の姿。
人間でも呪人でもない。
ただ、無感情に息をするように人間を殺す。
それが自分の姿。
「ぁぁぁぁぁぁっ!!」
唐突に胃壁が蠢き、僕を包み込んだ。
いよいよ消化が始まるのだ。
あれだけ死をを望んでいた身体が恐怖を覚える。
死にたいと思っていたのが生きたいと姿を変えてしまう。
「っ・・あっ!・・ミ、ミリュ・・」
呼吸器さえ例外ではない。
柔らかく粘液を纏う肉壁は完全に塞ぐ。
すぐに呼吸困難に陥る羽目になり意識を失う。

 * * *
 
私は腹の膨らみに目をやった。
くぐもった声も既に途切れ、抵抗も感じられなかった。
あまりの自責に事切れたか、気絶したか。
抵抗が無いのは少し興ざめだが。
もともと私は人間だった。
私とて、人間だった。
呪人の影響でこんな姿。
孤高の雷帝と呼ばれるこんな姿になってしまったのだ。
元の姿に戻るためには他者の命を喰らうこと。
単に喰らう訳ではない。
他者を殺めれば体が勝手にその魂を吸収する。
それが他者の命を喰らうこと。
最初は他者を殺めることを躊躇っていた。
こんな姿では人間の命は脆すぎた。
片腕一本で数人の命を奪える。
そんなことだからすぐに戻れると思っていた。
ところがどうだ。
幾人の命を奪っておきながらまだこの姿だ。
返り血を大量に浴び、爪や牙にこびりついてもこの姿は変わらない。
それどころかより一層、竜族に染まっていくだけだった。
脆弱で傲慢な人間。
自分と同じだった種族が同等に見られない。
強靱で誇り高き竜族。
人間を見下す崇高なる存在。
そして唯一、同等に見ることができたのが彼だった。
自分と同じ、呪人の影響で人間では無くなった人間。
さらに彼はそれをコントロールしていた。
人狼の呪人。
今は私の胃袋の中で消化されようとしている。
正直、殺すには惜しい。
久しぶりに出会えた呪人だ。
必要性は教えた。
“生”と“死”について彼は理解してくれた。
ただ、心が死んだ。
まだ、必要性を受け入れるには若かったのだ。
「フッ・・また独りか・・」
私は小さな飽きを含ませて言葉を吐き出した。
“生きたい”
静寂な胃袋から囁きが響く。
外からは聴くことは不可能でも体内の声は良く響く。
「吐いてやろうか?」
“紫電さん・・”
「わかった。とりあえず吐き出そうか・・」
胃袋、食道に力を込め、彼を逆流させる。
粘液と肉壁が擦れ合い、生々しい水音が体内にはよく響く。
彼と言う生物の膨らみが私の体を逆流する。
「ん・・がぁ・・」
体液をボタボタを口からこぼし、彼を吐き出そうとする。
すでに喉元まで来ているがなかなか吐き出せない。
気を許せばまた呑み込んでしまいそうだ。
が、そんな心配をしているうちに私は吐いていた。
ゴポリと多量の粘液、体液と共に彼が地面に吐き出された。
「・・アルザよ・・貴殿はまだ生きようと望むか?」
焦点の定まらない虚ろな目は確かに私を見つめていた。
微かな力で“生”にすがりついている。
今だ口内からこぼれる体液を拭う事もせずに私は声を吐き出す
彼は・・アルザは特に言葉を発することなく、体を動かすこともなく。
ただ、頷いた。
「私の下に・・いてはくれないか?」
これにはアルザは笑顔で快く頷いてくれた。
“そうか”
心の奥から自然に漏れた言葉。
私は涙を一つこぼしていた。



<2011/05/13 23:26 セイル>消しゴム
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