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交錯する証 − 旧・小説投稿所A

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交錯する証

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「んぐっ……」

ごぱぁ……どちゃっ

遂には口腔内に吐き戻され、地面へと吐き出された。
胃液の混じった大量の泡立つ粘液と共に地面へと広がり、凛は激しく痙攣していた。
その痙攣は恐怖によるショックが引き起こした痙攣と瞬時に妖虎は悟っていた。

「凛! 凛っ! しっかりしろ!」

妖虎は未だに滴る涎を前肢で拭うと、粘液池から凛を救い上げ纏わりついた己
の粘液を体毛で拭き取った。
そして、鋭爪で傷付けない程度の強さで肩を叩き凛に呼びかけた。

「はっ、はっ、……はっ、はっ」

意識こそあるものの生きたまま他者の胃袋に収められると言う、想像を絶する恐怖で痙攣を引き起こしており、周りが何一つ見えていない。

「凛っ!」

半ば咆哮を上げるが如くに凛の名を呼ぶ妖虎。
生物として、耳を保護する本能が働き凛の耳が小さく丸まる。
そこでようやく凛は我に還った。
どろどろの粘液に塗れた自分。
暗闇の肉洞に揉みし抱かれる自分。
胃袋に収められ、糧にされかけた自分。
今に至っては鮮明に青空が視界に映り込んでいる。

「と、虎さん……?」

先程まで喚き散らしていた容態とは打って変わって、落ち着きを取り戻し
惚けた表情で妖虎を見つめている凛。

「すまん……誤りとはいえ、お前を喰ってしまった……」
「喰った……?」

”喰われた”と言う事象を未だに理解できていない凛。
凛にあの感覚が蘇っていく。
妖虎の体内。窮屈で光の見えない苦しみの檻。
幼い凛にとって、ただ一度の体験であっても十分にトラウマを植え付けてしまっていた。
再び、ショックに陥る……寸前で妖虎が凛を抱き寄せた。

「恐かっただろう? もう大丈夫だ」

その逞しい両前肢が凛を優しく抱き締める。
ショックには陥らずとも、凛は泣き出してしまった。
”うん……うん……”と嗚咽に混じって、相槌を打ち
妖虎の体毛に埋まり、涙で濡らしていく。
そこから凛が落ち着くまで、妖虎は抱き締めてやった。



そして……妖虎は一つの決心を胸に灯した。






<2012/06/06 22:42 セイル>消しゴム
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