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ボスの器 − 旧・小説投稿所A

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ボスの器
− 爆発 −
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※消化描写を含みます







 僕は自分の名前が嫌いです。

 親とはいい気なもので、子供に対してとんでもない幻想を抱いて名前を授けるのです。その子が成長した時にそんな思いをするのかも知らずに。

 僕は時々、重圧に押し潰されそうになります。

 名は体を表すとはよく言ったものですが、体は名を表したりはしません。もっと気楽になりたい、僕の願いがかなう日は果たして来るのでしょうか?



 さてと、いつまでも愚痴ってはいられません。僕はみなさんの期待に応えなくては。

 「おおい、ボス! 狩りに行こうぜ!」

 僕の苦しみの種である名前を呼ぶ仲間に少しばかりの敵意を持ちながら、僕はそちらへと走り始めました。





 今日はずいぶんと豊作でした。捕まえた兎だの雀だのは干して冬のための非常食にしましょう。

 さてと、残った獲物は生で頂きましょうか。

 「た・・・・たべな・・・・・」

 「ごめんなさい。今日はもう我慢できません。ぜひ僕の栄養になってください」

 獲物を前にしても何も感じないという仲間もいますが、僕は可哀想だと思いますね。なんたって自分の体の中で一匹の動くものが、動かなくなるんですから。

 だから僕は獲物と長くは話しません。話したところで殺されるのを認めるような生き物はいませんし、僕自身が心苦しくなってしまいますから。

 僕は餌の鼠を牙の生え揃った口で優しく咥え込みます。きっと恐怖している事でしょうが、それもすぐに終わるのです。

 「い・・・・や・・・・」

 必死の抵抗を続ける鼠。いつもならばさっさと噛み殺してしまうところですが・・・・・

 「痛っ!」

 僕とした事が口の中を引っ掻かれてしまいました。

 驚いた一瞬の後、思わずごくりとそのまま飲み込みます。



 口の中に広がる血の味は獲物のものではありません。僕自身の血。餌とは違い、気分の悪くなるような鉄の匂いが漂います。僕はすっかりブルーな気分に落されました。

 「はぁ・・・・・」

 1つ大きなため息をついて、僕は近くの湖に水を飲みに行く事にしました。



 案の定お腹の中で鼠は暴れます。生きたまま溶かされるあまりもの痛みに暴れる事しかできないのでしょう。

 獲物を苦しめて殺すのは好きじゃないんですが・・・今更どうする事もできません。心の中でそっと謝って、1秒でも早く終わることを望むばかりです。



 僕が湖につく頃にはお腹の動きは止まっていました。もう鼠は何も感じていないはずです。後は僕の栄養になるのを待つだけ。腸へと鼠だったものが流れていきます。結局は僕も肉食獣、獲物の命を奪うと元気が出るのです。





 「ん? どうした? お前の血の匂いがするじゃないか」

 嫌な声が聞こえてきます。僕は敵意を込めた目でそいつをじっと見つめました。



 「また狩りでしくじったのか。お前という奴は」

 「父さんを見習いなさいよ」

 「名前だけの屑が」



 畳みかけられる声。僕には何も聞こえません。

 今更慣れました。いつもの事なのです。今日だって、僕は無視してそのまま歩いていくだけです。

 ですが・・・・・



 「なんだその反抗的な目は。汚らわしい」

 「姉に恥をかかせないでよね?」

 「本当にっ、覚えの悪い子」



 どうして僕だけいつもこうなんでしょうか? 言動から何から何まで強制されて、僕が一匹になる時間ですらもどこかでこちらを見ている輩がいます。僕は静かに平和に過ごしたいだけなのに。

 堪忍袋というものは一度貯まればもう減る事はありません。次に貯まる日を待つだけ。僕の限界はすぐそこまで来ていました。



 「おめえごときに喰われた獲物って本当に無様だよなあ」



 どうして・・・どうしてなのです? 僕はこんなに頑張っているのに。いつもいつもプレッシャーをかけられて、それでもちゃんと役目をこなしているのに。

 それに今あんたは言ってはいけない事を言った。無様だあ? さっきの鼠にも僕にも失礼だ。

 誰か僕を認めて・・・・・認めて。認めろ!!!



 その瞬間、僕の頭の中は真っ白になりました。





 気が付けば、周りには倒れている仲間がいるだけ。それを遠巻きに眺めている仲間がまた数匹。

 なぜか妙にすっきりと、そして悲しい思いが僕の胸をかけまぐります。



 「うっわああああああああああああああああああああ!」



 居たたまれない気持ちになった僕は、泣きながら夕暮れがかった丘を全速力で駆け下りていきました。





<2013/03/16 19:11 ぶちマーブル模様>消しゴム
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