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狼と狐のち日常 − 旧・小説投稿所A

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狼と狐のち日常
− その為にも……刀をっ! −
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王女様の行きつけとでも言える喫茶店の入口隣。
そこにシャオン様は何時もの様に腕を組み、壁に凭れていた。
失われた左目は相変わらず、右もまた瞼は降りていた。

「遅かったな、ヒスイ」
「ルーテル王女とヴィクス様は?」

眠っていたようでは無かった。
ボクがそう尋ねるとヴィクス様は声に出さず、顎で店を指し示した。
2人は店内にいると言う事だ。
そして……”遅かったな”?

「馬鹿でしよりは、お前のほうがいいがな」

言葉と言動から、どうやらボクが城下町に訪れている事と
シャオン様を探していたのは察しているようだった。
特に用件を示唆する様な言動は見られない為に、ボクはシャオン様を詮索する。
艶やかな銀毛に異変は見られず、方眸に広がる大空にも曇りは無い。
腰にも愛刀”終咲”が携えられている。
そして、もう一振り……見慣れた刀も携えられていた。
その小さな発見に気付いた様にシャオン様が口を開いた。

「これが必要なんだろ? ヒスイ」
「はい……」

小さく頷いた。
シャオン様は腰帯から”蒼華水蓮”を引き抜くと、ボクに向かって放り投げた。
不規則な放物線を描いてボクに向かって落下する業物。
シンプルかつ精錬された淡い蒼色の鞘から
水晶の様に水色に透ける刀身に走る一条の紅。
極限までに薄く鍛えられた金剛石は日光を遮る事なく、地面に光を透過させていた。

「その刀はやっぱ、お前にしか似合わねぇよ」
「……有り難う御座います、シャオン様」

何故、連絡も無しにシャオン様がボクの愛刀を持っていたのか、理由は知り得ないけれど
たった今、ここで愛刀を取り戻せたのは正直嬉しかった。

「ほら、早く戻ってやったらどうだ?」
「……シャオン様はお見通しなのですね」

刀といい、マスターの入院といいボクの落ち着かない心を見透かした様に
行動の迷いを示唆する様に言の葉を紡ぐ。
ボクは刀を片手に深く頭を下げた後、病院に向かったー




<2012/05/17 20:54 セイル>消しゴム
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