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バベルの塔 − 旧・小説投稿所A

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バベルの塔
− 鉄箱の上で −
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最初に敵の元へとたどり着いたのは、カイオーガとジュカインだった。闇雲にドアを破壊して周るうちに、偶然出くわしたのだ。彼らを仏頂面で迎えたのは、裏カイオーガ。


「おい….こいつ、カイオーガだよな?」
「…僕だよ。精神世界で倒したはずなのに……」

「ああ…その節はどうもお世話になりましたねぇ。お陰さまで二度と君の心に入れなくなってしまいましたよ」


カイオーガはそれを聞いて安堵し、ホッとひと息吐いた。しかしその一瞬の隙を狙ってか、裏カイオーガはブルーのメモリを素早く取りだした。



キチッ…『STAGE(舞台)!!』


裏カイオーガの四方に、四つの透明なサイコロが浮かび上がった。それは縦横無尽にコロコロと転がり、サイコロの通った跡には別の床の色。違う空間へと繋がっていた。最終的にサイコロ四つとも天井付近で衝突し、消えてしまう。

カイオーガは新たに現れた戦場を、口を開けて見回す。



「ゆ…遊園地……?」

「そう、君の性格なら好きだと思いましてね….何でもお好みのアトラクションに乗って頂いて結構ですよ。最も…..私の餌食になる前にね」

「あ、ふぅん….そういうカラクリね」
「えっ、おい…ちょっと俺にも教えてくれよ!」
「ようするに勝てばいいんだよ。ここで」


ユニバーサル・スタジオを思わせる立派な遊具の数々だったが、どういう訳か客は人っ子一人いない。
この無人のアミューズメントパークで、裏カイオーガを倒せ……そういう事のようだ。

カイオーガはジュカインの方に顔を向けつつ、不意打ちを図った。裏カイオーガからは見えないように腰の裏で、高圧縮した水の弾を作る。そしてさり気ない動きを見せながら、脇の下からそれを発射した。


ドゴッ….バシュゥッ!!!!

水圧が炸裂する音と、手応えのない直撃。裏カイオーガの背中にそれは命中したものの、ダメージと呼ぶには程遠かった。彼は右ヒレをアスファルトに押し付けると、腕の力だけで空高く跳び上がった。着地点に観覧車を選んだようで、彼が飛び乗ったゴンドラがグラグラと揺れる。


「君もいかがですか? 空中戦は久し振りでしょうに」

「それじゃ…お言葉に甘えて」
「おいおい置いてくなよ俺を!」


カイオーガも間髪入れずに左ヒレを地に置き、凄まじい腕力で難なく飛び上がった。ジュカインもメリーゴーランドのテントから回り道し、数秒遅れてゴンドラに到達する。

裏カイオーガ、カイオーガ、ジュカインの順で、それぞれのゴンドラには3、4、5の番号が振られていた。徐々に高度が上がっていく中で、カイオーガは3のゴンドラに睨みを利かせる。裏カイオーガもそっくりの眼で、目下に迫った二匹を見下ろしていた。


「さぁて….一周するまでに蹴りをツケてあげるよ」

「ほう…いいんですかそんな公言して。自分が恥ずかしいだけなのに」

「今に見てろよ偽者! カイオーガには指一本触れさせねぇからな!」

「いや、そこまでしなくていいよ」

「なッ….お、お前も俺の台詞を折るな!!」


先鋒はジュカインだった。カイオーガの乗る4のゴンドラを踏み台にして、一気に3のゴンドラまで跳び越える。森の覇者と呼ばれるだけあって、跳躍力も素早さもズバ抜けているようだ。


「試し斬りさせてもらうぞ……お前で!!」

「どうぞ御自由に」

「ジュカ早まったらダメぇッ!!!」


カイオーガの注意も耳には届かず、彼の腕のサーベルが鋭く光った。空を切るような一撃が裏カイオーガを狙い、そして鮮血が迸る………

……というのがジュカインの構想、シチュエーションだったのだが……



「……これ、本当に切れるのですか?」

「ギッ….うわッ…!!」


頭の位置を低くされたため、ジュカインの攻撃はまさに「空」を切っただけだった。無駄だった一撃が隙を呼んでしまい、彼の頭に手加減のないアームハンマーが降ってくる。

しかし柔らかい肉の大蛇が彼の身代わりとなり、アームハンマーを受けた後、にゅるにゅるとそのヒレに巻き付いた。カイオーガが、下のゴンドラから舌を盾として伸ばしたのだ。


「上で待ってるだけだなんて……..卑怯だねぇ?」

「だって私は貴方ですもの……ウッ!!」


巧みな舌使いが幸いしたようで、裏カイオーガはゴンドラの上から引きずり下ろされた。カイオーガの領地である4のゴンドラに落下すると、二匹分の重みで屋根がミシミシと唸った。


「グッフフフ….肉弾戦の方がやはり燃えますか?」

「もちろん♪ 君との僕との違い、教えてあげるよ…!!」


高濃度の毒龍がカイオーガから噴き出し、毒液でできた牙をむき出しにして裏カイオーガに突進した。しかし裏カイオーガの周囲を水流、水のカーテンが覆うと、その渦に巻き込まれて毒龍は消えてしまった。

それに対して裏カイオーガは水の力を借りず、ヒレを手刀のように振り回して襲ってきた。カイオーガは瞬時にそれを避け続けるものの、ゴンドラの端にまで追い詰められてしまう。仕方なくブーンと飛んでくるヒレをヒレで押し返し、殴り合いに持っていこうとした。ところが・・・


ガチャン…!!!!!

「….落ちなさい…!!!」
「うわっ…!」


ゴンドラを吊り下げている唯一の鉄筋を、裏カイオーガは猛烈なタックルで破壊した。つなぎ目を失ったゴンドラが地上へと落ちていく最中、裏カイオーガはジュカインがいる上のゴンドラへと飛び乗り、カイオーガは間一髪で他の鉄筋にしがみついた。


ヒュゥゥゥ・・・・

「うわぁ……た、高いね……」

下を見れば人がコメ粒程の大きさに見えてしまう……そんな高さなのだろうが、残念ながら人影すらこの遊園地にはない。


「でもそう簡単に…落ちるわけには…!!!」

空中でプラプラと揺れる自分の尾びれを見つめ、カイオーガは日頃の筋力トレーニングの成果を発揮した。ヒレに全力を湯水のように注ぎ込み、重いと分かっている自分の肉体を持ち上げた。

一段落つくと、鉄筋の上にバランスを保ちながら立った。ふと上を見上げてみれば、裏カイオーガと拳を交えているジュカインの姿が。雷でも放って援護したところだったが、ゴンドラ一個分が空いたこの距離では撃ちづらい。それに間違えてジュカインに当たることを考えると、ますます撃てなくなった。



「やっぱり一周する間じゃ….無理かもね…」


サビが多い鉄筋を木のぼり感覚で登っていきながら、カイオーガは戦闘前に自分が言ったことを悔やんだ。既にジュカイン達の乗ったゴンドラはてっぺん付近にまで高度を上げており、ここからはもう地面に近付いていくだけ・・・



「決着は急がないとダメか……じゃあやっぱり….」


鉄筋を登るスピードを速め、あっという間に3のゴンドラ、ジュカインと裏カイオーガの戦場の高さまで追いついた。ゴンドラの屋根の上でこちらに背を向けて闘っているジュカインの名前を、カイオーガは大声で叫ぶのだった。

・・・・・おまけ付きで。



「ジュカイン大好きーーーーーぃぃぃ!!!!!!」

「ひょえっ……マジ…!?」


カイオーガはタンスさえ呑み込めそうな勢いで口を開き、舌でを巻きつけてジュカインの身体を引っ張りこんだ。ぐるぐると独楽のように回転する彼を舌の上に寝かせ、有無を叫ぶ間もなくゴクリと呑み落とす。

白いぷっくりした肌に膨らみが生じ、腹部を目指してポコポコと唸りながら下っていった。


「(ぉぉぃ!! 出せよ……まだ闘ってる最中だろぅが…!?)」

「ゴメンね….気持ちだけは受け取るから、許して♪」

「(………………あふぅ…そこは…..揉まないで……)」


腹の中へと沈んだ親友を胃壁のマッサージで慰めながら、裏カイオーガへと視線を戻した。喰うつもりだった獲物を横取りされたことを惜しんでいる顔だったが、同時に相手がカイオーガ一匹に定まったのを喜んでいるようにも見えた。



「さぁ….決めよっか、そろそろ」

「分かってるでしょうが、もし落下すれば貴方の親友も巻き添えですよ? いくら体内に居るとはいえ、この高さかた落ちれば……」

「ジュカインは死なないし、僕は落ちない。ただしそれ以外の誰かさんには……」















「消えてもらうけどね♪」

「それはそれは…..大層な自信ですね……」


恥も外聞もない勝利宣言をされ、流石の裏カイオーガも一歩引いた。ニッとした笑顔で「消えてもらう」などと言われては、挑発されて心が目覚めるのも仕方ない。

気が付けばゴンドラはこの遊園地で最も天に近い位置に到着しており、彼らに頂上決戦を強いているようにも思えた。





<2011/11/08 22:59 ロンギヌス>消しゴム
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