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暗翳の空 解き放たれし竜 − 旧・小説投稿所A
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暗翳の空 解き放たれし竜

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クオール視点

イストや国王、他の兵士も僕を見て言葉を失う
確かに自分でもこの竜の姿に未だに驚きを隠せない

伝説は本当だったのだ……



「僕は貴女の呪いを解く方法を知っている!!」

あの時、僕は竜の腹の中で叫んだ
すると僕を包み込む胃壁がピタリと静止した

「何?」

「ここから出してくれれば、貴女の呪いを解きます!
 約束します!」

とりあえず早くここを出なければならない
だから僕を必死に竜を説得した
湖から出れないという嘘に騙されて続けている彼女にとって、今の僕は生かしておくべき存在となるように…
同時に僕の計画を実行する為に

「嘘だったら、今度は容赦なく食い殺す」

低く、唸るような声が聞こえたかと思えば胃壁が一斉に密着してくる
そして圧迫
息苦しく、思わず呻き声を漏らしてしまう

胃壁はそのまま僕を吐き出させる為に忙しく動く
食道へ戻され、口内に…


ドチャッ


大量の粘液と共に僕は吐き出された
竜の体液の臭いが鼻につき、冷たい風が肌を刺す
それでも僕は笑みを零す
これで計画を実行に移せるからだ

「で、呪いの解き方とは?」

竜がグッと顔を近づける
生暖かい息がまた僕にかかった

僕は彼女に臆する事なく、答える
最初、森に入ってすぐにぶつかった硝子の壁
恐らくあれを結界と教え込まれていたのだろう

だが所詮は硝子
竜の力で叩けばすぐに壊れるだろう…

もちろん壊すのは彼女ではない

「僕を竜にして下さい」

「何?」

「今の力では、僕にも解けないのです
 だから貴女の力が欲しいんです」

本に載っていたのは、呪いの話だけではない
竜の爪には他の生物を竜に変える成分が含まれている
更に祖父から聞いた話によれば、唾液も加える事により、自由に変身出来る能力が身につくらしい

「良かろう…」

何とか彼女から爪、そして唾液を貰う事が出来た
持っていた水筒に湖の水を入れ、その二つを混ぜる
そして一気に飲み込んだ

「うっ!?」

異変はすぐ起きた
腹の底から何かが溢れ出てくる
同時に頭の中が真っ白になり、何も見えなくなった

だがそれも一瞬
再び目を開ければ、そこに木があった
…信じられなかった
木と言っても僕より巨大だったそれが、今では同じぐらいの大きさだ
てっぺんがちょうど、僕の顎辺りだろうか?

「赤色か…」

竜が僕を見て呟く
それを聞いて両手を見れば、確かに赤い鱗が手を覆っていた

鋭い爪も生え、尻尾や巨大な翼もある
顔だって、しっかりドラゴンの顔になっていた
湖に写った自分の姿に恍惚の笑みを浮かべた

「それで、呪いは?」

はっと我に返り、見上げれば彼女が此方を見つめていた
まだか?と不満そうな表情を浮かべている

僕は彼女とあの硝子がある場所まで歩いた

「ごめんなさい…」

「何故謝る?まさか、解き方を知らない…」

「いや、違うんだ。呪いなんて無かったんだ」

そう言った直後に僕は尻尾で硝子を砕いた
陽の光を反射しながら、硝子は地面へ砕け散る

彼女の中でも何か砕けたような気がした
目を見開いたまま呆然と立っている

「で、では私は今まで…」

「騙されていたんだよ」

混乱する彼女に僕はそっと言った
ずっと昔から彼女は人々に忌み嫌われていた

僕も同じだ
両親からも、友人からも…今では上司からも暴力を受け続けていた

「だから一緒に、復讐しないか?」

この世界には僕の味方になる人間なんていない
自分に都合が良いように動く愚かな人間しかいないのだ
そんな奴等に復讐をするのだ

紫竜と共に



そして今に至るわけだ

「でも感謝するよ、イスト
 僕を森に行かせてくれたお陰で、こうして強大な力を得る事が出来たのだから」

ニィ、とわざと牙を見せつけて笑ってやった
今までの仕返しをするかと思うと笑いが止まらない
それに耐えつつ、ゆっくりとイストとの距離を縮める

剣を構えて立ち向かおうとするが、無駄
尻尾で彼を壁にぶつけ、あっさりと勝利を手にしてしまった

ぐったりとするイストに、とどめを刺してやろう

「な、何をする気だ」

「何って、食べるんだよ?」

じゅるり、と舌なめずりをしてそう言ってやった



<2012/10/30 18:09 長引×どんぐり>
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