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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜 − 旧・小説投稿所A
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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜
− 悪鬼 −
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ゲーム機の下から発見した「故障中」のプリントを見て、バ
ビロンの脳裏にひとつの仮説が浮かび上がった。

まず、支配欲の強い青年は、偶然見かけたレムリアをどうし
ても手に入れたくなった。図鑑などから吸収した知識から、
彼女が世界でも三本の指に入るほどの貴重種であることには
すぐに気付いただろう。
しかしポケモンを使って誘拐を試みようにも、彼女の隣には
名も知らぬ別の竜(バビロン)が居たため実行できなかった。

そこで青年はどうにかできまいかと頭を悩ませた。そして恐
らくそのとき、片方に「故障中」の紙が貼られた2台のナンプ
レゲーム機が目に留まったに違いない。ナンプレが自分の得
意分野であることと、たまたま壊れていたゲーム機という二
つの偶然。青年はこれらを利用し、レムリアを勝負の結果と
して堂々と手に入れられるよう仕向けたのだ。

その仕掛けのタネは至って簡単だ。「故障中」の貼り紙があ
る方のゲーム機から、それを引き剥がして隠すだけ。後は勝
負がスタートする直前、自分が先に正常なゲーム機の方を陣
取っていれば、バビロンは必然的に故障した台の前に立って
プレイするしかない。

さらにこの戦略の特に長けたところは、証拠がほぼ何も残ら
ないことだ。バビロンの台が故障中であることを示すプリン
トは見つかったものの、それが青年の手で隠されたいう証拠
はない。おまけに不用意にこのプリントを青年に見せ、「私
の台は壊れているから、勝負は仕切り直しだ」などと言おう
ものなら、「負けそうだから、わざと自前の紙にそう書いた
だけじゃないのか?」などと逆に疑いを掛けられかねない。


「(なるほど……見かけ通りといえば見かけ通りだが、こ
いつはかなりの策士だ……)」

きっぱりと断定はできないが、バビロンはこの仮説を信じ
ざるを得なかった。ようするに最初から、青年の手の平の
上で踊らされていたという訳だ。人間ごときの企てを見破
れなかった自分にも腹が立ったが、それ以上に青年の可愛
げのない貪欲さに怒りを覚えた。ここまで計画してまで宝
を奪おうとする輩を見ると、力任せに強奪しようとする者
の方がまだ理解できる。


「(まあ……今はそれどころじゃない、か……)」

バビロンは現実に焦点を合わせ、間もなく30秒のハンデタ
イムが終わるのを確認した。だが故障している自分の台を
目を閉じてプレイするとなると、2、3回戦と同じように負
けは見えている。どうにか起死回生できる手段はないかと、
バビロンは瞬時に対策を巡らせた。



=============




「こんな窮地ともなれば……こいつを使うしか……」

かつて彼の親元であるバイオリック社が、人工竜と同時期
に開発した最新鋭のシステム。それはコンピュータのOSや
プログラムを、無線で自由に改変できるという画期的なも
のだった。つまりコンピュータに手を触れることなく、そ
のコンピュータを自在に操作できてしまうのだ。旧バイオ
リック社は世界中に無線によるハッキングが蔓延するのを
恐れて発表を控えたが、社内でしか活躍の場がない人工竜
には真っ先に搭載した。

「(フフ……今回だけはあの会社に感謝するかねぇ……)」

バビロンは左手をさり気なくゲーム機の左側に持っていき、
内部のコンピュータと自らの意識を直結させた。これでバビ
ロンは、故障した部分の修理を手がけることが出来る。しか
しその作業が終わったと思いきや、ちょうど30秒のハンデが
終わりを告げる。これでバビロンもナンプレの解答に臨める
ようになった。

「(くそ……便利なんだか不便なんだか……)」

ところがここで問題が起きた。バビロンは脳内のコンピュー
タを使用している際、他のことを同時に行うことができない。
よってゲーム機のバグの修復と、問題の解答を並行して進め
ることは出来ないのだ。
バビロンは一瞬、ロンギヌスのポテチを摘みながらiPodを片
手にテレビを眺めるという器用さが、途轍もなく羨ましいも
のに思えた。

「(優先順位をつけるならもちろんバグの修復だが……それ
だと……)」

目を閉じたまま片手でのバグ修復となると、かなり難航する
と考えられる。
その間にもし、青年がナンプレの問題を解き終えてしまったら……



……バビロンの敗北が決まってしまう。バグ修復に時間を費
やした挙句、1マスも埋められないままレムリアを奪われる……
それは最悪の結果を意味していた。
しかしそのときに青年がまだ問題に手間取っていれば、バグ
の修復はバビロンを勝利に運ぶレールとして大きな役割を果
たす。

バビロンは激しい葛藤に苛まれた。
本当にこれで正しいのだろうか……
他にベストな選択肢は無いのだろうか……





「…………!!」

バビロンは葛藤の無意味さに気付いたのか、アクセル全開で
バグの修理に走った。ここで思い悩んでも仕方がない。とに
かく何か行動しなければ何も変わらないのだ。

============



やがて数分後、バビロンはゲーム内に潜んでいたバグを完全
に取り除いた。たかが数分と言っても、この青年が相手であ
るからにはかなりの差が出来ているはずだ。おそらくはもう
完成間際まで届いているのかもしれない。

バビロンは1マス目に取り掛かる直前、青年のプレイ画面へ
と目を向けた。空白であるマスのうち、およそ9割が既に出
来上がっている。流石は数学のコンテストで優勝をもぎ取っ
ただけの事はある。

バビロンは一気に彼との差を詰めようと、怒涛の速さでタッ
チパネルのテンキーを叩き回した。隣で同じ動作を繰り広げ
ている青年に、わずかに緊張が走ったようだ。もうここまで
来ては、全ての面倒な計算などを跳ね除けて突き進むしかない。

バビロンはありとあらゆる感情を捨て去り、ただ機械的に指先
を動かすことにのみ意識を向けた。
そして…………










<2012/05/25 18:38 ロンギヌス>消しゴム
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