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【保】竜と絆の章3 竜が認めた……美味しいキツネのうどん屋さん − 旧・小説投稿所A

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【保】竜と絆の章3 竜が認めた……美味しいキツネのうどん屋さん

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それから数時間後、
キツネの店主のお店の中には……お客は誰もいない。

その様子にキツネの店主は、
ちょっと悲しそうに項垂れながら、
イスに座って足をぶらぶらとさせ……ため息をついていた。

「コ〜ン……暇だコン。 何でお客が来ないコン?
 お店の場所が悪かったのかな……それとも、宣伝が足りなかったコン?」

可愛く首を傾げているキツネの店主。

……でも、その表情は真剣そのもので一体どうして、
お客が来ないのか必死に考えていた。
だけど、始めて店を出したキツネの店主は、
麺とスープの作り方は知っていても、お客の呼び方はよく知らなかったのだった。

そうやって、初めてのお客の呼び方を、
キツネの店主が、一生懸命に考えていると……

ゆっくりと、閉店の時間が迫ってきていた。

「コン……悲しいコン……。
 今日はもう、お客さん……来ないコン?」

誰に聞いたわけでもなく……
キツネの店主がそう呟いた後、
何かが……お店の床にポチャッ!と水滴が落ちて、床を濡らした。

そして、厨房の火を落とそうとしたとき……


ガラッ!


「すみませんチュウ……このお店……まだ、やってますかチュゥ?」

お店の戸口を重そうに開いて、
ちょっと控えめに小さな声を出しながら、
小さいお客さんが入ってきた

その声を聞いてキツネの店主は……

「コ、コンッ! お客様、いらっしゃいませコン!
 当店は、一人でもお客様がいるのなら、何時までも開店してるコンッ!!」

お店の入り口の所まで、とても嬉しそうに走り寄ると、
戸口の方にいるお客に、丁寧なお辞儀をして答えた。

そして、キツネの店主が顔を上げると、

「あれ……コン? お客さん何処行ったコン?」

目の前にお客の姿を見つけることが出来なくて、
また、可愛く首を傾げてしまった。

そんなキツネの店主を下から、
ちょっと首が痛そうにして、上を見上げているお客は、

「こっちでチュゥ……下を見てチュウッ!」
「下ですかコン? あっ…お客様がいたコン。
 気が付かなくて失礼しましたコンッ!」

キツネの店主は、自分の不手際を恥じて、
お客さん……ネズミのお客に対して、お店の床にひざまずいて土下座をして謝る。

「……これからは気をつけるから、怒らないで欲しいコン……」

初日にして、いきなりの失態に
しかも、初めてのお客なのにこんな事になって、
肩を落として、震える声で話しているキツネの店主。

「チュチュゥッ! そんなに謝らないでチュゥ。
 いつものことだから、特に気にしてないでチュウ。」

そう言って、ネズミのお客は、
キツネの店主の謝りように驚きながらも、
いつものことだから大丈夫だと、許してあげた。

「あ、ありがたいお言葉だコン……」

キツネの店主は、ゆっくりと立ち上がり、
ネズミのお客の言葉に感謝するとキュッと握り拳を作って、決意を言葉にする。

「よしっ! 僕は料理人コンっ!
 その恩に美味しい料理を作って答えるコン!
「チュチュウっ! その調子です。がんばってチュゥ。」

元気になったキツネの店主を
ネズミのお客は嬉しそうに見上げて、さらに励ます。

「さぁ、お客様、お席に案内しますので、僕の手にのってくださいコン。」
「ありがとうチュ。お言葉に甘えるのでチュウ。」

そう言いながらも、キツネの店主が差し出した手に、
ちょっと遠慮しがちにトコトコとネズミのお客が歩いて行き、
その手の上に登った。

そして、さっそくキツネの店主は、
お店の一角にある小さなテーブルやイスがたくさん設けられている、
小さい生き物達の席と書かれたコーナーまで来ると、
そこにネズミのお客をそっと下ろした。

「わぁ〜ですチュウ。 ちょうど良い大きさのテーブルと席が一杯でチュウ。
 どこで、こんなにたくさん手に入れたでチュウ?
 こんなに小さいサイズのは、なかなか無いチュ。」
「知りたいコン? このお店のすぐ側にある森にすんでいる
 僕の知り合いが何でも作ってくれるんだコン。
 お仕事も早いし、ありがたい事だコン。」

ネズミのお客と会話を楽しむキツネの店主。
暫くコミュニケーションを楽しむと自分は厨房に入って行った。

「さぁ、今から美味しい料理作るコン。何が良いコン?」
「チュゥ〜……なかなか、決められないでチュウ。
 ……何がおすすめでチュウ?」

厨房のカウンター越しに注文を聞いたキツネの店主。
その質問に、ネズミのお客は、
壁に掛けられたお品書きをジッと眺めて、不意にキツネの店主に問い返した。

その問いにキツネの店主は自信を持って、

「それなら『キツネうどん』が一番得意だコンッ!
 おすすめで良いのならこれを強く進めるコンッ!」
「わぁー凄い自信でチュウ。 それじゃあ、
 それをお願いするでチュウ。楽しみでチュウ。」

自信満々のキツネの店主の言葉に、
目を輝かせているネズミのお客。
どんなに美味しいのか今から凄く楽しみになっていた。

暫くすると厨房からキツネの店主が料理をしている
トントンという包丁の音が、ポコポコというお鍋の沸く音が
料理のいい香りと共に聞こえて来る。

そして、数分もすると厨房から、
トレイに小さい生き物達専用の小さな器に盛られたうどんを持って
キツネの店主が、笑みを浮かべながら出てきた。
その様子から、美味くできたようである。

「お客様、お待たせしましたコン。
 当店自慢の『キツネうどん』どうぞ味わってくださいコン」
「チュウ♪ 美味しそうでチュウ。それじゃぁ頂きますでチュウ♪」

テーブルにのせられた美味しそうな『キツネうどん』を
さっそく備え付けの割り箸をパキッ!と割って、食べ始めたネズミのお客。
ズルズルと音を立てて食べていく姿を、
キツネの店主の目が、真剣にその様子を見つめている。

10分後……

『キツネうどん』を全部綺麗に食べ終わったネズミのお客。
不意に顔を伏せると、割り箸を落として震え始めた。

それに慌てたキツネの店主は、

「コ、コ、コン? お客様どうしたのコン?
 もしかして……僕の作ったうどん……美味しくなかったコン?」

心配そうに震えているネズミのお客に話しかけた。
それに、ネズミのお客は、首を横に振るとゆっくり頭を上げた。

「違うチュウ……うどんが……本当に美味しくて、
 涙が出てきて止まらないんでチュウ……
 こんなに美味しいうどんを食べさせてくれてありがとうチュウ。」

本当に目を潤ませてポロポロと、涙をこぼしているネズミのお客は、
感極まった声で、キツネの店主の作ったうどんを絶賛した。

「お客様、ありがとうコン。これでちゃんと自信が持てたコン。」
「こんな美味しいうどんを食べに来ないなんて、
 みんなもったいないチュウ。分かったチュウ。
 このうどんの美味しさをみんなに言って回るチュウ。」

ものすごい気合いの入りようのネズミのお客。
代金をテーブルの上にチャラっと置くと同時にお店を飛び出していった。
それをあっけにとられて見ていたキツネの店主は……

「あっ! お客様、ありがとうございましたコン。
 またのご来店をお待ちしていますコン!」

飛び出していったネズミのお客の後ろ姿に向かって、
慌ててお礼の言葉を述べたのだった。


こうして、キツネの店主のお店の一日は終わりを迎えたのだった。


次の日の朝……

「う〜んコン。 さあ、今日もお店を開けて頑張るコン!」

朝早くから、お店の準備と仕込みを終わらせた
キツネの店主がグーッと伸びをして、お店の戸口を開けると……

「ニャン? やっとお店が開いたみたいだニャン」
「しょうがないワン。 こんなに朝早くから来てた私達が悪いワン。」

あのネズミのお客は、本当に一生懸命にキツネの店主の
お店の噂を広めて宣伝をしてくれた結果……
猫と犬のお客がお店の入り口に座って、開店するのを待ってくれていたのだった。

「お、お客様コン! いらっしゃいませ当店に良くおいでくださいました。」

それにビックリしたキツネの店主。
昨日と違って朝から忙しくなるぞと喜び勇んで、
2匹のお客様に頭を下げると……

「お客様、どうぞ中にお入りください。」

猫と犬のお客を店の中に招き入れるキツネの店主。

「ニャンニャン。どれだけ美味しいのか楽しみだニャン。」
「ワフゥ……お腹が減って、楽しみも倍増ワン。」

お店の中に招かれる猫と犬のお客も、
噂のキツネの店主が作る料理が凄く気になっていて、
ウキウキとした表情でお店の中に入っていくのでした。

そして、数十分後……

お店から出てきた猫と犬のお客は、
共に顔を伏せて、プルプルと震えながら涙をこぼしていた。

「ニャ、ニャン……なんて美味しうどんなんだニャン。」
「キュウン……看板に偽りなしだったワン。 涙が止まらないワン……」

あの時のネズミのお客のように、
感嘆の声を漏らして、それをキツネの店主は……

「ありがとうコン! みんな美味しいって言って食べてくれて……
 本当に嬉しいコン。……頑張って作っているかいはあったコン!」

同じように目から涙をこぼしていて、
何度も頭を下げながら猫と犬のお客に礼を言った。
そして、帰って行く猫と犬のお客に手を振って2匹が見送って……

「今日はお客の来店の調子が良いコン。
 まだ、一杯お客さんが来ると大変になりそうだから……
 今の内に麺とスープの仕込みを追加するコン。」

再びお店の中に入っていく。
その表情から涙が消えていたが、何かが輝いている様に見えていた。

そして、キツネの店主が気にしていたとおり、
何匹もイタチ、ウサギ、牛、馬……それ以外にも噂を聞いて
沢山のお客がキツネの店主のお店を訪れて、うどんを食べに来たのだった。

その日、キツネの店主は疲れ果てて、
泥のように眠りについていたが……
その表情はとても嬉しそうに微笑みを浮かべていた。

さらに、その次の日も……またその次の日もと
お客が絶えることが無くて、とても忙しい毎日が続いていった。


<2011/06/15 23:00 F>消しゴム
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