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「すげぇ庭だな」
「綺麗だね」
 早春の日差しの下で庭を散策していた彼らは、風が運んでくる花の芳香に頬を緩ませた。
「それにしても大きな城だよなぁ…」
「名門だからね…他にも城があるみたいだよ」
「ふぅん…俺たちの部屋はどこだろうな」
「公爵の寝室があそこだから…あの柱の横じゃない?」
「そっか。しかしこれだけ窓が多いと、窓磨きも大変だよなぁ…」
 吾郎の視線の先には、大広間の窓を掃除しているメイドたちがいた。
「公爵はどうして、日記に何も書かなかったんだろう…名前くらい書いても良さそうなのに」
「秘密にしておきたかったんだろ。万が一誰かに見られたら、終わりだからな」
「そうだよね…でもそこまで好きだったのに、可哀想だね」
「…そのメイドが公爵夫人になったとしても、幸せになれたかどうかは分かんねぇだろ」
「…」
 いつになく辛辣な言葉を吐く探偵に何か言葉を掛けようとしたとき、
 吹き付けた風が寿也が手にしていたマフラーを吹き飛ばした。
「…っ」
「ほれ。ちゃんと巻いておけよ」
「…ありがとう」
 土をはたいたマフラーを寿也の首に巻きつけた吾郎の手が、頬に触れた。
「冷てぇな」
「風が強いから…」
「…」
「…何?」
 無言で見つめられて、寿也の心臓が激しい心拍数を刻む。
 触れた手の平は熱く、温もりに誘われるようにして頬が染まる。
「…寿」
 吾郎が口を開こうとしたとき、背後から小枝を踏む音が聞こえた。
「おや、お邪魔でしたか」
 二人が慌てて振り返ると、江頭が立っていた。

「調査の方はいかがですか?」
「さぁね…」
 肩を竦めてとぼける男を一瞥した江頭も、口元に笑みを張り付けて話題を変えた。
「見事な庭でしょう」
「そうですね」
「私が父の助手をしていたときから、この庭は変わらない…」
「昔から出入りしてたのか?」
「ええ、私の家は曽祖父の代からお付き合いをさせて頂いています」
「公爵と面識は?」
「あまり表に出てこない方でしたから…それより、お尋ねしたことがあるのですが」
「あぁ…何だよ」
「隠し子は、あの二人のどちらでしょうか?」
「それを今、調べてるんだろ。大体、アンタには関係ねぇだろ」
「ありますよ。どうせなら早いうちに、時期当主と友好的になりたいじゃないですか」
「…商売根性が逞しいことで」
「何と言われようと構いませんよ。この仕事はコネが重要ですからね」
「あっそ」
「で、どっちなんです?」
「依頼主より先に、アンタに先に教えるわけねぇだろ」
 そう吐き捨てた男は、踵を返して庭を歩いていく。
 慌てて後を追いつつ、後ろに視線を流すと江頭は微かに笑みを浮かべて庭を散策していた。

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