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ぼくのなつやすみ − 旧・小説投稿所A

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ぼくのなつやすみ
− 血まみれドラゴン −
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「えっ、い、いったい…!!」


数秒前まではちゃんと自分の署長室にいたはず。
それが今では、今どき稀な書院造の部屋に立ち尽くしていた。


「(和室……?)」


壁には水仙の描かれた掛け軸が垂らされ、その下には綺麗に生けられ
た花がそっと置かれている。まるで絵に描いたような….和室の風景だ。


「こ、ここは……」

「私の部屋だ。ようこそ」


ハッと振り返るとギラティナがいた。
しかし彼だけで、他の仲間の姿はない。

だが思わずギョッとしたのは、破り裂かれたような彼の翼。そこには
まるで無数の魂が宿っているかのように、薄気味悪い目の紋様が刻ま
れていたのだ。まさに……悪魔。


「……お、お前の…部屋…?」

「まあ、設備の整った空間も嫌いじゃないが….こういった和に
浸れる部屋の方が好みでね。ほら、この桔梗….美しいだろう?」


漆黒に汚れた翼で、可憐に咲いている桔梗の花びらをそっと
撫でるギラティナ。あの花も…彼が自分で生けたものだろうか….



「….球根は育て方次第で美しい薔薇になるだろう。
だが、ドクダミは薔薇にはなれない。「平凡」と「英雄」の違いは、
生まれた時に決まっている。努力すれば報われる、などと誇示する輩も
いるが….努力にも前提というものがある」






「私は所詮ドクダミだ。だから英雄が…..花が憎い」

ブチッ…!!!!


桔梗の頭を、翼の先でむしり取るギラティナ。
突然終わりを迎えた花弁が、パラパラと畳の上に散らばった。



「…なんて酷い事をするんだ、と思ったか? だが君も同じことだぞ。
レムリアの仲間に嫉妬心を抱き、彼らの首に懸賞金までかけた」


ギラティナの眼の色が、署長室にいた時とは打って変わって違って
いた。そう…言うなれば捕食者の眼……これから喰らう獲物を決し
て逃がさない、鬼そのもの。



「カイオーガは勿論….仲間に手を出した事、後悔してもらうぞ」

「や、やめっ….」


瞬きした直後、ギラティナは視界から消えていた。その代わり首筋
に感じる、生温かい竜の吐息。ハァハァと繰り返される呼吸。彼が
吐いた鳥肌が立つような息は、私の首の付け根をゾゾッと舐めた。


「フフ…こんなドクダ…..いや、幽霊はお嫌いか?」

「ア…..ア….」


もう吐息どころじゃない。過去に何体もの生き血を啜ってきた
であろう舌が、ぬちょっと首に押し付けられた。確かに「舌肉」
というだけあって、柔らかい……が、この世のモノとも思えない
感触….文学科を卒業した自分でも、言葉で表現できそうにない。


「はっき言わせてもらえば….生きたまま喰われろ、私に」

「やっ…そ、それって….」

「ご想像の通り….丸呑みだ」


獲物を噛みしめる…という快楽を無視して、生きたまま呑み込むと
いうのか。未だに一回も拝んだことのない竜の喉肉に、ゴキュリと
全身を持っていかれる…...想像するだけで震えが止まらなかった。


「待て….他になら何でもする…だ、だからそれだけは…」

「….喰われて償うのは嫌なのか。ならば…」


亡霊のような表情(実際にそうだが)を崩さないまま、ギラティナは
私の頬に手を添えてきた。いや、翼といった方が正しいか…..体毛の
ないザラザラした肌だ。



「なっ…なにを…..アアアアッ!!!」

「「「「フフフフ…」」」」


四匹いる。目の前にいるギラティナの周り、私を取り囲むよう
にして、四匹のギラティナがジッと私を見下ろしていた。


「あひ…ど、どういう…..何でこんな…!!!」


「フフッ….君が望むのであれば」

「恐怖を….地獄と呼ぶにふさわしい恐怖を」

「幻覚とは思えない幻覚を…」

「君に、見せてあげよう」


四方がギラティナ…しかもそれぞれ違う風体だ。
さっきまでのアナザーフォルム、傷だらけで包帯を巻いている姿、
頭部が半分に割れている姿、そして翼から血を流す色違い。

そのどれもが恐ろしい形相で、私から視線を離さない。
脚がぶるぶると震え、喉からは言葉が何も出てこない。






「い、いやだ…..」

「「「「……そうか、ならいい」」」」」


無理やり絞り出した声で断ると、通常体以外のギラティナは空気に
溶けるように消え去った。あのまま罰を引き受けていたら、喰われ
るよりも悲惨な世界に閉じ込められていたに違いない。



「では執行だ。猶予はなし」

「アッ…!」


私に罰を与えんがために、ギラティナはググッと背中を折ってきた。
鉄板すらひん曲がりそうな強靭な顎が、私に頭から覆いかぶさる。
ここで彼の気がちょっと変わってしまえば、私は噛み潰されておしまい….


「…案ずるな。私にはそういった趣味はない」

「お、お前は….心が読めるのか?」

「….読心術をカイオーガに教えたのは私だ。
ただ私が感知できるのは…マイナスな考えだけだが」


自分の体が口に持ち上げられる感覚、生まれて初めてだ。視界は
赤かピンクか言い難い色に包まれ、固めの口蓋にペトッと貼りか
されている。鋭い針のようなキバが脇腹に食い込むが、ギラティ
ナはそんな小事にわざわざ対処してくれない。


「ア….ハグッ…ンッ….」

「う、うわぁ……」


口内に入った瞬間、ぶよぶよした舌に丸め込まれる。
興味本位で指を立ててみれば、第二関節あたりまで沈んでしまう。


「勘違いはしないでほしい…これは処罰だ」

「あっ….ああああっ、っぷ…」


彼がそう言った直後から、慈悲のカケラもない舌責めが始まった。
口蓋にグリュグリュと圧迫され、あちこちから滲み出てくる唾液を
浴びせられる。おまけに顔をソフトな舌に埋もれさせては解放、埋
もれさせては開放、の繰り返し。

挙句の果てに、舌を口の中に押し込まれるという酷戯。半ば半泣き
になりながら、与えられる舌肉を必死に味わうしかなかった。全力
で噛んでやればコイツも痛がるだろうと思ったが、たかが人間の顎
の力では、竜の柔舌には敵わなかった。
まるで、生温かく湿ったおしゃぶりを噛んでいるようだ。


はむっ…ぶちゅ….くちゅぁ…

「う…あぅ….んむ…」


舌に食べられるはずが…いつのまにか舌を咥えさせられている。
たっぷりと塗り付けられた唾液と、新たに精製されてくる唾液が、
ムチュッと嫌らしい音を奏で、ブリッジを掛ける。


「は、はぅ…はぁ…..んぅ….はぁ…もう少し…加減を…」

「フフ…否。それでは罰の意味が無くなる」


舌の下に溜まった唾液….生え揃った牙がまるで浴槽に見えてくる。
そこにべチャリと寝かされ、さらに上から肉布団を掛けられる
姿勢となった。舌肉独特の柔らかさが密着し、毛穴の奥にまで
唾液を擦り込もうとしてくる。まさか自分が、竜の舌にプレス
される羽目になるなんて…夢にも思わなかった。



「…ぐへぅ…き、汚い….こんなに…」

「マスターなら歓迎してくれるのだが、君には不向きのようだな」


処刑は第二段階へと移った。唾液プールで溺れる寸前、ギラティナ
は巧みな舌遣いで、奥歯の上に私を転がしたのだ。そのまま逃げる
隙もないまま、カプカプと穏やかな咀嚼がスタートする。


「アッ…..ああっ…」

ハグッ…あむぅ…かぷっ…


人間など一瞬で粉砕できる歯が繰り出してくる、そっと味だけを
抜き取るような甘噛み。彼の巨大な牙が私の皮膚を突き刺すことは
なく、むしろ撫でられているような感じだ。


ぷちゅ…はぁむ….ハグッハグッ…


「ううッ….そ、そこは…」

「まあ気にするな、減るような物でもないだろう」

「2個が1個に減ったらどうしてくれる!!」

「…病院に行けばいい。さあ…そろそろ頂くぞ…」


ついに来た、彼の胃袋に収まるという刑罰。それには喉という関所
をくぐり抜け、さらには粘液と肉壁による洗礼が不可欠となる。


「う…こ、これが….」


次の瞬間、世界がガクッと傾いた。恐らくギラティナが、急に上を
向いたのだろう。舌の角度があっという間にほぼ垂直になり、体が
重力に従って落ち込もうとする。反射的に舌の先端部にしがみつい
たが、それも時間の問題…...ヌルヌル滑る手では、舌との間に摩擦
は生まれない。



「ではサヨナラだ…..お務めご苦労だったな」

「う、うわあああっ!!」


ヒョイ….ごくん…





<2011/09/14 22:58 ロンギヌス>消しゴム
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