:
「皮膚が切れただけみたいですけど…念のため明日は、ベッドで横になっていた方がいいでしょう」
「そうですか…」
診察を終えた寿也が薬師寺に告げると、彼は安心したように息を吐いた。三人で眉村に宛がわれた部屋に運び、医師と薬師寺は声を潜めて会話をしていた。
「それにしても、どうして眉村が…」
「後ろから何かで殴られたみたいですね…彼がいた部屋は何の部屋ですか?」
「一応客間のひとつですが…今は使っていません。舞踏会のために作られた部屋なんですが…」
「はぁ」
「ご婦人が衣装を調えたり…その」
「あぁ…」
薬師寺が濁した目的に、寿也は顔を赤らめた。
「でも、どうして今は使っていないんですか?」
階段のすぐ近くにあり、日当たりも悪くない広い部屋だ。
「…出る、と評判の部屋なんですよ」
「…」
思わず顔を強張らせていると、吾郎が部屋に入ってきた。
「あの部屋でコイツは何をしていたんだ?」
「しっ、まだ眠ってるよ」
「なんだ…そこの彼がキスでもすれば目が覚めるんじゃねぇのか」
「吾郎君!!」
寿也が叱責しようと口を開いたとき、ベッドから呻き声が聞こえた。
「…っ」
「眉村!!」
「ちょっと失礼」
軽く診断をし、求めに応じて水を飲ませてやる。
「起きられますか?」
「あぁ…」
頭に包帯を巻いた眉村は、大儀そうに上体を起こして息を吐いた。
「話せますか?」
「あぁ…」
「あの部屋で何をしていたんだ?」
「物音が聞こえたんだ」
「物音?」
「薬師寺からあの部屋は誰も使いたがらない部屋だと聞いていたんだが、何かが倒れる音がしたから見に行ったんだ」
「何が倒れていたんだ?」
「分からない。ただ、窓が開いていたから閉めようと部屋に入ったら、後ろから殴られて…」
そこまで話をした眉村は、ハッとしたように胸元に手をやった。
「…ない」
「え?」
「ネックレスが…」
友人の様子に、薬師寺が息を呑んだ。
「ないのか?」
「あぁ…朝まではあったんだが…」
「何のネックレスだ?」
「母の形見なんだ…」
残念そうな友人の肩を叩いた薬師寺は、穏やかな声で言った。
「心配するな。樫本たちにも探してもらうから。ゆっくり休め」
「…すまない」二人の話を聞いていた吾郎は、窓から見える庭を見つめていた。
:
: