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Wolves Heart 真実の心 − 旧・小説投稿所A
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Wolves Heart 真実の心

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唾液や粘液と共に食道と言う狭き肉洞をゆっくり燕下されていく。
体液が衣服を濡らし、耳を塞ぎ、俺の精神力をじわじわ削っていく。
今、フェンリルはどんな顔をしているだろうか。
まだ・・声すら上げずに泣いているのか。
呑み込まれた俺にそれを確かめる術はない。
蠕動が体を容赦なく絞めつけるものの体は胃袋に向かって燕下を止めない。
「フェ、フェンリル・・」
頼む・・声をあげて泣いてくれ。
泣き叫んでくれ。
苦しいだろ・・声を出せ・・


  ー頼むからー


 * * * 

 ー美味しいー
本能がそう吼えている。
彼は想像を越えて美味だった。
皮肉。何という皮肉だろうか。
喰いたくない人間がこの上なく美味しいのだ。
本能のままに舌が彼を蹂躙していく。
愛しかった彼を唾液まみれに・・餌に変えていく。
でも・・私は従うしかなかった。
それが私にできる最初で最後の恩返し。
 ー生きるために彼を喰らうー
それが彼が私に託した願いだった。
(私は・・私は・・・貴方を・・)
最早、体は動かない。働くのは思考だけ。
本能が私を縛って離さない。
本能が彼を味わい続けている。
恐らく彼は私を傷つけまいと声一つ上げず私の蹂躙に耐えているのだろう。
口内から彼の声すら聞こえない。
私も彼を傷つけたくない。
だけどそのためには彼を喰らう事しか残されていなかった。
もし、今吐き出せば彼は怒る。
そして、私は衰弱し彼の心を苦しめる。
そんなのは嫌だった。
今の状況だって納得いかない。
「・・・・・・」
私はクイッと上を向く。口内に傾斜をつけるため。
・・彼を丸呑みにするため。
苦しみは少しでも短い方がいい。
(・・どうか私を・・赦してください・・)
彼が私の舌を滑り落ちていくのが感じられる。
普段ならたまらなく心地よい瞬間が今は酷く恐ろしく感じられる。
嫌だ・・喰いたくないのにっ・・・
「うぅ・・・・」
彼が喉を・・胃袋に落ちてゆく。
涙が止まらない・・止められない。
悲しいけど声が出ない。
声を張り上げて・・思い切り叫びたい。
ごくん・・
喉が私の意志に関係なく彼を呑み込んだ。
「あ・・ああぁ・・・ぁ・・・ぁ・・」
体が震える。彼を吐き出さなければ・・
だけど・・出来なかった。
”生きたい”と言う本能が邪魔をする。
ただ、悲しくて彼を吐き出すことも叶わずにただ、下ってゆく生々しい喉を膨らみを目で追うことしか出来なかった。
今すぐに彼を吐き出して、その体液を舐め取って、抱きしめられたらどれだけ幸せだろうか。
それは叶わない。呑み込んでしまった彼に助かる見込みはない。
彼は・・私の血肉になってしまったのだ。
私の命を繋ぎ留める糧になったのだ・・
「わ、私は貴方を食べてしまった・・あぁ・・ぅぅ・・ううぅぅ・・あああああああぁぁぁぁ!!」
私は子供に様に大声を張り上げて泣き叫んだ。
涙と溢れんばかりの唾液を床に滴らせながら。
初めてであったかけがえのない、どこまでもお人好しの人間を失った。
私は彼を喰い殺した。
それは遠吠えに近かったかもしれない。
生きるためとは言え、私は犯した愚行を悔いた。
やはり止めておくべきだった。後悔しても遅いが。
たとえ私が死んで、彼が悲しい思いをしても彼を喰らうべきではなかった。
遙かな時を生きれる私がこれからの余生、孤独にうちひしがれなくともよかったのに。
  ー彼はもう帰ってこないー
声を聞くことも・・その笑顔を見ることも・・

  ー私が喰い殺したー

その事実が私の中に嫌に残る。
目が赤い。痛い。でも涙が止まらない。
罪悪感。虚無感。喪失感。
あらゆる負の感情が私をいつまでもそうさせる。
もっと彼と一緒にいたかった。
もっと笑い合いたかった。


 彼はもういない。

    ー私が喰い殺したー



<2011/05/13 23:52 セイル>消しゴム
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