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狼と狐のち日常 − 旧・小説投稿所A

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狼と狐のち日常

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「あ痛ててっ……んもぅ、ソルはやっぱ激しいよ」

何時もの様に粘液に塗れた体をシャワーで流し
湯船に浸かって体を癒す。
やっぱり、温泉に限る。

「もうちょっと優しく出来ないかな……」

砂羽から聞いた話、あのソルが喰らう獲物を
原型のまま呑み込む事が極稀な事である、と言う。
と、言う事はソルも彼自身で居候と言う身の事を案じての事だろうか。
にしては、扱いが厳しいと思うのは僕だけだろうか?
今回も骨折寸前。……酷い。
胸や甘噛みされた部分が鈍く痛む。

「でも、ソル自身が嬉しそうだな」

ソルは寂寥の余りに他者に鬼畜に当たってしまう。
それはただ甘えているだけに過ぎない。
形はどうであれ、母に甘える様にしているだけ。
真の心を表現できない不器用な子なんだ。
元は優しい心を持っている。
けれど、その心は奥底に封じ込めて隠しているだけ。
最近では幾分かその殻は破れ、時折照れ隠しで
厳しい当たりではあるが、その優しさを見せてくれてはいる。

「きっと……あの性格は直らないんだろうな」
それでも、あのソルだ。
あの性格は直らないだろう。
ばしゃっ……
時刻は日を跨いで1時。
起きている者はもういない筈。
その為に、今回は菫達用の大きな浴槽に浸かっていた。
生気の感じられる静かな刻ー
背後で爆ぜる水音……

「東雲……」
「変態さんが出たー」
「変態さんじゃない!」

声を荒げたガレイドがぬっ、と横から顔を現す。

「また湯船から出て……次でたら裸目当てって皆に言うからね?」
「……私だけ扱い酷くないか? 折角の出番なんだが……」
「知りません」

訳の分からない事を嘆くガレイドに呆気ない返事を返し
その顎下の毛並みを撫でてやる。
’ク、クゥ……’と何とも可愛らしい声を零す。
表に出て来れる場所が限れているため
僕にコンタクトする為に仕方なく、湯船から出てきた所だろう。
変態とは言っているが、菫達には言ってない。
それに’裸目当てで’って言うのも、言いふらすつもりもない。

「もう……我慢できないんだが、東雲」
「何が?」
「私も久々にお前を味わいたい」
「はぁ!? さっきまでソルの胃袋にいたんだよ!?」

さっきまでの現状を知っているのかと問い質したい所だが
鏡世の住人であるガレイドがその事を知る由もない。

「知っている」

あ、あれ? 知ってた。
意外にも裏でしっかりと見ているんだな。
って、思った。

「……そうやって、私だけ差別するのか?」
「え、あ……そんなつもりは……」

勿論、そんなつもりはない。
これでも平等に接しているつもりだったのだが
やはり、ガレイドは活動範囲も状況も限られている。
菫や椛が執拗に機会を窺って接してくる為に
ガレイドも出て来れず、僕も誘う事も出来ない。
自然と彼には不平等な面が出てきてしまう。
例えるならば、僕が親で
菫、椛、ガレイド、ソルが子供なのだ。
子だくさんと言うのも中々大変なものだ。
にぎやかで楽しい事には変わりないが。

「では、呑み込んでも良いだろう? 時刻も遅い、私の揺籠で眠れば湯冷めしないぞ?」
「うぅ……分かったよ」
「うむ。丁重に扱おう」

くっ、と頭から胸までを咥え込まれ
体が浮遊感に襲われる。
ガレイドに触れた者は一時的に鏡世の住人と同等になり
鏡世に侵入可能になる。
しかし、それはただ単に捕食者と獲物の関係ではあるが。
数秒もかからぬうちに辺りも暗くなり、ひんやりとした空気が漂い始める。
湯船に浸かっていた今なら気持ちよいが、次第に寒く感じるだろう。
それらが、僕を鏡世に引き込んだ事を教えてくれた。

「あぁ〜、着いちゃった」
「ん? 鏡世は嫌いか?」
「そうじゃないけど……鏡が一杯あるから監視されてる気になっちゃう」

優しく地面に降ろされると、辺りを見渡す。
鏡を一面に貼付けた様な壁……鏡壁とでも言うのが一番良いだろう。
360度隙間なく、僕とガレイドを写し込んでいる。

「さて、湯冷めしてしまうからな♪」

鏡壁を見つめている僕を尻目に、少々乱暴に僕を押し倒す。
そして、唾液を纏った舌で裸体を舐め回す。
舌上のザラザラがじっとりと体を這い
こそばゆさと粘性の高い生温かな唾液を塗りたくっていく。
ものの数秒でガレイドの唾液コーティングが完了する。
次第に冷える体に伝わる生暖かさは心許ないが
ないければないで寒いの確かだ。
粘性も高く、そう簡単にこの生暖かさは消えそうにはなかった。

「んむ。美味いぞ♪」
「嬉しくないよ」

むすっ、とした返事を返した瞬間
ガレイドから粘液を吐きかけられる。

「クク、もう抵抗できんだろう?」
「っぁ……卑怯だよっ……」

その粘液は体液と特殊な胃液を混ぜ合わせたもので
僕の体から生気を融解させてしまう。
その事実は急激な疲労感として僕に襲いかかる。
四肢が震え始め、体勢を整える事も
立ち上がる事すら不可能になってしまう。

「抵抗できない獲物ってのも、また美味しい」

ぐったりする僕を尻目に、再び舌が体を蹂躙する。
背中、脇裏……余すとこなく。
ハクリ、むぐむぐ……
一通り舐め終えるとガレイドは足から咥え込み
肉に牙を食い込ませながら、口腔に引き込んでいく。
腿、腰、胸、肩……
止まる事なく徐々に僕はガレイドに呑み込まれていく。
口内の責めが始まる……

ずるぅ……ゴクン♪

「ちょ……ガレイ……」

声を上げようにも既に喉肉に呑まれ、声を封じられる。
ガレイドは口内で責める事なく僕を呑み込んでしまったのだ。
下半身から上半身まで余す事なく、喉肉に押し潰されていく。
そして、急に視界が開けた。

「ほぅら、お前を喰ってやったぞ♪」

鏡世ノ狼の膨らむ喉を嚥下される自分。
半透明の喉の内側、そこを通じて鏡壁に映る粘液な自分。
ただ、喰われて暗闇に放り出されるよりも
この様に喰われている鏡に映った自分の姿を見るほうが
遥か明瞭に現実を突き付けられる。
もし、これが喰われるだけの獲物なら
決定的な絶望を味わう事になるだろう。
体内に呑み込まれ封じられる自分の姿。
決して脱出の叶わない絶望の肉洞。
粘液と肉洞が擦れ合い奏でる生々しい水音。

「ここだろう? 東雲」

何を思ったのか唐突にガレイドは喉の膨らみ
つまり、僕の位置の僅か下を前脚で押さえる。
鏡に映るガレイドのエメラルド。
それは僕を見つめて、何処か嬉しそうに見えた。
食道の蠕動運動が僕を運ぼうとする。
しかし、その下はガレイドに押さえられているために
嚥下が非常にゆっくりになってしまう。
とはいえ、少しずつは嚥下されている。

ゴクン、ゴクン、ゴクリ……

喉が何度も何かを呑み込み、音を立てる。

「!? っぁ」

と、頭上に大量の粘液……唾液が降り注いだ。
この狭い肉洞の中で躱す術はない。
旋毛から大量の唾液を直撃してしまう。

「ふふ、汚らしい姿だ」
「っ、ガレイドっ……げほげほ……」

半透明だからこそ、獲物には絶望を
捕食者には支配欲を。
ガレイドには加虐心を満たす。
唾液に汚され、犯される様を見てガレイドは
楽しそうに喉を鳴らしている。

ずぶっ……どちゃっ

ゆっくり嚥下される事、数十分。
漸く、足が噴門をこじ開け
胃袋に落下する。
液体の溜まった薄い膜のような胃袋で
ドロドロ粘液に浸され、四肢を投げ出す自分が鏡に映り込む。

「あぁ……お前を消化して糧にしてやりたい」
「……菫とかに何されても知らないよ? 特にフラウ」
「……言われなくとも分かっている」

ぐちゅぐちゅと汚らしい音で粘液が胃壁と擦れ合う。
そして、胃袋がゆっくりと揺れる。
これはガレイドが自ら行っている事。
獲物を確実に眠りに誘う。
吸収される獲物ならこの上ない凶器だ。
今の僕には関係ない事ではあるが……

「明日の昼頃には出してやる。それまで私の夜食だ」
「あ〜はいはい。皆に言っておいてよ」
「……扱い酷いな」
「気にしない、気にしない。じゃ、眠るね……」

次第に程度を上げる揺れが心地よくなり
先程かけられた胃粘液のせいもあり、瞼が重い。
ようやく眠って、昨日とは分かれれそうだ。
たまには、ガレイドも労ってやないと。


「ガレイド……気持ちいいよ……」


そうして、意識は彼方に飛んでいった。






「久々に……腹が重いな」






<2012/03/22 17:30 セイル>消しゴム
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