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「おはようございます」

 寝不足の寿也を爽やかな笑みで迎えた薬師寺は、眉村と朝の紅茶を楽しんでいるようだった。
「…おはようございます」
「よく眠れましたか?」
「…えぇ、まぁ」
「そうですか。それは良かった」
「あの…」
「はい?」
「用意して頂いたお部屋なんですが…」
 別々の部屋に変えて欲しいと言い出しかけたとき、児玉と国分その後ろから江頭がダイニングに入ってきた。
「おはようございます」
「…おはようございます」
「…どうも」
 三者三様の挨拶を交わして、探偵を除いた全員の前に朝食の皿がセッティングされていく。
「茂野様の分は、いかが致しましょうか?」
「そろそろ起きてくると思いますから、用意しておいていただけますか?」
「随分と寝坊なんだな、探偵のセンセーは」
「そうですね」
 児玉の嫌味に肩を竦めて苦笑すると、それ以上の言葉は振ってこなかった。

「うぃーす」
 薬師寺たちと食後の紅茶を飲んでいると、ようやく吾郎が顔を出した。
「遅いよ。吾郎君」
「お前な…起こしてくれても良いだろ」
「起こしたけど起きなかったのは、そっちじゃないか」
「そうだっけ?」
 肩を竦めた男は、運ばれてきた食事に満面の笑みを浮かべると手をつけ始めた。
「この家のメシは美味いな」
「ありがとうございます」
 勢い良く食事をする男に礼を言った薬師寺は、樫本と笑みを交わす。
「今日も書斎をご覧になりますか?」
「そうだなぁ…」
 薄いトーストにマッシュルームのソテーとベーコンを挟みながら、吾郎は何かに思いを巡らせているようだった。
「先代の執事の日記と…公爵の母親の日記はないか?あれば書斎に運んでくれ」
「かしこまりました」
 頷いた執事は、音もなく部屋を出て行った。
「日記ですか?本人のではなくて?」
「本人の日記は量が多いからな…とりあえず、第三者の日記から見てみようかと思って」
「そうですか…」
「じゃ、ごちそうさん。昼メシも楽しみにしてるぜ」
 あっという間に三人前くらいの食事をした男は、足取りも軽く階段を昇って行った。

「俺、イギリスで一番公爵を知ってる男になってるような気がするぜ」
「…僕もだよ」
 二人は昨日に引き続き、書斎で公爵の日記を読んでいた。
 全てを読むのは時間が掛かりすぎると判断した二人は、執事の日記と照らし合わせて公爵の日記を読んでいた。
「でも、執事の日記があって助かったね」
「そうだな…なぁ、メシに行かねぇ?」
 時計を見ると、そろそろ昼が近い時間だ。
「もうそんな時間か…じゃ、窓閉めてくるね」
 寿也は開け放していた窓を閉めて、ふと窓の隣に置かれた本棚に目をやった。
「公爵は、詩が好きだったんだね」
 本棚にはイギリスを始めとした、様々な国の詩人たちの詩集がぎっしりと詰まっている。
「詩なんて腹の足しにもならねぇだろうに…」
 呆れたように言った男は、肩を竦めて書斎を出て行った。

 その時である。
 階下からけたたましい叫び声が聞こえた。
「何?」
 慌てて鍵を閉めて声がした二階に走っていくと、廊下にメイドが座り込んでいる。
「どうした!!」
「あ、あれ…」
 震える彼女が室内を指差すと、頭から血を流した眉村が倒れていた。

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