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「珍しいね。吾郎君が、あんな依頼を引き受けるなんて」
「お前が家賃のために引き受けろって言ったんだろうが」
「だって二ヶ月も僕が払ってるんだよ?」
「…別に払いたくないわけじゃねぇよ」
「当たり前だろ」
「…払ってなくても、追い出されたことねぇし」
「何言ってるのさ。今月払わなくても、いつかは払わなくちゃいけないだろ?」
「…そりゃそうだけど」
旗色が悪くなった吾郎は、夕飯の支度ができたという声に大きく返事をして部屋を出て行った。「それじゃ、来月の家賃は安心ね」
家主である泰造は、笑みを浮かべて頷く。
今日の夕飯は、ローストビーフと豆の煮込み、キャベツのスープだった。
寿也が買ってきた焼き立てのパンに大口を開けて食いついた男は、不機嫌そうに食事をしている。
「ちょっと…もう少し美味しそうに食べなさいよ」
「あ?あぁ美味いって」
面倒くさそうに返事をした男は、ローストビーフのお代わりを要求した。
「じゃ、しばらくは夕飯は無しでいいのね。この大食いがいないと、食事の支度が楽でいいわぁ」
吾郎の前に皿を置きながら、泰造が苦笑した。
「グラッドスターをよろしくお願いします」
頷いた泰造は、足元で食事をしているブルドッグに目を細める。
「フフ…お風呂に入れてあげるからね…」
家主の言葉に驚いたのか、犬は大きな尻を振りながら逃げて行った。「それにしても、海堂公爵家ねぇ…素敵なお城だけど確か幽霊屋敷で有名なところよね」
「え…」
泰造の言葉に、彼らは顔を見合わせた。
「知らないの?結構有名よ?」
「ゆ、幽霊なんて出るわけねぇだろ」
「そうですよ…」
二人の様子に、泰造は暗い笑みを浮かべた。
「ま、この家にも出るけど…見たことないなら心配ないわね」
「えっ」
「ど、どこに出るんだよ…」
「内緒よ」
肩を竦めた泰造は、鼻歌を歌いながらスープのお代わりをよそっていた。
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