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 眉村に付き添っている薬師寺を除いた全員が、昼食の席に顔を揃えた。

「襲われた?怪我の容態は?」
 食事の前に切り出された内容に、三人は顔色を変えた。
「幸い少し出血したくらいですが…場所が場所なので、安静にしてもらっています」
「それは良かった」
 江頭が安心したような笑みを浮かべて、食事を始める。
 今日の昼食は、鱒のソテーときのこのシチューだった。
「そこで、だ。十一時半から十二時にかけて、どこで何をしていたか聞かせてくれ」
「俺たちを疑ってるのか?」
 憤慨した児玉を遮るように、江頭が口を開いた。
「…私は次に修復する絵を確認していました。今回、こちらに来たのはその仕事をするためですので」
「どこで?」
「三階の客間です」
「一人で?」
「えぇ」
「そこのちっさいのは?」
「国分です…」
「じゃ国分。アンタは?」
「…庭を散歩してた」
「一人で?」
 吾郎の質問に、彼は小さく頷く。
「で、アンタは?」
 最後の一人に尋ねると、児玉はパンを千切りながら不機嫌そうに口を開く。
「俺は一人で自分の部屋にいた」
「ふぅん…」
 パンをシチューに浸しながら、吾郎は三人の顔を見つめた。
「…全員が容疑者ってワケか」
「何だよ、それ!!」
「そもそも、どうして眉村さんが襲われるんですか?」
「さぁね」
「さぁ、って…」
「それを今から調べるんだ。あの部屋には近付くなよ」
「…」
 いつの間にか自分の分を完食した男は、悠然とダイニングから出て行った。
「…いつもあんな調子なんですか?」
 鱒のソテーにナイフを入れた江頭が、眉を顰めていた。
「…すみません」
 三人の迷惑そうな視線を受けながらも、寿也は自分の分の昼食を腹に収めてから席を立った。

「どう思う?」
「え?」
 眉村が襲われた部屋に行くと、吾郎が床を観察していた。
「何でアイツが襲われたと思う?隠し子じゃねぇだろ?」
「そうだよね…年は僕たちも含めて、皆同じくらいだけど」
「何かマズイものを見た、とか…」
「何も見てないって言ってだろ?」
「犯人には見られたくないものだったんだろうなぁ…でも、何だろうな?」
 二人で首を傾げていると、控え目なノックが響いた。
 ドアに歩み寄った吾郎が迎え入れたのは、樫本だった。
「忙しいのに悪いな」
「いえ…で、何の御用でしょうか?」
「ちょっとアンタに確認してもらいたいんだけど…この部屋で以前と変わったことはないか?」
 探偵の問いに、執事は部屋を見回した。
「いいえ?特に変わった様子はないようですが…?」
「そうか…」
 残念そうに息を吐いた吾郎の隣で、樫本が僅かに眉を上げた。
「どうしたんだ?」
「いえ…」
「何だ?」
「…壁の絵が、少し歪んでいると思ったものですから」
「歪んでる?」
 二人の目には、のどかな田園風景の絵が真っ直ぐに壁にかかっているようにしか見えない。
 朝霧に霞む農家の前の小川で、二人の娘が水を汲んでいる絵だった。
「実は、そちらの絵には言い伝えがありまして」
「言い伝え?」
「真っ直ぐに飾ると、この娘が持っている壷から水が零れるという言い伝えがございます。
 それで代々、少し斜めに掛けるのが決まりなのです」
「へぇ…」
「戻してもよろしいですか?」
「あぁ。濡れたら困るしな」
 苦笑した樫本は、絵を微かに斜めにすると一礼して部屋を出て行った。
「さすが幽霊屋敷。何でもアリだな」
「そうだね」
「…少し庭でも散歩しねぇ?肩凝った」
「いいね」

 頷き合った彼らは、鍵を閉めて庭へと下りて行った。

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