---

「な…なんだお前….はうぁ…!!」

「え〜初めまして、指名手配かつ懸賞金３億の、バビロンと申します」

「ちょっとふざけてないで、先急ぐわよ！！」


レムリアに急かされようがお構い無し。バビロンは『監察部』と
書かれたバッジを胸に付けている男を、壁に押しつけていた。
彼にグパァッ…と口内を覗かせられ、男はアウアウと唸る。


「た…食べないでくr….指名手配はわたっ…私のじ上司がやったたたた！！！」

「ほう….じゃあその上司は死刑だが、お前も死刑だな」

「な、なぜだ…ぁ…!!」

「理由はない」


バビロンは残酷にも、男の股間をむんずと掴んで全身を持ち
上げる。あまりに悲痛な叫びだったが、その悲鳴で警備隊で
もやってきたら困るため、レムリアがルナメモリで音を消去
していた。



「…じゃあここで問題。海が青い理由をその汚い口で述べてみろ」

「い、言えば….た、助けてくれるのか…！？」

「ああ勿論」










「そ、空の青さが…映ってるから…？」







・・・・・・・・・



「太陽光は幾多もの色の光が交わった結果、白色光となって地上
に降り注ぐが、その太陽光も水滴などに接触すると七色（赤・橙
・黄・緑・青・藍・紫）の虹に変化して識別が可能になる。空の
場合は光が空気中の塵に触れると『レイリー反射』という現象が
起こるが、H2Oには青以外の色を吸収する性質がある。即ち太陽
光線が海中に進入した場合、青を除いた他の六色は吸収され不可
視となるが、青色光のみが海中に浮遊する微粒子に触れ反射する
ため、海は青いんだ」



・・・・・



「…ぇ…ぇ…?」

「フフ…わかったか？ このド低脳が」


論理的な言葉で詰められ、あんぐりと口を開けたまま呆然と
する男。だが彼の何倍もある巨大な口は、容赦なく彼に頭か
らかぶり付いた。唾液を口の端から川のように垂らしながら、
グイッと顎の力で男を軽々しく持ち上げる。男はピンクより
赤に近い舌に乗せられると、重力に従い、何人さえも呑み込
んでしまう喉との距離を縮めていく。


ぬろぉ…ズチュ….ングッ…

「あああっ…ひ、ヤメて…」


バビロンは不気味な笑顔で悦楽を感じながら、無言で男をぶよ
ぶよした喉の上に寝かす。獲物を呑み込む前の、この一瞬がた
まらなく好きだ。最後の悲鳴と命乞いを聞ける、絶好のポイン
トなのだから….



ゴクン…!! ゴキュッ…ゴキュッ…♪


男の肢体が柔肉の関所を通り抜けたときにはもう、悲鳴も命乞
いも聞こえなくなっていた。ただ自分を蹂躙する肉壁の向こう
にある世界を求めて、がむしゃらに暴れる膨らみだけが胃袋へ
と堕ちていった。鼻炎でもない限り、バビロンの胃臭には五分
と耐えられない。



「げふぅ…っぷ…」

「うっ…あ、あなたのこの息…何とかならないの？」


自分の方へと漂ってきたゲップを振り払うレムリア。バビロ
ンは肩に刻まれたバイオリック社のマークをカリカリと掻きな
がら、即答で「無理」と言った。


「あれ…急ぐんじゃないのか？」

「あ、貴方に言われたくないわね…！！」


レムリアのプンスカ怒った表情をニヤニヤと観察しつつ、彼女
とともに再び走り出すバビロン。今更ながら、呑み込んだ輩に
署長室の場所を聞くべきだったと後悔する。




ダッダッダッダッダッ・・・！！！


運の悪いことに、彼らの透明化メモリは電池が底を尽きていた。
天に授かった足を動かし、二匹はエレベーターの前に設置された
案内用プレートへとたどり着く。もちろん重量オーバーなので、
エレベーターは利用できない。


「え〜っとここは一階でしょ….署長室は９階、最上階ね」

「（売店にフライドポテト売ってねえかな…）」

「バビロン急ぎましょう！！」

「ああ……（あったら絶対買おう…）」


天井がそんなに高くないため、廊下を飛んでいくのは無理がある。
署内にエスカレーターなど論外なので、二匹は仕方なく走った。
途中で誰とも遭遇しませんように…などと、奇跡のような祈りを
捧げながら。

---