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【保】迂闊な金狼と大あくびの黒蛇 − 旧・小説投稿所A

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【保】迂闊な金狼と大あくびの黒蛇

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【迂闊な金狼と大あくびの黒蛇】


森の中……彼女が見つけたのは切り立った渓谷。

目も眩むような高さの谷底には、鬱蒼と生い茂る広大な森林が広がっている。
崖の縁などは苔などに覆われており、注意しないと滑って転んでしまいそうになっていた。

「ふふふ、ようやく見つけたわ」

丁度良く、崖下等を見下ろせる位置に生えていた木の頭上から女性の声が響く。


……ミシッ……ガササッ! バサッ!


声がしたと同時に枝が揺れ動き、何者かが苔の覆われた地面の上に飛び降りた。
少しでも足を滑らせたら崖底へ真っ逆さまになりかねない。
思わず目を瞑ってしまいそうな状況で、金色の毛並みを持つその者は、軽業師のように柔らかな着地を決めた。

着地と同時に膝を折り曲げ、痛めないように衝撃を受け流す。
殆ど物音もさせない見事な身のこなしであった。

「……ふぅ、此処まで来るのに大分時間をかけちゃったわねぇ」

ゆっくりと立ち上がる彼女の姿は……獣人。
メモを片手に周囲を伺う金色の毛並みをもつ彼女の正体は一体……?



『ティナ=レヴァーレン 』


それが彼女の名前である。
母の形見である露出度の高い白を基調とした服を身に纏い、お気に入りの青いズボンはいつも愛用しており、
腰には水晶銀と呼ばれた物質で出来た剣を帯剣していた。

そして、彼女をもっとも特徴づけるのが、金色に輝く毛並み……そう、ティナは金狼種であった。

世界の人口の多数を獣人が占め、野生の掟が未だ根強く息づいている世界。
獣人が獣人を食べることも多々あり、中には獣人を専門に狩りをする密猟者も存在する。
そんな輩にとって、金狼種であるティナは格好の獲物なのである。

価値の高い美しい毛皮を狙われ、彼女は幾たびも危険な目に合い……それを乗り越えてきた。
先ほど見せた高い身体能力も危険と隣り合わせで旅を続け、自然と身体が鍛えられた結果でしかない。

今では三人の仲間達に囲まれ、個性的な彼ら達と色々な騒動を起こし、旅を続けているらしい。



と、彼女について説明できるのはそれぐらいか……?


いつの間にかティナは崖のギリギリにまで歩み寄り、崖底を覗き込んでいた。
その視線の先には、崖の中腹に生えた黄色い草がひっそりと揺れている。

「……う〜ん、あの薬草でいいはずね」

手にしたメモに書かれた詳細と、簡易絵を見比べて少し自信なさげにティナが呟く。
さすがに百メートル近くも離れていては、幾ら視力に自信があっても彼女にはそれを断定することが出来ない。



              ※   ※   ※   ※


  黄色い花、主に切り立った崖の岩肌などに自生しています。
  採取難易度は少々高めですが、貴方なら何とかなるでしょう……頑張ってくださいねぇ……クククッ
  
  (注意)そうそう、絶対に………  ――


              ※   ※   ※   ※



「黄色い花、崖の岩肌……やっぱりアレのようね」

崖下を覗き込みながら、ティナは読み返したメモをポケットにしまい込む。
最後の方に注意書きが書かれていたが、慣れない事を考えている彼女はその事に気が付かなかった。

「それじゃ、さっさと採取したいけど……さすがに高いわね。
 ロープで下りるのも大変そう……」

必要な地味な作業を思い浮かべて、ティナはうんざりするようなため息を吐き出した。
確かにロープを使って降りた方が安全である。

ロープを木に括り付け、ゆっくりと身体を安定させながら崖下を降りる。
……そこまでは良い。
其処からまた登らなくてはいけないのが、手間がかかり、疲れるし、手も痛くなるだろう。

そして、何より『めんどくさい』と、ティナはロープを使う案を放棄する。

「もうちょっと、手っ取り早い方が良いわよね♪」

何か思いついたようで、やたらと声が弾んでおり、
ひとまず崖の傍から離れてゆくと、無造作に土が剥き出しの地面に座り込む。


ドサッ!


これはティナが座り込んだ音ではない。背中に背負っていた道具袋を降ろした音だった。

袋の素材はなめし革製でちょっと赤みがかかっている。
今回の仕事のためにティナが手に入れた品だったのだが、見かけより軽くて頑丈と実用性に富んでいた。
袋の口を解くと、中には今回の依頼で集めたモノが色々と詰め込まれている。


―― 多種多様な姿の薬草、何に使うか分からない木の枝、
   とても美味しそうな木の実から、毒々しい木の実 ――


それらに加えて、彼女の個人的な好みで集めたものが、整理もされず雑多に押し込まれ、ゴチャゴチャ。
あまりのモノ乱雑さで、中身を見たティナもさすがに冷や汗を流す。

「うぅっ……ちょっと整理しないとダメみたい」

ティナは集めたモノを確認したかったのだが、このままでは到底無理。
渋々中身を一つずつ取り出し始め、種類別にまとめ直しながら綺麗に並べて整理を始めた。

薬草は紐で縛って一纏め、木の枝も同じように縛っておく。
問題は木の実だが……袋の底で潰れてしまったそれらを見つめ、別の目的に使う予定だったガラス瓶に詰める。
それらの過程で、ティナは再びメモを取り出し集めたモノを丁寧に数えていった。

「……コレとこっちも良し……うん。 全部揃ってるみたい♪
 木の実はちょっと潰れちゃったけど多めに取ってきたのが幸いしたわね」

ホッと胸に右手を当て、数を数えていた左手をおろす。

「でも、シャンクも凄いわね……町のみんなが薬草が殆ど見つからないって言ってたのに、
 メモの通りに探したら直ぐに見つかったんだから。
 それに結構楽しかったし……帰ったらお礼でも言った方がいいかな?」

整理したモノを袋に詰め直しながら、ティナの脳裏にはシャンクの胡散臭い顔が浮かんだ。
味見と実験が大好きな彼が、どんな態度を取るのか手に取るように分かる。

『ウククッ、礼などは必要ありませんよ。
 それより首尾はどうでしたのでしょうかねぇ?』

お礼を言う自分に、含み笑いをしながら手を差し出すに違いない……と。

そして、ティナもそれで構わなかった。
たとえ素っ気無さそうに見えても、あれがシャンクの感謝の仕方だと理解していたから。

「それじゃ、あの薬草もサクッと採取、採取と♪」

詰め直した袋を手早く身体に括り付けると、ティナは腰に手をやった。


シャンッ!


小気味の良い鞘走りの音が森の中に響き渡る。
引き抜かれた剣の刃は、恐ろしいまでの透明度を誇りまるで水晶のよう。
今や扱い慣れた相棒をティナは片手で操り、刃を太陽の光に晒しつつ念入りに握りを確かめる。

「こんな感じで良いわね。それじゃ……ていっ!」


剣の握りを確かめた後、ティナは何の躊躇もなく切り立った崖を飛び降りた!


中空に投げ出された彼女の身体は直ぐさま重力に捕まり、凄まじい早さで落下を始める!
自身が落下する速度で巻き起こる風圧に晒され、
荒々しく衣服がはためき、尻尾や髪が逆さまに逆立つ。


これがティナの思いついた手っ取り早い方法。
確かに早いだろうが、常人……というか普通の人なら思いついてもやらない。


だが、まるで恐怖を感じていないかのようにティナは崖を飛び降りて見せた。
そして高速で流れる風景……常人なら絶叫モノなのだが、彼女はそれを楽しんでいるかのように笑みが浮かぶ。
気をつけることはたった一つ……姿勢を保つこと。

気を抜けば崩れそうになる姿勢を制御しつつ、
ティナは岩肌を凝視してタイミングを計っていた。


(あともう少し……いまっ!)


ガギィッ!!


岩肌へと剣を突き立てた!
透明な刃はまるで水を切るかのようにズブリと岩にめり込む。

刃を下にして剣に捕まったまま、ティナは岩肌を切り裂き下へと滑ってゆく。


ギャリ! ガリリリリィッ!


岩肌と刀身が小擦れ合い耳障りな音を立て、火花を散らす。
急激なブレーキがティナの細腕にのし掛かる。

「……くぅっ!」

無茶な行為に相当な衝撃をうけてティナは呻き声を洩らし、剣も嫌な音を立て悲鳴をあげている。
今までどんな扱いをしても、刃こぼれすらしなかった相棒を信じ、
ティナは堪えるように歯を食いしばった。


剣はそれに応え、見事に折れず耐えきった。

滑り落ちる速度は弱まり目的の地点まであと僅か……すかさずティナは剣を振り抜く!
易々と岩肌を切り裂き、傷一つ無い刀身が岩肌から姿を見せた。

しかし、そんなことをすれば再び重力がティナの身体を捉え……

彼女は信じられない動きを見せた。
振り抜いた剣を今度は素早く横凪ぎになぎ払い、宙に走った真横一文字の剣線。
そこに逆手に持ち直した刀身を突き入れる。


そして、落下が始まりティナの身体が重力に引かれ……止まる。
不思議なことに剣が宙に刺さっている。


固定された剣の柄を支点にしてティナは大車輪! 
剣の上にまで身体を持ち上げるとその勢いで跳び上がり、とんぼを切り見事に刃の上に着地を決めてみせた。

ティナが崖を飛び降りて数秒程度の出来事。
                             

両手を広げバランスを取る彼女の背中で、長い髪が、
風で優雅に靡く姿は、まさに華麗であった。

あれほどのアクロバットアクションをしたはずなのに、やはりと言うべきか汗も掻いていない。
ともあれ、無事に剣の上に着地したティナの目の前には薬草が……

「よっ……と、と……ふぅ、大成功ね♪」

器用に片足で剣の上を移動して、目の前の薬草を採取する。
崖に生えていた黄色い花は、今やティナの手に握りしめられていた。
とても綺麗な花……それにいい匂いが花から漂い、ティナは思わず顔を近づけ花の香りを楽しんだ。

さて、問題は此処から……どうやってティナは崖の上へ戻るつもりなのだろうか?
その答えは、ティナ自身の能力と彼女が足場にしている水晶銀の剣にあった。


『空間繋ぎ』
彼女自身の力と剣の力を掛け合わせ、刃を振るえば空間をも切り裂く。
切られた空間は直ぐに元に戻ってしまうが、その前に切り裂かれた空間に身を躍らせれば、
まったく別の場所へと一瞬に移動することが出来た。

そして、ティナは過去自分が訪れた場所に限り、裂けた空間に吐き出される場所を自在に選ぶことが出来る。
その力を使って彼女は一気にシャンクの待つ宿屋へ飛ぶつもりであった。

「……そろそろ、シャンクが焦ってる頃かな?
 早く帰って、採取したモノを……あれ? ……ちょっと目眩が」

今まで揺らぎもしなかったティナの身体が、不安定に揺れ始める。
視界が掠れ、目蓋が今にも閉じてしまいそうなほど重く……このまま眠ってしまいそう。

(……んぅっ! どうして……?)

自分の身体がどうしてしまったのかティナには分からなかった。
それでも、こんな場所で眠るわけにはいかないと、襲い来る眠気と戦い、震える手で剣を引き抜いた。
素早く手を翻し、剣を振るう!



宙に刻まれた青い一筋の光、それは切り口だった。
切り裂かれた其処から、世界がゆっくりと剥がれ切り口が広がり……
言いようのない色の世界の裏が姿を見せた。



それも一瞬のこと……直ぐに切り裂かれた空間がティナの意志に従い、出口を構築する。
音もなく剣によって切り裂かれ繋がった空間の先には何処かの部屋と、見覚えのある顔が覗いていた。

「……シャン……ク……」

それを見届け、ティナは力尽きたかのように目を閉じ、眠ってしまう。
両手にはそれぞれ、花と剣を握りしめたまま脱力した身体は頭から空間の裂け目へ呑み込まれ……消えた。



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