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人を呪わば穴二つ − 旧・小説投稿所A

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人を呪わば穴二つ

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目を覚ましたとき、イーブイは体が軽く感じた。
どうやら風邪は完治したようだ。

今までの疲れをすべて吐き出すかのように、大きく欠伸をする。
涙で目を滲ませながら瞼を開くと、眩しい光が刺さった。

思わず顔をしかめてしまう。
それぐらいに熱く、鋭い日差しだった。

「んー……あ、リザードン」

気を失っていたイーブイを助けてくれたオレンジ色の生き物にお礼を言おうと思い、辺りを見渡すがどこにもいない。

よっこらせと体を起こし四つん這いで犬のように伸びをする。
もう一度軽く欠伸をして、イーブイは外へ出ようと光の差し込む場所へと向かっていった。





「っ! うわっ!」

外に出た瞬間、イーブイは驚愕した。
イーブイの目の前には、大きな崖がぽっかりと口を開けていたからだ。

どうやらこのリザードンの住みかは崖っぷちにあるらしい。
それもかなり標高が高い場所であることは、ここに吹く風の強さで理解できた。
気を抜けば、イーブイなど簡単に吹き飛ばされてしまうだろう。

ここで初めて恐怖を感じたイーブイは、自然に穴の中へと戻っていったのだった。

「ど……どうしよう。リザードンが帰ってこないと僕、帰れないよ」

今さらながら、不安になってきたイーブイのお腹が“キュルルッ”と可愛らしく鳴いた。

「うぅ、お腹空いたよぉ……」

風邪で食欲があまり無く、まともに食事を摂っていなかったイーブイ。
空腹なのは、回復した証拠なのだが、今では彼にとって耐え難い苦しみである。

よろよろともといた位置に戻り、横になる。
癖で体を丸くするが、そんなことをしても何も変わらない。

今の彼には、リザードンに早く帰ってきてほしいと願うことしかできなかった。

だから、近くでバサバサと翼を羽ばたかせる音が聞こえたとき、イーブイはさっきまでの脱力感が嘘のように、勢いよく起き上がったのだった。

「おー、起きていたのか」

「……リザードン、お腹空いたよぉ」

我慢できず、思わず口にしてしまう。

リザードンはその言葉を聞くと、笑いながら近づいてきてイーブイに青い木ノ実を手渡した。
それは、この辺りで『オレンの実』と呼ばれる有名な果実だった。

「腹が空くってのは元気になった証拠だな」

リザードンの言葉を半ば無視して、イーブイはオレンの実を口一杯に頬張っていた。

口の中に広がる爽やかな味は、病み上がりのかったるさを吹き飛ばしてくれる。
だからといって、少し口に入れすぎだろう。
案の定、イーブイは喉を詰まらせた。

リザードンが渡してくれた水の入った革袋で、何とか事なきを得る。

「プハッ! ……ありがとう」

「もう少し落ち着いて食べろよ?」

イーブイはこくりと頷き、再びオレンの実を咀嚼し始めた。

「それが食い終わったら、家まで送っていってやるよ」

「ごへん。ありがとふ」

モゴモゴと口を動かしながらイーブイは言った。

対するリザードンは、クスクスと笑いながら消えた火を再度つけ直していた。

さっきまで薄暗かった空間が一気に明るくなる。
と、同時にリザードンの様子もはっきりと見えるようになった。

勇ましいという言葉がぴったりのその堂々とした姿は、誰が見てもかっこいいと感じることだろう。

「……?」

ここで、イーブイはふと不思議に思った事――もとい気付いた事――があった。

リザードンの口周り、オレンジ色の体とは違った赤い染みのようなものがあるような。

「……? 何だ?」

「いや! 何でもないよ」
リザードンに急に問われ、びっくりしたイーブイは少し言葉が焦った口調だった。

(気のせいかな。うん……きっと気のせいだ)

自分にそう言い聞かせ、イーブイは実の最後の一口を、口の中に放り込んだのだった。


更新に間が空いてしまいました。すいません。
<2012/02/16 23:58 ミカ>
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