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未詳に戻ると、野々村はどこかにでかけていて部屋は無人だった。

「しっかしまあ、五木谷って、敵は五万といそうだな」
当麻は蜂蜜を一本ブチ込んだコーヒーをゴクゴク飲みながら、無造作に広げた資料に見入っている。

「･･････」
瀬文は胸やけがしてきた。
この女は、頭ばかりか味覚もイカれているらしい。

「東大在中に投資顧問会社を設立。
　自らも派手な仕手戦を繰り広げ、２１歳の時にIT会社を買収。
　以後１５年間、３６歳になる現在に至るまで３２社を敵対的買収。
　金を右から左へ動かすだけで多額の金を稼ぎ、そのあくどいキャラを生かしてバラエティーやワイドショーでキワモノタレン　トとしてブレイク。
　２００９年、タレント議員として比例代表で当選。
　こりゃ命も狙われますわな。招待客全員が共犯だったりして。ククク...」

「いいかげんにしろ」

「は？」

「悪人だろうが政治家だろうが、人一人の命は重いんだ。ゲームじゃない」

「わかってますよ。あたしだって刑事なんだから」

「刑事をなめんな」

「チッ、なめてねーよ。てか、声大きいんだよ」

言い争っていると、野々村がお弁当の袋を掲げて戻ってきた。
「やや。遅くまでオツカレーカツカレーヒレカツカレーなんつって」

「お疲れ様です」
当然、笑えないダジャレはスルーする。

「これ『かど屋』のキジ弁。旨いんだ、これが」

「終わりました。せっかくですが所用がありまして」

「え、もう？当麻君は？」

「終わりました。あたしは、この後、『中部日本餃子のCBC』に所用が......」

「昼も食ったろ」
真剣に気持ち悪くなってきた。

「今日は餃子の気分なんで」

「明日も餃子臭かったら、承知しねえぞ」
瀬文が凄むと、当麻は舌打ちして
「いちいちうっせーな」
と悪態をついた。

「まあまあまあ。二人とも、やっぱり優秀だね。１１１人もの招待客と五木谷サイドのスタッフ全員のデータ把握しようと思ったら、私なんか、何時間かかるか......じゃ、一人で頂くとするか」
野々村はおもむろに注射器を取り出し、シャツの前を開いて
「ング！」
と腹に針を突きたてた。

「！」

「雉も鳴かずば、撃たれまい......」
息も絶え絶えに言うと、野々村はプッと針を抜き、笑顔になった。
「なあんてね。最新の針だから痛くも痒くもないんだ。赤い斑点がポチッと残るぐらいで......」

「糖尿ですか。お大事に」
つき合いきれない。瀬文はあくまで礼儀正しく部屋を出て行った。

「おつかれやまです」
当麻はキャリーバックをガラガラ言わせながら出て行った。

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