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「ありがとう！」

嬉しそうに答えると、少女を優しく降ろす。
本当に少しだけだからね、と念を押しながら彼女は酒瓶を渡した。
竜から見ればそれはちっぽけな瓶。
人形遊びに使われそうな玩具と変わらない大きさだ。
その瓶の蓋を器用に開け、中の匂いを嗅ぐ。

ツンと鼻をつくアルコール特有の匂いに一瞬顔を顰めた。
けれど、気にせず瓶をそっと口元に近づけ一口だけ口に含んだ。
ごくっ、と酒を流したロゼの喉が動く。
それを確認した少女は返してもらおうと手を伸ばした。

だがロゼは返さなかった。
少女が下から何度も返してと言うが、聞こえていないようだ。
ぼんやりと瓶を見つめ、また瓶に口をつける。

ごくっ…ごくっ…と喉が鳴り続ける。
一口だけという約束も忘れ、酒を口に流していく。
その姿は完全に酒の虜にでもなってしまっているようだった。
少女が止めようとしても、全くやめる気配は無い。
止まるどころか、もう一本の方へと手を伸ばしていた。
これ以上飲ませてはダメだと必死に止めるが、子供の力では竜に敵うはずもない。

「美味しい…///」

ロゼの顔が少し赤くなってきた。
酒に耐性が無い彼女は、ほんの少し飲んだだけでもう酔い始めてきたようだ。
目はとろんと蕩けたようになっている。

少しずつ漂い始めるお酒の匂いに少女はどうしたら良いのか分からず、泣いてしまった。
竜に酒を飲まれたなど大人が信じるはずがない。
叱られる事まで考えると余計に涙が溢れ出てくる。
持っていた一升瓶に入っていた酒を飲み干すと、やっとロゼは少女に気づいた。

顔を近づけると、彼女の涙をペロッと舐めとった。
温かい感触を受けると、少女はロゼを見上げる。
酔いの証である赤い顔でも、優しそうな笑顔を浮かべていた。

けれど、違った。

「貴女も美味しい♪」

「…え？」

少女は言葉を失った。
冗談なのか本気なのか。
不安が押し寄せ、更には恐怖まで込み上げてくる。

ベロォ…

そうしている間にも、またロゼの舌が彼女を舐めあげた。
べっとりと酒の匂いが混じった唾液。
その強烈な匂いに思わず少女も、うっ…と声を漏らす。
鼻を覆う彼女なんか気にせず、ロゼはクチャクチャと今の味を確かめるように口を動かしていた。
美味しかったようで口角がつり上がる。

少女はその笑みに戦慄し、逃げ出そうとした。
残っているお酒には目もくれず、必死に走る。
だが、その逃走劇は一瞬で終わった。
彼女の足には地面から飛び出した蔓が巻き付いていたのだ。
しっかりと拘束しており、少女は上半身から転んだ。
バサッと土埃が周りに舞う。

地面は固く、少女に鈍い痛みを与えた。
お腹の下には小石もあったらしく、何かが食い込む痛みもある。
それでも彼女は必死に手を伸ばして地面を引っ掻いた。
爪に土が入ろうとも気にしない。
無我夢中で自分の命が助かるようにもがいた。

しかしその行為は無駄に終わる。
いつの間にか手は空を引っ掻いており、体も固い地面から浮いていた。
あの石の感触も消え、新たに伝わる感触は温かいもの。
それがロゼの手だという事に気づくのに数秒もかからなかった。
若草色の巨大な手が彼女をしっかり掴む。

「逃げても無駄よぉ
　ちょっと、お酒のおつまみになってちょうだいっ」

明るい口調でも、やはり恐ろしい。
そして父親がビールを飲む際に食べる枝豆の事を思い出す。
それが今の自分だと思うと、少女の目から涙が零れた。
自分が竜の、酒のつまみに……。

悲しみに暮れる時間は無い。
彼女の目の前にはロゼの巨大な口元があった。
まだ開けてもいないのに漂う臭いに少女は顔を顰める。


グパァ…


そして大口が開かれた。
濃厚な酒と生臭さが混じった生暖かい吐息が顔に吹き掛けられる。
慣れているつもりだった少女も、思わず両手で鼻を覆う。
よく見れば赤みがかっていた顔が更に赤くなっていた。
完全に酔っているようだ。

ぱくっ。
この音がピッタリだった。
少女は軽いつまみと同じく、口の中へ投げ込まれた。
柔らかい舌の上に倒され、呻き声をあげる。

急いで脱出しようと起き上がろうとしたが、ぶにゅりと舌に腕と足が沈む。
同時に唾液が絡みつき、動きが封じられてしまう。
四つん這いの状態での抵抗だったが、すぐに口が閉じられてしまい舌に抱き着く状態へと変えられた。
腕の間で、にゅるにゅると舌が蠢く。

「はうっ…！た、助けて！」

暴れる舌に喘ぎにも似たような声を漏らす。
必死に手で押さえつけようとするも、少女の矮小な力では敵うはずもなく…。
スルリと舌が腕の間から抜けると、大きくうねりを上げて少女を舐め回す。


ベロォ…グチュッ、ジュルルッ…


飴玉のように転がしては、味を含んだ唾液を啜る。
その度に奥にある肉洞が開き、ぶわっと生暖かい風が少女にかかった。
そしてまた責めが再開される。

いくら助けを呼ぼうが、少女の声は届かない。
時折開く牙の門の隙間から、くぐもった声が聞こえるだけだ。
更にそこへ差し込む光が、べとべとになった少女の顔を照らす。
光に気づき、手を伸ばして脱出を試みようとも次に会うのは甘噛みという責め。

ぐにっと鋭い牙が少女の腕に食い込む。
加減されているようで、出血は無い。
ただ痛みとくすぐったさに襲われ、また声を漏らしてしまう。
腕だけでなく、体全てもその洗礼を受ける。
気がつけば、少女の体のあちこちに噛み跡が残っていた。

そこへまた舌が這うと、体が震えた。
けれど今度はすぐに止まった。
牙の間で力尽きた少女を掬い上げ、その上に寝かせる。
彼女は巨大なその肉の上で、ぐったりと倒れていた。
あちこちから聞こえる唾液が流れる音や呼吸の音を黙って聞くだけ。

「はぁ…はぁ…！？ま、待って！」

胸を上下に動かし、鼻を使わずに口だけで呼吸する。
湿り気のある臭い空気が肺を彼女の肺を満たしていく。
彼女からすれば何とも耐え難い気持ち悪さだ。
そんな彼女にロゼは追い討ちをかける。

舌が持ち上がり、少女の体が奥へ滑り始めたのだ。
唾液漬けにされた体はズルズルと簡単に滑っていく。
頭からゆっくりと。
そして、一気に胸までが獲物を待ち続けていた肉洞へと突っ込む。

固めで弾力のある肉壁が少女を圧迫する。
まるで今まで吸った空気を吐き出せって言ってるような力だ。
少女は呻き声を上げながら、引っ張られていく。
肉壁も忙（せわ）しく動き、腰まで呑み込んでしまう。

何時まで続くのだろう…。
彼女がそう思った瞬間にそれは終わった。
圧迫が弱くなると、一瞬で彼女は下へと落とされた。
ごくっ。と嚥下の音と共に。


ボチャン！


広い空間へと投げ出された彼女は、いきなり液体の中へ沈んだ。
竜の体液にしてはサラサラとしており、水にしては臭い。
記憶を遡（さかのぼ）ると、液体の正体がすぐに分かった。

酒だ。
大した量では無かったはずだったが、胃袋の形によって池のようになってしまったのだろう。
少女の肩まで、水位はある。
口内よりも更に濃い酒の臭いに少女は目眩に襲われた。
とりあえず、浅い場所を探そうと胃壁を押して進む。

彼女の手に合わせて変形する胃壁は絶えず蠢き、粘液を分泌していた。
押せば沈むが、押し続けると吸い付くように手を包む。
そんな肉壁の軽い責めにも嫌悪の表情を浮かべる。
消化の恐怖もあって、一刻も早く安全地帯を探そうと体を動かす。

でも胃袋に安全地帯など無い。

「きゃっ！？……！！！」

足元の胃壁がグニュッと動くと、少女はバランスを崩して倒れてしまった。
酒の中へと体が沈む。
必死に手足をばたつかせ、空気を吸おうとした。
しかしそれを阻むように胃壁が動き始める。


ぐにゅっ……ぴちゃっ…じゃばっ


数回動いただけで、津波が起きる程だった。
酒の流れに抵抗する事が出来ず、少女もグルグルとかき混ぜられていく。
口に酒が入ろうが、息が出来なくなろうが関係無い。
ただ食べ物として扱われるだけ…。

「きもひぃかにゃぁ？」

呂律の回っていないロゼの声。
少女は必死に叫ぼうとするが、ゴボゴボとすぐに沈められてしまう。
それに気づかず、ロゼは気持ち良いのかと勘違いをし、胃壁で揉み続ける。
自分でお腹を揉んでいたりもしていた。

少し時間が経ち、少女の意識も遠退き始めた頃。
胃袋に変化が訪れた。

「と、溶け…！？」

酒に浸っていた少女の体が溶け始めていたのだ。
どうやら消化が始まったらしい。
竜の強力な胃酸は酒の海を一気に胃液の海に変えた。
ジュゥゥと焼ける音が響き渡る。

「助けて！！」

死という最大の恐怖に遭遇し、少女は大声で叫んだ。
けれど周りに聞こえるどころか、ロゼにもハッキリと聞こえない。
胃壁も小さな拳で叩くが、効果は無い。
むしろ消化活動を活発にしてしまったようだ。

全身に激痛が走る。
服が溶け、次に肌がドロッと溶け……


グチャッ…グチャッ…ジュゥゥ…


「お父さん…お…母さ…ん………」

しっかりと胃液を塗りたくってくる胃壁。
最初は平気だったものの、次第にその優しいマッサージにも耐えられなくなってしまった少女の体。
胃壁が触れただけでポロポロと体が崩れていく。
透明な液体に肌色が混じる。
どんどん濃くなり、気がつけば少女の体は無くなっていた。

胃袋は静寂を取り戻し、またグチュグチュと粘液の音を谺させていた。

「ねひゃった…？じゃあ、わたひふぉ…」

静かになるとロゼは寝たと思い、自分も横になった。
優しく腹を撫でるが、もうそこには少女はいない。
酔いが覚めれば自分の過ちに気づく……という事もない。
彼女は一度酔っ払っても、次に目が覚める時にはその時の記憶を忘れてしまうのだ。
自分が何をしたのか、周りに言われるまで気づかない。

スースーと寝息を立て始めるロゼ。
夢の中では無事に少女を送り届ける夢を見てる…かもしれない。

葉が一枚落ち、カツンと空になった酒瓶に当たった。

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