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忌々しき存在 − 旧・小説投稿所A

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忌々しき存在

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「何で…何で…竜にした!!」
「理由は無い。」
と、赤竜の口の奥から冷たく言い放たれた。
そのきっぱりとした態度にムカつき俺はしつこく問い質した。

「無い?なら戻してくれよ!俺は元の生活に戻りたいんだ!!」

「ククッ それは不可能だ。」
俺の怒り狂う様子を赤竜はフンッと笑い飛ばしながら嘲るように出来ないと言い放った。
それでも俺は、竜に変身させる方法を知っているなら元に戻す方法も知っている筈だろう、という根拠もない理屈を押し通した。そんな非合理的な希望に縋って、駄々をこねる子供のように問い質し続けた


「何で?何でなんだよ!」

「我は竜化させる方法は知っておるが、それを元に戻す手立ては全く知らぬ。
つまりお前は“一生”その姿のままだ。」

「え…」

一生…一生・・
その二文字が怒りを言葉を詰まらせた。
“出来ない”じゃなく“知らない”?
もう戻らない…?一生??このまま…この姿で…?
竜のまま…生きろと…?

俯き加減に赤茶色のごつごつした地面にさした自分の真っ黒な影を見つめた。
棒人間じゃない。くっきりと浮かび上がった竜の影。…左右対称にぐわんと横に広がる影、頭に伸びる長い二つの影、どこをどう見ても人間と思わせるような箇所はない。正真正銘、自分は竜だ。そう思い知らされる。
地面の先から影が伸びて来た。自分と同じ大きさの赤竜の影がずんずんと自分の影と重なっていく。

「近づくな!」

その影が存在感が恐ろしく感じ本能的にドンッと勢いよくその巨体を突き放した。
どんっ

……!
まるでボールを返すようにスッ…と自分の手が赤竜の体を軽く押し倒してしまった。

そいつはのっそりと立ち上がりながらこう言った。

「だが、お前は大きな力を手に入れたのだぞ。我をたやすく押し倒せるだけでなく、…この島を消せる程のな。」

「なっ…」

そういえば・・こいつを押し倒した時にえらく抵抗感を感じなかった。
赤竜が芝居を打っているにも思えたが…赤竜が満更でもないように頷いたのを見ると、嘘をついているようにも思えなかった。

この島を消せるほどの…力。
それほどの力が俺に…?

尻尾の先から爪先まで細胞が身体中が活気づいているような不思議な感覚が不安と興奮が入り交じった妙な感情を生んだ。
人間であった自分がまるで初めから居なかったかのような、ふっと頭から自分という存在が消えてしまったような絶望感。

「まぁ良い。慌てなくとも時間はある。だが、腹が減っては何も考えられないだろう?ククッ」

「…要らない」

やるせない絶望や不安の闇に俺の心が蝕まれていく。顔を暗い影に沈み込ませたまま眼前に居る竜の言葉を軽く聞き流した。

「喰わねば、飢え死にしてしまうぞ。今日はお前の為に極上の獲物を持って来てやる。」

はっと我に振り返り赤竜の方を向いた。彼の表情には底知れぬ腹黒さが映っていて、俺の心を抉り取ってやろうと考えているかのようだった。

「獲物って…」

獲物という言葉を聞いて、妙に腹の虫が疼いたような気がした。
自分が何か別のものに侵食されていくような不安が重く心にのし掛かった。


「ククッ お前が一番よく分かっておろう。獲物を捕ってくるまでの間、ゆっくりと休んでおくが良い。」
いや、いやだ。自分は、俺は…喰いたくない。
絶対に喰いたくない、同族いや、同族であったものを…。
けど喰いたい…逃れきれない空腹に支配されそうで無限に生み出される葛藤の連鎖。

「逃げ出しても、人間には戻れぬ。人間と出会ったとしても、その姿では皆逃げ出すだろうな。クククッ」
そう言うと赤竜は洞窟の外へと飛び立っていってしまった。
人なんて喰いたくない…。だが、このまま外に逃れてのたれ死ぬのも嫌だ。
ぐうぅと小さく腹の虫が鳴いた。
思い出してみれば、朝から何も食べていない…。
そう思うと酷く空腹感に襲われた。
これを我慢するくらいなら…
一瞬良からぬ考えが頭をよぎった。




「ウゥ・・・
あいつ…まだかな…
暫く経ち心も幾分落ち着いていたが、腹の虫は一層暴れまわるばかりだ。
きつい…。体が重い…。

もう一度自分の手を見つめ直す。

まるでエメラルドのような鮮やかな碧色の鱗。内側に湾曲したぎんとした光沢を持つかぎ爪。度々視界にもカーテンのように広がる翼。手足と同じように動かせる太く力強い尻尾。

やっぱりこれは現実だ。

当たり前だ
紛れもない事実だ。


その証拠に、五感もよりはっきりと研ぎ清まされ、空気中に数えきれない位の生き物の匂いの混じりが感じ取れる。
洞窟内にも…幾つかの匂いがあった。
岩壁の微かに匂う鉄臭さ。獣臭いような鉄くさいような竜特有の匂いと森から流れてくる爽やかな風の匂い。そしてさっきまでここでもがき苦しんでいた…そう俺の…

人間の匂い。

他の匂いより少し独特の臭みがあった。人間の時にも自然と嗅いだことのあるヒトの匂い。匂いを感じ取った時不意にぎゅるるる…と腹が鳴る。
同族の人間を喰いたい衝動に駆られる…。喰いたくて、腹が空いてうずうずする。
なんだろう。これは。
自分自身に抵抗感を感じる。
不意に親友のことが脳裏に浮かんだ。こんな姿になった俺を見てあいつはどう思うだろうか…。
この化け物じみた姿を見て怯え泣き叫ぶだろうか…。 そしてそんな親友を見たとき自分はどうなってしまうだろうか…。

そんな姿を見て躊躇わず喰い殺してしまうかもしれない…。
想像するのがとても怖くてたまらなかった…。


「・・・」
ひどく頭が痛くなって俺は
考えるのをやめた。




更新遅れてすみませんm(__)m

<2013/03/20 11:31 イオン×長引>
消しゴム
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