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表裏一体 影の深淵 − 旧・小説投稿所A

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表裏一体 影の深淵

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グロ注意です

薄暗い雲が空を覆う。
白銀の世界が暗闇に包まれていた。
純白の雪に紅が舞う。
積雪に深紅が広がってゆく。
何かが裂け、何かが散らばる。
肉が裂け、潰れる。
筋も裂け鮮血が白に飛び散った。
「・・っ!?わ、我は・・?」
彼の目前に広がる光景。
積雪に広がる無惨な死体。
腹が裂かれ、血で溢れた体内が晒けだされていた。
喰い散らされた内蔵。肉片が辺りに飛散。
体を巡る血管も見えれば、骨を見えていた。
「我は・・もう・・生きられないのか・・」
無意識のもとで人間を貪り喰った。
それはもう神としての力を失いかけている・・残り僅かという事を悟る。
俯くその瞳は潤んでいる。
「神が命を奪うなど・・決してあってはならない・・」
深紅の血に濡れ染まった口元を前脚が拭う。
彼は神ではなくなる・・堕神となる・・
神が己の欲望で命を奪えば、神は堕神となり現世で苦しみむ獣となってしまう・・・
「グウゥゥ・・わ、我は・・」
神と堕神は表裏一体。
彼は陰の自分の姿・・陰の深淵に立たされていた。

 * * * 

「神獣さま・・?」
「やめろ・・我はもう神獣ではない・・・」
重い何かを宿した表情を貼り付け足取り重く彼は住処に帰った。
少女は何も知らない。日常と変わらない笑顔で彼に接する。
「神獣・・」
「やめろ・・・我は楓(かえで)と言う・・もう、“神獣さま”と呼ばないでくれ・・」
普段なら怒号を放つはずの彼は双眸を閉じて腰を降ろしながら疲弊した表情を浮かべた。
「か、楓さま・・疲れたの?」
「“さま”はいらない・・もうやめてくれっ・・我は神獣ではないのだ・・」
その“役目”から逃げるように首を振り、畏れに唸る。
彼は恐怖していた。“神獣”という自分自身の存在、価値を失うのを酷く恐れていた。
膨大な力も神獣であってこそ。堕ちれば力は失われただの怪物・・人間を本能のままに貪る化け物になってしまう。
それが・・彼にはたまらなく怖かったのだ。
「楓さまはどうしてみんなの願いを叶えてくれないの?いつも困り果ててからじゃないとダメなの?」
「それはお前には分からないだろう・・大人と我の間である契約があるからな。」
まだ“神獣”である自分を見たくない。
必死に心を抑え、双眸を閉じ少女から視界を隠す。
いや・・純粋に自分を信じてくれている彼女を直視出来なかったのだ。
「楓さまが怖いから?怖いからみんな楓さまを頼れなかったのかな?」
「これでも我は普通だ。そんな事を我に聞いてどうするのだ?答えは出ないだろう?」
「いいの・・私は親に“神獣さまには近づくな”って言われた。でも楓さまはとても優しかった。どうしてみんな怖がってるのか分からなかった・・・」
「何?・・それは本当か・・?」
「うん・・」
「なんと言う事だ・・」
驚嘆の声が漏れると同時に彼に答えがもたらされた。
人間たちが恩を返さないのではなく、彼自身が恐怖の対象となり恩を返す事が出来なかったのだ。
人間への毛嫌いは無意味だったのだ。むしろ彼らを受け入れ力を振るえば現状には至らなかったかもしれないかったのだ。
「原因は我か・・・」
楓は自嘲気味に鼻を鳴らした。
ビキッ・・・・
全身を裂けるような激痛が駆け巡った。
「ぐがぁ・・・」
「楓さま?」
“生命の疼き”だ。
消えかかっている楓が他者の信仰を糧に生きており、その生命エネルギーが消えかかると生じる。
陰に潜めている本能が一度に解放され理性を飲み込む。
生きたいという生存本能が掻き立てられる。
「に、逃げろ・・・っ・・」
「ぇ・・?」
「グガァァァァアアッ!」
楓の巨躯がのたうつ。
その躯に少女は弾かれ壁に激突する。
「きゃ・・ぅ・・」
と同時に轟音が鳴り響いた後に洞穴の入口が塞がれてしまった。
「か、楓・・さま・・っ・・」
「今宵の晩餐はお前にしようか・・光栄に思うがいい・・ククッ・・神の糧になれるのだ・・」
「楓・・さ・・ま・・?」
彼は陰の深淵から落下してしまった。
今の彼は堕神・・生存本能の“神獣”楓だ。
目前の命を“餌”としてでしか見れなくなっていた。



<2011/05/13 23:19 セイル>消しゴム
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