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 夕食を終え、客用の寝室へと案内された彼らは各々に宛がわれた部屋のドアを開けて沈黙した。

「…え」
「…何で?」
 隣の部屋に入ったはずの吾郎が同じ部屋にいた。
 一つの部屋に、ドアが二つ作られた妙な部屋だった。
「薬師寺様から、お二人は同じ部屋にするようにとご指示がありましたが…不都合がございましたか?」
「いや、別に」
「えっ…」
 思わず背後を振り返るが、吾郎は早速ベッドに寝転がっていて気にした様子もない。
「では、御用がございましたらお呼び下さいませ。朝食は八時でございます」
 樫本が消えたドアを見つめて、寿也はため息をついた。

「何で、部屋を変えてもらわなかったのさ」
「…別にいいじゃん。俺たちの部屋なんて、この部屋より狭いんだし」
「そういう問題じゃない」
「何だよ」
「…ベッドがひとつしかないじゃないか」
 男が寝転がっているベッドは、深紅のカバーに金糸の刺繍がしてある豪華なものだった。
 蝋燭の明かりに揺れる赤い布団が、卑猥に見える。
「こんだけ広かったら、一緒に寝ても問題ねぇって。すげぇ良いスプリングだぜ?お前も寝てみろよ」
「うわっ」
 手を引かれてベッドに倒れ込むと、吾郎に覆いかぶさるような格好になってしまった。
「ご、ごめん」
 慌てて身体を引こうとすると、腕を掴まれて引き止められた。
「おい、寿…」 
「…何?」
 いつにない真剣な顔の男に、寿也の顔が赤らんでくる。
 普段はふざけているが、本来は精悍で端整な顔立ちの男だ。見つめられると、顔を赤らめる女性は多い。
 密やかな恋心を抱いている寿也が思わず赤面してしまうのは、至極当然のことだった。
 二人の体重を受けて微かに軋んだスプリングの音が、妙に耳につく。
「お前さ…」
「うん…」
「お前……太ったんじゃね?重いぞ」
「…っ!!」
「痛ぇっ!!」
 男の腹に容赦ない拳を沈めた寿也は、憤慨してベッドから下りた。
「お風呂、先に入るからね!!」
 足音も荒く浴室のドアを閉めると、タイルに座り込んでしまう。

「…人の気も知らないくせに」
 小さく呟いた彼は、膝に顔を埋めた。

「しかし広いベッドだよな」
「そうだね」
「…赤い布団なんて、エロいよな」
「そうだね」
 広いベッドの端と端に寝ていた二人は、背中越しに会話をしていた。
「…まだ怒ってるのかよ」
「別に?明日も調べものがあるんだから、早く寝ようよ」
「…あぁ」
「電気消しておいてね。おやすみ」
「…おやすみ」
 深いため息の後、部屋の明かりが消えた。

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