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異世界の漂流者 − 旧・小説投稿所A

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異世界の漂流者

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「起きないな」

日も傾き空が赤くなりだした頃、洞窟内に声が響いた

声の主は「はぁ」とため息をつくとゆっくりとした動作で伸びをする

「う〜〜ん・・・」

体のあちこちからポキポキと音がして非常に気持ちが良い

「もう夕方か」

洞窟の入口は西向きなので夕方になると日が差し込み始める

その光は洞窟の一番奥にいた声の主にも届き始め、体に生えていた灰色の鱗をキラキラと輝かせていた

声の主・・・・竜は正直悩んでいた

原因は彼の足元に倒れている人間と獣人。と中身をぶちまけたリュック

人間と獣人の服は竜の体液でベタベタに汚れていた

それもそのはず

彼らは竜に丸呑みにされたのだ

・・・・しかしある理由が出来たために竜が吐き出し目が覚めるのを待っている





「う・・・ん・・・」

「お!」

人間の方が気づいたらしい

竜は、はやる気持ちを抑えられずに人間を掴みあげると強く揺さ振った

「おい!起きろ!」





揺さ振りと大きな声でシュルツは目を覚ました

「うわっ!」

目を開けると視界一杯に竜の顔が映っていたために驚いてしまう

「やっと起きたか。吐き出してやったのに中々目を覚まさないから正直心配したぞ?」

「な・・なぜ?」

シュルツは状況が飲み込めず、混乱していた

竜がシュルツ達を吐き出す理由なんて何も思い浮かばなかったからだ

「これだよ。これ」

竜はもう片方の手でそれを摘み上げるとシュルツに見せた

「え・・・リュック?」

「そうだ。このリュックがお前達を吐き出そうと思った理由だ。」

フフン♪と竜は気分良さげに言ったがシュルツの表情は反対に暗かった

(リ・・・リュックに救われたのか・・・・俺は・・・・・・・・)

シュルツでなくてもリュックに命を救われたら複雑な心境になるのは間違いない

「中々面白い物が入っていたぞ」

竜はリュックを置くと中から懐中電灯を取り出し点けたり消したりしている

「そこでだ・・・取引をしようじゃないか」

「取引?」

「そうだ。ただで見逃してもらえるとでも思ったか?」

思ってました。と心の中で呟くも本当に言ったらあの世に逝く事になりかねないので黙っとく

この竜の言う事だ。それなりの覚悟をしといた方がいいだろう

「で、取引の内容は?」

竜はニヤ〜っと顔を歪めると意地悪そうに言った

「お前らの技術の塊を見せろ」

「は・・・・?」

「お前らが乗ってきたあの巨大な乗り物を見せろと言っているんだ。それと美味い物を食わせろ」

「・・・・・・」

考えているシュルツの顔を竜は楽しそうに見ている

「・・・もし・・・・もし断ったら?」


「断ったら・・・」

竜は一言だけ呟くと・・・・・

ガパッ

大きく口を開けた

そのままシュルツを口を近づけてゆく

「わっ!や、やめろ!!」

絶体絶命とはまさにこの事を言うのだろう

シュルツは暴れたが巨大な手に掴まれているので動いているのは頭ぐらいなものである

カプッ

竜はシュルツの上半身を銜え込み舐め回し始めた

ベロ ジュルッ グチャ ベロォ 

「ん!プハッ!やめろって、んんんんーーーー!!」

顔が柔らかい舌に覆われすぐに呼吸が苦しくなる

「どれ、このまま飲み込むか」

そこに竜の一言。

シュルツはこの危機を回避すべく必死に頭を働かせたが・・・

「わかった!わかっ・・・プハッ!分かったから!!」

「ククク♪」

結局シュルツが取引の内容を飲む事になった

「くそぉ・・・」

竜の口から出されシュルツはぼそりと呟いた

この竜に付き合ってたら命がいくらあっても足りない

「ほら、降ろしてやるから準備し・・・」

「待った!!」

シュルツは竜の言葉を遮った

これだけは言っておかないと大変な事になる

「俺の部下を喰ったり殺したりしないと約束しろ」

低い声で、ゆっくりと、断られないように、シュルツは喋った

「・・・・・・・」

竜は何も言わずにシュルツを見ている

「おい!聞いているの・・・」

ズンッ

突然辺りの空気が重く変化し、シュルツの肩に圧し掛かる

理由は簡単。竜が殺気を放ったのだ

「もし・・・・断ったら?」

沈黙を破ったのは竜

先ほどシュルツが聞いた質問を今度は竜が聞く

その赤い目は恐ろしいほどに冷たかった




「な〜んてな♪」

竜の明るい声と共に周囲の空気が軽くなる

「どうだ?驚いただろ?」

「・・・・・・」

真っ青になったシュルツの顔を見ながら楽しそうに話し掛けるがシュルツの返事はない

どうやらかなり効いたらしい

「心配するな。約束は守ろう」

竜の言葉にシュルツはただ頷くだけだった






「準備OKだ」
リュックを背負いながらシュルツは言った

「そうか。早く乗れ」

竜は身を低くしシュルツを乗せる

ソラは気を失っているので竜が手で掴んで行くことになったのだが少し
心配だった

実際竜を信用しろと言う方が無理である

そんな考え事をしている内に洞窟から出た

夕日を見た瞬間堪えられずに涙を流してしまう

自分はまだ生きている

そんな思いで一杯だった

「しっかり掴まれよ!」

バサッ!

竜が翼を広げ羽ばたくとその巨体が空に舞い上がる

「おい」

「なんだ?」

高度を上げつつ竜が話す

「お前、俺のことを信用したほうがいいぞ?」

「・・・・・・」





この先どうなるんだろうとシュルツは悩まずにいられなかった



<2011/06/07 21:04 雪風>消しゴム
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