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直面したことのない難問。それは嘘を現実化する能力に対して、
対策を立てることだった。力では押し切れない事態に、ロンギヌ
スはレムリアの胃の中で悩み呆ける。


「（背後から襲撃……メモリを抜き取るか？）」

だがアオギリの背中へたどり着く前に、団員達が彼に危険を知
らせるだろう。そもそも彼が、「私には誰も近づけない！」な
どと叫んだら一巻の終わりだ。


ウニゅ…グゥ…んぎゅ、んぎゅ…

「あ…気付いてくれたか…」

レムリアは別に自分の意思で呑み込んだ訳ではない。嘘の
効果が切れると、彼女はロンギヌスを吐き出そうと胃壁に力
を込めていた。まだ揉み遊ばれたかった胃壁に別れを告げ、
ロンギヌスは唾液に濡れたまま吐き出された。


グチゅっ…グボァ…!


「フフ…無様だなチャンピオン。どうだ？ 仲間に喰われた気分は」

「マスター…ご、ごめんなさい…」

「いつもの事だ…謝るなよ。それよりあのメモリ…」

ロンギヌスは袖から垂れる唾液に目もくれず、メモリを体内
に取り込んだアオギリを睨む。脳をフル稼働させて策を練
るも、これと言った作戦は思い付かなかった。バビロンがい
れば…解決策を編み出してくれるかもしれないが・・




「（ん？ そういや俺が吐き出されたのって…）」

メモリの効果が消えて、レムリアが自分の意思を取り戻した
からだ。だとすれば「嘘」が現実となった後、時間が経過す
れば「嘘の力」は失せてしまう…という事だ。実際、馬鹿と
化したはずのラティオスも、いつのまにか普通の表情をしている。



「そ、そうか……ならもしかして…!!」

キチッ…『CLOCK（時計）!!』

時をほんの少し操作できるメモリ。それをメモリケースから
取り出すと、アオギリはそれを鼻で笑った。もう如何なるメ
モリでも、自分の能力は超えられないと過信しているようだ。


『無駄な抵抗はやめておけ……ラティオスが主人の喉を掻き切った!!』

「な・・・」

ラティオスは意思に反して動く右手を抑えようとするが、「嘘」
の力には逆らえない。ロンギヌスに真正面から突っ込み、彼の
喉を目がけて振り下ろした。

「マ…マスター!! 逃げt…」








『CLOCK（時計）…MAXIMUM DRIVE!!!』

ロンギヌスはラティオスと自分のメモリを信じて眼を閉じ、
時間を五分早送りさせる。ラティオスの光沢すら感じられる
鋭い爪が、ピタッと喉仏に触れる直前に止まった。

「な、何…！？」

「やっぱり…♪」

時間さえ少し狂わせば、嘘は時とともに流れ去ってしまう。
それを発見できたロンギヌスは、五分進んだ壁掛け時計を見て
笑みを浮かべた。


「ラティオス…大丈夫か…？」

「は…は、はい…」

主人の喉を切り裂いてしまう恐怖に耐えていたのか、半泣き
状態で頷くラティオス。ロンギヌスは震える彼の右手を、ギュッ
と握り締めた。

「…ゴメン。
俺がもっと早く気付いてれば…良かったんだけど…」

「い、いいですよもう。状況が…状況ですしね…！」

一回だけ腕で目をこすり、ラティオスは前向きな口調で気持ち
を切り替えた。それに安心したのか、ロンギヌスは威勢良くア
オギリに叫ぶ。


「やい、服装だけ海賊!!
今度おれの仲間にちょっかい掛けたら…空の彼方に吹き飛ばすぞ!!!」


その発言に反応した者達が、素早くアオギリの前に出て刀を
構える。しかしそれと同時にロンギヌスは駆け出し、新たな
メモリを二の腕に差し込んだ。

キチッ…『UNICORN（一角獣）…MAXIMUM DRIVE!!』

グリーンの覇気を撒き散らし、ロンギヌスはアオギリに猪突
猛進の勢いで突っ込む。多数の剣士が切りかかろうとしたが、
何と彼に触れた刀はみなバキンバキンと折り砕かれていった。
そして「一角獣」そのままの速度で、ロンギヌスはアオギリの
懐に強烈なタックルをかます。


「ガ…グフッ…!!!!」

衝撃をまともに喰らい、アオギリの身体は壁に突き飛ばされて
穴を開けた。ロンギヌスは水を得た魚のように、次なるメモ
リを手の甲に押し付ける。


キチッ…『LIGHTNING（稲妻）！』

「800万ボルト…放電（ヴァーリー）!!!!」

明らかに某アニメの影響を受けた技名を響かせながら、膨大
な電気を満たした腕を叩きつける。


バチッ…!! ヴヴンッ…!!!
パキィィィン・・!!!


役目を終えたライアーメモリが、アオギリの体内から排出され
て砕ける。アオギリは肉体に電流が流れると、口から煙を吐き
ながら、ドタッと床にうつ伏せに倒れた。






「…だ、団長ぉおおおっ！！！！」
「お前…死にたいらしいなぁぁ!!!?」

背後から別の団員が、サバイバルナイフを構えて突進してくる。
しかしその猛襲を止めたのは、彼ではなくラティオスだった。
ギランと輝く鋭爪が、団員の喉を情け容赦なく掻き切った。


「ギ…ひぎゃぁっ…!!」

「僕のマスターに……やめろよ…」

爪からポタポタと垂れる鮮血を、不味そうに舐めとるラティ
オス。その愛と狂気の混ざった行動は、兄のカイオーガと見
間違いそうだった。




「…他にも死にたい奴…前に出な」

周囲を囲んでいる団員の群れを、ラティオスは眼を細めて威嚇
する。臆病な数名はヒッと飛び上がり、賢明な者はアオギリの
死骸を放ったまま、部屋を飛び出していった。そしていつの間
にか戦場だった部屋の中には、彼とロンギヌスとレムリアしか
残っていなかった。



「ラ…ラティオス…お前って…」

「…下手な演技をお見せしました。ハハ…気味悪いでしょ？」

「いやいや…
追い出してくれたんだから礼を言うよ!! マジで助かった！」

「そ…それは…どうも…」

レムリアも呆れたような溜め息をつき、感謝の拍手を贈った。少々
彼女に恋心を抱くラティオスにとっては、これは流石に照れくさい
ようだ。


「さっ、ようやく一段落ついたし…カイオーガとギラティナ捜そうか！
多分バビロンとシロナさんも…もう動きだしてるはずだ…」

「「了解！」」

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