遠雷
「…毎度のことですが、ぼっちゃまの回復力には目を見張りますなあ。」 ずっとルパンの傷の経過を見てきた老医師は、包帯を解きながらふぉふぉ、と笑った。 「あれだけの怪我をこんな短期間で治してしまうのですから…。まあ、今更ぼっちゃまの事で驚く事はあまりありませんが。」 窓枠にもたれて診察の様子を見ていた次元も、その言葉に小さく笑いを洩らした。 ルパンは「んー!」と、大きく伸びを一つすると、老医師に向き直って問うた。 「で?もういつも通り動いても大丈夫なんだな?」 診療器具を片付けていた老医師は破顔して「大丈夫。」と答えた。 「もう次の盗みの計画がおありで?さすがといいましょうか…。おじいさまが生きておられたら、さぞ喜ばれたでしょう。怪盗の面目躍如ですな。」 「…次のお宝は、これまでで最高の獲物さ。」 そう言ってルパンは、次元に向かってウィンクして見せた。 次元は真っ赤になって目を逸らした。
診療所の周囲の木立を、風が揺らし始めた。空は薄暗く、空気には雨の匂いがする。 遠く空を見つめていた次元は、風が強くなったのを感じて窓を閉じた。 ルパンはベッドの端に腰掛け、シャツの前を広げて、出来たばかりの弾痕を確認している。 次元も近づいて、その傷を見た。
「…だいぶ大きな傷になっちまったな…」 「この稼業じゃ、傷は勲章だろ?」
にっと笑ったルパンの胸の傷に、次元はそっと手を伸ばした。 傷にふれようとして、ためらって引き戻されようとしたその手を掴んで、ルパンは次元と共にベッドに倒れこんだ。 次元は顔を伏せたままだ。気のせいかもしれないが、かすかに震えているようにも思える。 次元を安心させる為に、ルパンは優しくその身体を抱き締め、髪についばむようなキスを繰り返した。 しばらくしてシャツのボタンに手をかけると、途端に次元の身体が強張った。 ルパンは一旦手を止めて、顎を掬って次元の顔を上向かせた。 半分伏せられた瞼の下の瞳は、所在なげに宙をさまよっている。そこに欲望の燠火を見たルパンは、息を呑んで激しくその唇に口付けた。 初めのうちはおずおずと応えるだけだった次元の舌が、ルパンの愛撫に溶けて、同じように激しく動き出す。 ふたりは互いを貪るように口付けあった。 そのままルパンは、次元のシャツのボタンがちぎれて跳ね飛ぶほど荒々しく服を脱がせ始めた。 次元もルパンに揺さぶられながら、ルパンのシャツに手をかけて裸の肩を露にした。 互いに一糸纏わぬ姿になると、ルパンは痕が残るほど強く次元の身体を吸い始めた。 「あっ…!あ…」 全身を舐めるように愛撫され、次元の身体は確かな悦びにわなないた。 ルパンは次元の胸の突起に噛みつくように歯をたてた。それにびくりと身体が反応するのを楽しみながら、今度はねっとりと舌で愛撫を加える。 「あ…、あ、ん…」 切ない声をあげ、もどかしげに身体をくねらす次元の姿は、確かに世界中で自分以外に誰も知らない、ルパンだけのものだった。 乳首を吸い上げ、舌でつつくように焦らすと、それに抗議する様に次元の手が肩にかかった。 「んん…!ん…」 次元は眉根を寄せて爪をたてた。 ルパンは唇を離して次元の身体に圧し掛かると、その耳元で熱っぽく囁いた。
「…どうして欲しい…?」
そう言い様耳朶を口に含み、転がして耳全体を舐め上げた。 「あっ!!…ああ…、あ…」 指で汗ばんだわき腹をなぞれば、弾かれた様に次元の背は反り返った。 そのまま指を滑らせて下腹をまさぐると、次元は聞き取れないほど小さな声でねだった。 「もっと、下…」
ルパンは満足げに喉を鳴らすと、再び次元の唇に唇を重ねて、てのひらで昂ぶった次元を握りこんだ。 「ああ…!」 次元の細い足が、ルパンの腰に絡みつく。 蜜を漏らし始めていたペニスは誘うようにぬめって、ルパンの手を濡らした。 その手をゆっくりと上下に動かしてやると、耐えきれないとでも言うように、絡み付いた足が締めつけられた。 次元の先走りで十分に指が濡らされたのを見計らって、ルパンは次元の秘菊を探った。 指の腹で入り口を湿らせて、中に指を入れようとすると、再び次元の身体が緊張した。 「力、抜けよ…」 優しくルパンが言うと、次元はぎこちなく、徐々に全身にこめた力を緩めた。 ゆっくりと指を埋めていくと、次元はそれに協力しようとするかのように僅かに腰を浮かせた。 男を初めて知る次元のその部分は、花開く前の青く固い蕾だった。時間をかけて解きほぐし、二本目の指を埋め込んだ。 次元は荒い呼吸を繰り返している。最初は痛みに喘ぐだけだったその息に、次第に甘い吐息が混ざる。次元の両腕はルパンの背に回されて、ルパンの指が蠢くたびにその指先には力がこもった。 十分に次元の準備が整うと、ルパンはゆっくりと指を引き抜いた。体内から指が離れる瞬間、次元の身体は大きく痙攣した。 天を仰いでいる自らの性器に手をかけて、ルパンはもう一度次元に確認した。
「…いいな?」 次元は潤んだ瞳を向けて、無言のまま頷いた。 それ待って、ルパンは一気に次元を貫いた。 「ああっ!!」
次元の声は悲鳴に近かった。その中は熱く、そしてきつかった。 ルパンは荒く息をはいた。その額には玉の汗が光っている。次元とひとつになった、その悦びが身体中を満たし、やがてそれは奔流となって激しく溢れ出した。 唐突に、ルパンは激しく腰を動かし始めた。 「あっ!あっ!ああ…っ!」 律動にあわせて、次元が叫ぶ。辛いだろうとは思ったが、止められなかった。 「あっ…!はあ…、ん…」 やがて、次元に変化が見られた。痛みしか感じていないと見られた表情が恍惚として、身体も柔らかくうねり始めた。 「んっ、ん…。…いい…」 動く事は止めずに、吐息がかかるほど顔を近づけて、ルパンは次元に問うた。 「…いいのか…?次元…」 「いい…。…気持ちが、いい…。ルパン…」 目に涙を浮かべ、頬を上気させながら、聞いたこともないような妖艶な声で次元は答えた。 「…っ!次元…!」
次元の身体を半分折り曲げる様にしてさらに深くその身体に圧し掛かると、ルパンは全身全霊をこめて次元をいかせる為だけに動いた。 「あっ!あっ!だめ、そんな…!あっ!」 片方の手ではちきれそうな次元自身を攻めてやり、喘ぐ唇にキスすると、やがて次元が啼き声をあげた。
「ああっ…!ルパン…!いく…」
次元が白い精液を迸らせると、ルパンも同時に次元の中に放った。 荒い呼吸のまま、ルパンは汗と精液にまみれた次元の身体を抱き起こし、しっかりと腕に抱きとめた。
遠くで雷が鳴っている。 次元を組み敷いたあの晩と同じように、嵐が来るのかもしれない。 隣では、次元が健やかな寝息をたてている。ルパンはジタンを銜えながら、その頬に軽く手を触れた。 「う…ん…」 次元はけだるそうに身じろぎして、また眠りに落ちていった。
恋かどうかは分からなかった、か―
ルパンは苦笑した。 この獲物を完全に手中にするには、まだまだ時間がかかりそうだ。
嵐よ、来るなら来るがいい。 たとえ何があっても、俺はこいつの全てを手に入れて見せる―
遠雷は、決して容易くはないその道のりを予感させるようでもあった。 だが、あのときと違うのは、相棒から少し違う何かになった次元が、隣にいるという事だ。
今はそれで、よしとしようか― ルパンは、口端をあげて微笑んだ。 それは世界一の怪盗としてではなく、ひとりの恋する男としての、幸せな微笑だった。
〜Fin〜
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