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バベルの塔 − 旧・小説投稿所A
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バベルの塔
− 敗北と絶望 −
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ゴロゴロッ……ビシャァッ!!!!

二匹のカイオーガ達によって、あっという間に大空に雷雲が立ち込めた。絶叫のような雷鳴が轟き、雲の奥では稲妻が光った。彼らの頭上にあったゴンドラが、落雷によってゴウゴウと炎に包まれる。


「雨は……お嫌いですか?」

「君がいなければね」


お互いのヒレが同時に空を横に切った。鋭い二本の斬撃が二匹の間でぶつかり合い、モクモクと煙が起こる。どうやら正反対の性格とはいえ、攻撃のタイミングや戦闘力は等しいようだ。

カイオーガは爆煙の中から不意をつき、至近距離で10万ボルトを喰らわせようとした。しかし当然のようにそれは見切られ、裏カイオーガはジャンプして上からヒレを叩きつける。カイオーガは難を逃れたものの、ゴンドラの屋根にはヒレと同じ形の大穴が出来ていた。


「う〜怖いねぇ〜….」
「フフ….あなたにだけは言われたくない台詞ですね」


ブルーの斬撃が飛び、カイオーガの頬を掠めて血を散らさせる。


「…前に闘ったときには、メモリという武器の力を借りていた。今は違う。そんな科学に頼ることなく、お互いの実力や頭脳で争っている」


二本目の雷が落ち、またひとつゴンドラを焼いた。



「そして理論上は、この勝負に決着はないはずなんです。戦闘力も策略も互角なのに、どうして勝敗が決すると思いますか?」


バビロンそっくりの表情で、牙を剥き出して微笑む。
相手が持論を語って優越感に浸っている今こそ、カイオーガは反撃のときは満ちたと直感した。そして自分の腹の膨らみをそろっと撫で、合図を示した。




「確かに考えることは一緒かもしれない………でも君は忘れてるよ!!!」









「…仲間がいるからこそ、出来る事をね」

「ぅおりゃぁぁぁッ!!!!!」
「なっ……!!!」


カイオーガの口から飛び出したもの。それは罵倒の言葉と、先ほど彼が呑んだジュカインだった。胃粘液にまみれながらもその刃は鋭い輝きを放ち、裏カイオーガの頬をパックリと切り裂いた。

「ぐぁぁッ……!!! く、くそ……!!!」

裏カイオーガは真っ赤に染まった頬を押さえ、もう片方のヒレでジュカインを仕留めようと前に出た。しかし激痛によって意識がクラクラと歪み、思わずバランスを崩してしまった。


「う….うわぁぁぁぁっ….!!!」

中央に大穴が開き、他に二匹も乗っているゴンドラの上で、よろめくことなど物理的に許されない。ついに裏カイオーガの体は重心を失い、高度60メートルから雨粒と一緒に落ちていった。



ーーーあああああああああぁぁぁぁぁぁァァァァァ・・・・・・・

断末魔が次第に小さくなっていき、そして・・・






・・・・ドサッ


生々しい音が60メートル下から響いてくるのを、ジュカインは彼の胸の中で聞いていた。カイオーガは落雷でゴンドラが自動停止したため、舌を命綱代わりに使いながらソロソロと鉄筋を下りていく。

そして地上2メートル程まで無事にたどり着くと、ピョンとコンクリの地面に飛び降りた。ジュカインを離し、傷だらけのヒレで再びギュッと抱き締める。


「お、おい……やめてくれよこんな公衆の面前で…」

「えへへ……やーめーまーせん♪」


戦闘を終えて気が抜けた顔で、カイオーガはニコニコと笑う。十年前よりちょっと成長したその顔に、ジュカインは顔を赤らめるだけだった。彼の胸に抱かれたまま、訳の分からない文句をブツブツと呟く。


「(#%^$\;?&#8364;#]%¥&@…...)」

「え? もっと?」

「言ってないっつの!! それよりどうするんだよ…こいつ….」


ジュカインの視線の先で、裏カイオーガは横たわっていた。どうやらゴンドラから落ちた際に、全身の骨が折れたらしい。ただひたすら、戦闘前とは別人のような声で「いたい….いたい….」と繰り返していた。




「トドメ、刺しちゃおっか」

「お、おいちょっと待ってくれ!!!」

ジュカインが声を張り上げた。


「決着を着けたいお前の気持ちは分かるけど….でも……やっぱりカイオーガなんだ」

「…え?」

「確かに体の色も、性格だって全然違う!……でもあいつもお前も、同じエターナル=カイオーガだろ? そうなんだろ?」

「……………うん……」


『敵』とはいえ、結局は『裏の自分』。
元々は同じココロの主導権を賭けて争っていた、いわば精神的ばライバル。
ジュカインに諭され、カイオーガは初めてそれに気が付いた。




「でも、どうしてジュカが庇うの…?」

「えっ!!? あっ…いや…….それは….あれだよ…」








「俺はまぁ……その、お前が大好きだからさ、あいつも心から嫌いにはなれないんだよ…」




「だ、だから頼むよ…!! また俺を食って遊んでもいいから、あいつを見逃してくれ….頼むッ!!!」


ジュカインは膝を下り、地面に頭をこすりつけて懇願する。カイオーガは彼の見せた姿に、ココロから「強迫観念」という鎖が外れたような気がした。そして何時の間にか、「なぜ自分を殺すのか」と自問自答していた。




「………からね…」

「えっ?」

「べ、別にいいけどさ….。ツケはちゃんと払って貰うからね!!」

「まさか舌袋に1週…….…さ、3時間とかいうんじゃないだろうな!!」

「やだなぁ〜♪ 最低5時間ぐらいは当然でしょ?」


ジュカインが「一週間」と言いかけたのを聞いて、カイオーガの顔から少し笑顔が飛んだ。一週間もすれば、ジュカインは消えてしまう…….冥土に帰ってしまう。それを彼自身が一番気にしているのを、カイオーガは瞬時に見破った。

しかし談笑も束の間。二匹は動けない裏カイオーガの元へと歩いて行った。彼のメモリを取り上げて破壊すると、遊園地の風景は瞬く間に消え去り、元々の部屋の様子が戻ってきた。


「………………」
「………っ……」


裏カイオーガは敗れた悔しさもあるためか、彼らと目を合わせようとはしない。全身が動かないと分かっていても、無理やり奮い立たせていた。あまり意味は無いようだが。


「…….ほら….痛いけど我慢してね….」

「…さっ、触るな!! 手当てなんかいらな……いッ!!!」

「ハハ…説得力なさすぎだよ」


がむしゃらに探し当ててきた救急箱で、カイオーガは彼のヒレに包帯と厚く巻き付けだした。自分とほとんど瓜二つの肉体を介抱することに違和感を覚えながらも、黙々と器用に折れた部分を固定していく。








「何故….私はこんな結末のために……わざわざ蘇ったのですか……?」

「・・・・・」
「・・・・・」

「冥界で寝てればよかったのに……何故……?」


そう尻すぼみに呟きながら、裏カイオーガは瞳を閉じる。カイオーガが包帯を結び終えるのと同時だった。目蓋を下ろしたままだったが大きく胸を膨らませ、そしてハーーッと長い息を吐いた。



「ほら….あなたが受け取ってください…」

「…えっ?」


裏カイオーガは目を閉ざしたまま、胸に輝いていた星を、プツッと取り外してジュカインに押しつけた。この星が何の効果をもたらすのかを知らない彼にとっては、ただの変わったアクセサリーなのだが。


「あ、ありがとよ……」

「さぁもう行って下さい。疲れたんで…….休みます…」



再度、奈落のようなため息を漏らす。その後は死んだように一言も発さず、浅い呼吸を繰り返していた。

カイオーガとジュカインは顔を見合わせ、コクンと頷く。彼に背を向け、メモリ効果の解けた至って普通のドアをくぐって出て行った。







<2011/11/14 19:54 ロンギヌス>消しゴム
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