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表裏一体 影の深淵 − 旧・小説投稿所A
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表裏一体 影の深淵

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堕神・楓はその本能に従った。
毎晩、毎晩、老若男女関わらず喰い殺していった。
自らの命を繋ぎ留めるために他人を容赦なく犠牲にした。
喰い千切り、喰う。噛み砕き、喰う。
尾で絞め上げ、喰う。とにかく喰らった。
必ず一人は花梨のように苛めながら喰らっていた。
その村はすでに・・壊滅状態に近かった。
家もほとんどが倒壊。人影も少なかった。
そんな彼が神獣・楓として彼自身を取り戻したのはそれから数日後だった。
「・・・っ・・頭が・・」
前脚で頭部を押さえ彼が覚醒する。
躯はかなり疲弊しており、胃もたれを起こしている。
「何か・・喰いすぎたのか・・?」
と、彼はハッとする。
自分が神獣としてではなく堕神に堕ちて意識を失っていたことに気付く。
「っく・・動け・・我の躯・・っ!」
疲弊しきった鈍重な躯を引きずり洞穴から身を出す。
目前に広がる光景・・・
「ここには村があったのでは・・ないの・・か?・・我は一体・・どこへ・・?」
人影は無く、建物は倒壊、無惨な爪痕を残している。
所々には雪が覆っているものの微かに血痕も見られた。
「これは・・我・・なの・・!」
彼は気付いてしまう。
自分の口周りと爪に付着していた血痕を。
すでに酸化し、黒ずんで爪に付着した村人たちの血痕を。
「・・そうか・・我は・・堕神に・・」
ー楓さま・・・信じてる・・ー
「!? 花梨!」
楓は触れた者の名を知ることができた。
この様子から花梨を喰らってしまった事も用意に悟っていた。
「花梨・・我はなんという事を・・」
それと同時に彼にもう一つの心が生まれた。
後悔と償い。花梨を蘇生したいと。
「・・この躯だ・・蘇生は一人・・他の者は怨まないでくれ・・我も悪ければお前らも悪いのだからな。両成敗というやつだ。」
彼は身を翻し、洞穴に還る。
たとえ神とはいえ、命を弄ぶ事は許されない。
その戒めを破った者は堕ちる事を余儀される。
・・堕神に成ることを意味しているのだ。
「失われしその御霊よ・・・神獣の力を以てこの現代に御霊を再び光臨せよ。」
彼はただ花梨を願う。
目前に小さな光の粒子・・魂が収束してゆく。
骨格が再構成・・続いて肉体が。
内臓・・血管・・筋肉・・細かな所まで精密に花梨が構成されていった。
彼が双眸を開く頃には・・蘇生は完了していた。
「・・・花梨・・っ・・ゴホッ!ガハッ!」
堪えきれない何かを咳き込んで吐き出す。
血と肉片に骨・・さらには内臓まで混じっていた。
蘇生の代償だった。
堕神に堕ちる事とあらゆる半分を持っていかれる事だった。
現に彼の姿はすでに代償を払っていた。
尾は五本、翼は片方を失い、耳も無い。
左目も視力を失い虚ろであり、疲れはてた表情をしていた。
内臓も半分。骨も約半分持っていかれている。
生きていくのに必要最低限だけが残されていた。
「流石に・・躯は大・・丈夫・・なのか・・」
どさり・・と重い躯が地に落ちる。
「楓・・さま・・」
「・・・おぉ・・花梨・・」
「・・私・・信じてました・・」
「すまない・・我の欲望で・・」
花梨は特に気にする様子もなくただ首を横に振るだけ。
「・・楓さま・・もう・・喰べませんよね・・?楓さまはずっと・・楓さまで・・いられるんですよね・・?」
「・・あぁ・・もう大丈夫だ・・」
お座りの状態で花梨を楓は抱き取り、腹に埋める。
彼の彼なりの愛情・・初めて人間に見せた心だった。
自分の全てを見据えてくれる相手を心配していたからこそ自然に出来た事であった。
「・・暖かい・・」
「・・ずっと・・離さないからな・・」
その双眸に一つの煌めき。



<2011/05/13 23:20 セイル>消しゴム
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