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狼と狐のち日常 − 旧・小説投稿所A

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狼と狐のち日常
− 「海羅を……海羅を撃ちおったな! −
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注意 

グロテスクな表現があります、苦手な方はご注意を。 

注意



これほどまでに人間が憎いと感じたのは久しい。
命の恩人にも等しい人間を傷付けられ、憤怒の炎が心に灼き付いておる。
無数のゴミどもの頭上を飛び越え、儂の任せられた小隊の中心に降り立つ。
着地の際に前肢、後肢で何人か踏み潰したやった。
儂の重さは人間には凶器じゃろう。
原型跡形も無くぺしゃんこにし、鮮血に脚が塗れた。

「グォアアアアアッ!!」

儂は咆哮を上げるのは苦手じゃった。
何故か負け犬の様に感じてしまうからじゃった。
しかし今、咆哮を上げられずにはいられなかった。
たとえそれが負け犬である事を認めるような事であっても
彼奴らにこの憤怒をぶつける為にはこれしか無い。
狼が高台で吠えるような生易しい咆哮ではない。
低く、重い、魔獣の咆哮。
兵士の大半はそれに恐れをなし、腰を砕いた。
口を命一杯に展開し、その集団の中に突っ込む。
数十人もの兵士を口腔内に放り込み、噛み砕いた。

『ぎゃぁぁぁぁっ!』

憤怒の今では獲物の悲痛な断末魔もただの雑音。
耳障りこの上ない。
ぐちゃぐちゃ……と生々しい咀嚼音、滴る大量の鮮血。
魔獣となった儂を見たゴミどもは最早、顔面蒼白で戦意を失っていた。
普段の儂ならここで見逃していただろう。
しかし、ここに居る全員が憎い。
海羅を傷付けた……海羅を……海羅を!

「貴様らなど……味わう必要も無い! 全員纏めて胃袋で地獄を味わわせてくれるわ!」

噛み砕き、肉片と化した獲物達を一呑みすると
再度、小隊に突っ込んでいく。
兵士達は悲鳴を上げ、自らの顔を庇うばかりで
恐怖に縛られ、動く事が叶っておらぬ。
鮮血で深紅に染め上げられた口腔を展開し
鎌首を擡げ、無数の兵士に喰らい付く!

バクンッッッ!

数十人もの兵士が儂の口腔内に収められた。
一人ではただ広い口腔でも流石に十人も詰め込まれたのでは狭っ苦しいじゃろう。
特に味わう気にもならぬ。

ゴクン……

直ぐさま天を仰ぎ、その十人を纏めて飲み下す。
儂の喉は異様に膨れ上がり、ゆっくりと腹部に向かって嚥下されているようだった。
その光景に残された兵士達は釘付けになり、目が離せないようであった。
人間が他者の生物に食い物にされる。
余りにも現実離れしたその光景はどこか妖しく、魔性を秘めておったようで
兵士達は射止められ、何もしようとはしなかった。

『ぎゃぁぁぁぁ!!』

その静寂は胃袋からの断末魔が切り裂いた。
纏めて送られた獲物どもに胃液の洗礼が訪れた様じゃ。
生きたまま、意識のあるままに消化される。
地獄のような胃袋内で恐怖、生への渇望を駆り立てられ
必死に出口の無い胃袋からへの生還を求めている。
抵抗その度に儂の腹は心地よく揺れ、口角を緩めてしまう。
生物の捕食とはこれこそが本性なのだ。
海羅を喰う時のは’捕食’とは言わぬ。ただの戯れなのじゃ。
ものの数秒で胃袋内の獲物達は消化され、儂の糧となる。
そうして、腹の膨らみが元に戻っていく。


「げふっ……今日はまだ腹が減っておる。主ら全員、喰ってしまおうか!」







とうに日は傾き、血塗られた大地が夕焼けに灼かれる。
別働隊もしっかりと仕事をこなしたようで
道や庭を埋め尽くしていた兵士達は地に伏して居た。
しかし、その大半が死体もないじゃがの。
儂と同じ様に喰い殺した様じゃ。

「海羅」

肩に巻かれた包帯はすでに紅く滲んでおった。
極度の緊張があったのじゃろうか、海羅は家の外壁に凭れて休息していた。

「菫……」

海羅が目を覚ます。
儂はゆっくりと側に寄ってやると、突然荒ぶった。

「菫っ、怪我してるじゃないか!」

言われてようやく気付いた。
よく見れば、前肢の裏側に切創が見つかった。
浅くはないが、深くもない。

「こんな傷、放っておけば治る」
「馬鹿……」

海羅は優しく儂に微笑むと、口吻に抱きついた。

「良かったよ……みんな無事で」

儂も海羅に負荷をかけない様に前肢で抱き締めてやる。
儂は人間を大量に殺めた。
正当防衛とは言え、それだけで収まりがつく程ではない。
恐らく、これだけ派遣した兵士のうち一人も返ってこない事になれば
国王とやらは何かしらの策を投じてくる筈。
じゃが、儂らは屈するものか……


なにがあっても、儂は海羅を守り抜くー





<2012/05/02 22:03 セイル>消しゴム
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