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バベルの塔 − 旧・小説投稿所A

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バベルの塔
− 道標 −
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ーーーーーーあの大事件から三日。

バビロンの傷が癒えるのに反比例して、テレビはバイオリック社の話題でパンクしそうだった。
生命工学の市場から撤退し、今後は無難な私立大学を営んでいくそうだ。

また、裏ギラティナは現実世界に飽きたようで、自らの意思で反転世界へと戻っていった。
お陰でギラティナは本来の性格を取り戻した。

さらに嬉しいことに、ルギア、ゼクロム、ジュカインの三匹は最期の時間をリーグで過ごすこととなった。
代償として食卓はかなり窮屈になったが、会話は倍以上に膨らんだ。
おまけに総出でテーマパークに出かけ、夜更けまで遊び明かした。
ルギア達とは無縁に等しかったバビロンとレムリアも、いつしか楽しそうに談笑していた。

まさに最高の、そして、最期に相応しい日常だった。








ーーーーそして来たる、別れの刻。

ルギア、ゼクロム、そしてジュカインは、カイオーガの部屋に集まっていた。
海を模したベッドの上で泣き崩れている彼を、何とか慰めようとしているのだ。
しかしどんな冗談や思い出話も、今日だけはカイオーガの胸に届かない。
ついに意固地になった彼は布団の中に潜り込み、尽きそうもないしゃっくりを繰り返していた。


「いい加減にしろ!!!
昨日の夜まで一緒に騒いでおいて….今さら口も聞かないとはどういう風の吹きまわしだ!!?」

「・・・・・」

「この…..!!」

ルギアはついに堪忍袋の緒を切らし、ベッドから強引に引っぺがそうとした。
しかしカイオーガはビショ濡れの布団を離さない。
その姿はまるで、仮病を使ってまで学校から逃れようとする、不登校児そのものだった。















「…そうか。行くぞゼクロム」

「はっ…え? でも….」

「顔も見たくない私達が、こいつの部屋に居ても迷惑だろう。来い!!!!」

「あっ…...ちょっと…」

ゼクロムの首を鷲掴みにし、扉へと引っ張っていくルギア。
振り向きざまにカイオーガに厳しい一瞥を送ると、そのままドアをぴしゃりと閉めて出て行った。



「・・・・・勝手にいっちゃえ」

「…な、なぁカイオーガ。俺の顔も….見たくないのか?」

「・・・・・・・・・グッ・・・・ズッ・・・」

「そっか………..」

ジュカインは哀しげな微笑みを浮かべながら顔を伏せた。
ルギア達と同じく部屋を出ていこうと、布団の大きな膨らみに背を向ける。

「……………っ…………」

最後に何か言おうと口を開いたが、言葉にはならなかった。
ドアを静かに閉め、出来るだけ足音を立てないように部屋を後にする。


「・・・・・ハッ・・・ぅ・・」


誰も居なくなった自室の中で、孤独すぎる溜め息をつく。
訳も分からないまま額の上にヒレを載せ、仰向けで天井のタイル模様を見つめている。

直前までこの部屋にルギアやジュカインがいたのが、気が遠くなるほど大昔の出来事に思えた。



「……....バカぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!!!」


ーーー勇気の無い自分に対してなのか。
ーーー気持ちを理解してくれないルギア達に対してなのか。
ーーーそもそもの原因であるバイオリック社になのか。

やり場のない怒りが、心の壁をゴム弾のように跳ね返り続けていた。
後悔と悲しみ、そして自虐の笑いが木霊する。






・・・・・ギィィィッ・・・

「誰だよ、入って来るなっ!!!」

「そういう訳にもいかないんでね。邪魔するぞ」

飛んでくる枕を避けて入ってきたのは、傷もほとんど癒えたバビロンだった。
固い表情のままベットの側まで歩き、カイオーガを天井付近の高さから見下ろす。



「ルギアが外で大声で泣いてるぞ。最後の挨拶ぐらいするべきだと思うが?」

「えっ……..し、知らないよそんなの…...…」

「…私の計算じゃ今日の午前11時40分に、カメラメモリの効果が尽きるんだがな」

カイオーガの眼が一瞬、時計の方に動いたのをバビロンは見逃さなかった。
某有名キャラクターの絵が付いたそれは、既に11時15分を示している。
ーーーーつまりあと25分で・・・


「…..フフ、まあ拗ねる方が好きならそれでもいい。
ただひとつ、言いたい事があるだけだ」

「…………なんだよ……」

「なぁに、実に単純明快なことだ」




















ーーーーーーごめん。

カイオーガはギョッとした。
バビロンが謝罪の言葉を口にするのを初めて見た。
それも「悪かった」や「すまない」ではなく、性格上最も言い辛いであろう「ごめん」で。

「え………」

「今さら気づくのも情けないが….諸悪の根源は私だ。
バイオリックに敵対心を燃やすばかりで、結局は内心、お前やマスター達が助けに来るのを期待していた」

目を頻繁に瞬かせながら、声を喉から絞り出すバビロン。
プライドの高い彼が自分の非を認めるなど、カイオーガは欠片も思っていなかった。

原因不明だった怒りが、彼の「ごめん」の一言で潮のように引いていった。




「バビロンは……何で、あんな事したの…?」

「何をだ」

「急にバイオリック社に攻め込んで….命賭けの大富豪までして…」

「夢…..だからな」

「ユメ?」

「…そうだ。あれが私の生来の夢。
自我を与えられてからというもの、ずっとウィルスの開発に取り組んでいた」

「そんなにバイオリック社を潰したかったの…?」

「フフ….まあその理由は自分でも理解できないんだがな。
奴隷にされた復讐かもしれないし、単なる鬱憤晴らしかもしれない。
ただ最も確かなのは……」

バビロンは肩に貼り付いている取れかけた絆創膏を剥がし、クシャクシャと丸めてゴミ箱に放った。


「死にたくなかった…..というのが正直なところだ」

「えっ….死ぬ?」

「初期型にせよ現行機にせよ、人工竜の製造過程やDNAはバイオリックの特許だ。世界市場でも、その技術は諸刃の剣でな。
一体につき5000万円以上の高値で取引されているらしい」

「ごせ……」

これは紛れもない事実だった。
旧・バイオリック社がその市場を独占していたのも、人工竜に関するすべての利権が集中していたからだ。
会長や社長や幹部達は、さぞかしウハウハだったことだろう。


「そ、それで….?」

「…バビロンシリーズの寿命は10年と持たない。
だが死んでも内臓のサンプルやDNAは採取できる。
これがどういう意味か判ったか?」

「ううん…」

「もし私の寿命が来たとして、その死体には何が群がってくると思う?
ハエと一緒に大手企業の研究員達が、わずかな肉片を求めてわんさかと集うだろうな」

「あっ…!」

バイオリック社の繁栄を妬む他社にとって、人工竜の遺伝子さえあれば、あとは自社で何体でも製造できる。
そうなればバイオリックの地位は、坂道を転げ落ちる雪玉のように転落するだろう。
バイオリック社の代名詞だった人工竜が、他社からもドカドカ市場に放出されるからだ。



「じゃあそれを防ぐためにバイオリックは…..一匹狼の君を引き戻そうとしたの?」

「…確かにここに住み始めて一ヶ月は、脅迫メールがゴミのように届いていた。
最近ではそれも無くなっていたが…...しかしバイオリックのデータベースに侵入して見つけたよ。
社長が私に確保団を向かわせる予定だったそうだ。それも今日の日付けでな」

「ご…強引に?」

「ああ、強引どころじゃない。むしろ確保というより処分だな。
死体を社に持って帰るか、最悪でもDNAが残らないよう、骨まで焼き殺せという内容だった。
生きながらえさせたところで、私のような反逆者に与える職場も無いだろうからな」

「そんな……」

事の重大さは想像を遥かに上回っていたようだ。
何も知らなかった悔しさに、布団の中でカイオーガはギリリッと歯を擦らせる。





「まぁそれも済んだ事だ、どうでもいい。
お前には別の、もっと重要な仕事が残っていると思うが?」

「…….もう、嫌われちゃったんだ…..今更どうしようもないよ…」

「覆水盆に返らず、とでも言いたいのか? そうは思えないがな…」

バビロンはボードの上に載っかっている、小さな写真立てを手にとった。
昨日現像したばかりの、テーマパークで撮った記念の一枚だった。
ルギア、カイオーガ、ジュカイン、ゼクロム、ギラティナ。
イルミア島出身の仲間達全員が、満面の笑顔でバビロンにピースサインを向けている。


「覆水盆に返らず、だ。だが盆に新しい水を注ぐことは出来る」

「そんなの簡単に言わないでよ…」

「フフ…まあどんな選択をするか、それはお前の自由だ。私には一文の得もないしな」











「ただ….後になって後悔するような道なら、最初から選ぶな」

辛辣な口調で言った後、バビロンはニヤッと口元を吊り上げた。
写真をコトンと台に戻し、それ以上何も口にすることなく部屋を立ち去る。
ドアが閉まる音が、またしても虚しい空気を漂わせた。




・・・・・・





「…..まだ….時間あるよね………」


再び孤独に包まれた部屋の中で、カイオーガは深呼吸を三度繰り返した。
そして三度目の息を吐いた直後、意を決してバネのようにベッドを飛び上がる。布団をドアの前まで引きずりながら部屋を飛び出した。

ドアのすぐ横、カイオーガの死角となるポイントにもたれていたバビロンは、廊下を突っ切っていく彼を見て微笑んだ。




「だいすきなみんなと、か…...」


ーーーだいすきなみんなと。
例の写真の隅に、丸っこい文字で書き加えられていた言葉だった。




<2012/03/01 22:02 ロンギヌス>消しゴム
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