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狼と狐のち日常 − 旧・小説投稿所A

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狼と狐のち日常
− 「マスターが……赦さない」 −
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注意

過激な戦闘シーンがあります、苦手な方はご注意を

注意
 


「貴様ら……何をしたのか分かっているのか?」

ボクの中の’竜’が昂っている。
何時もの様な大人しさではもういられない。
ボクも手を出すつもりは無かったのに。
こうも簡単にマスターを傷付けて平然と居られるなんて。
絶対に赦される事ではない。
芯から滾る殺意は言葉も変えれば、思考も変えた。
他者を殺めるのは最も重い罪。思考する事すら禁忌だと戒めて居た。
けれどもたった今では、それも正義の様に思えてくる。

「業炎に骨の髄まで灼かれて眠れッ!!」

詠唱を破棄し、魔術を発動する。
詠唱を破棄した状態で魔術を発動した場合、消費する魔力は跳ね上がる。
しかし、’竜’であるボクには無関係だ。
溜め込める魔力の限界は計り知れなく、食物を取らずとも魔力は生成される。
それに気付いた当初は戒めるべき力だとしてきたが
今件ばかりは解放するしか無かった。
平然と傷付けて、それが正しいような顔をしてる輩が目の前にいるから!
隊長の率いる小隊の後方で大規模な爆風が巻き起こる。
前兆も無い爆発から逃れられる者はいない。
直撃を喰らい、長距離を吹き飛ぶ者。
黒ずみになり、足下に転がる者。
普段のボクならそれを見れば、己のやったことに嫌悪感を抱くだろう。
でも、何も感じない。何も躊躇しない。

「それが貴様らのあるべき姿だ」

吹き飛んできた兵士の死体から剣を奪い取り、敵陣に突っ込んでいく。
首筋、手首、心臓、脇、腿、腱。
出会い頭の兵士達を切り伏せていく。
一体一体、無惨に斬り刻んでやりたい所だが、この集団の中では
こちらがやられる。
殺人に何も感じない。寧ろ、正義だ。
切っ先を鈍らせる事無く、一体数秒で急所を突き絶命させる。

「っ、貴様は一体っ!?」

残すのは隊長格、ただ一人。
返り血で深紅に染まりきったボク。
戦慄に戦く隊長格。
相手に剣戟させる暇無く、神速で四肢の神経を断つー
がしゃんと隊長格が地面に崩れ落ちた。
膝建ちの状態で両手を力なく垂らし、ボクを見つめている。

「……貴様は最早、ゴミだ」

無数の兵士達の鮮血に塗れた剣を両手で持ち、天に掲げる。
その切っ先は日光を受けて、密かに輝いた。

「フラウ! もう止めろっ!」
「あっ……」

背後から衝撃、マスターの声。
その反動でボクは剣を落としてしまう。

「もう……十分だよ……帰ってきて、フラウ」

理性を喰い殺す寸前まで昂った’竜’が休息に火を消していく。
ここに来て漸く、自分の行いに嫌悪感、罪悪感を覚えた。
殺人はなにもこれが初めてではない。
感じる罪悪感は次第に薄れ、いつかは感じなくなると言う。
まだそれを感じる事ができるということは
ボクはまだ堕ちてはいないと言う事か。
マスターを思ったこの虐殺がマスターを悲しませた。
私は何もできていなかったー
マスターの求める答えー ’ただいま’。
そんな言葉を言える資格も、雰囲気でもない。

「……マスター」

沈んだ様に俯いたボクがねじ切れそうな腹から絞り出せたのは
主の代名詞……それだけだった。



<2012/05/02 22:09 セイル>消しゴム
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