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玄関先に停めてあった大きな馬車に乗り込むと、吾郎が口を開く。
「あのデブはいいのか?」
「えぇ、私の役目は鍵を受け取って、ネックレスを保管することですから。
あの方はもう必要ありません」
「でも、どうしてネックレスまで持ってきたんです?そんな高価なもの、万が一にでも…」
中身を見てから感じていた疑問を寿也がぶつけると、彼女は肩を竦めた。
「鍵だけでも問題はなかったのですが…万が一、鍵が変形して開かなかった場合は
しかるべきところに修理を依頼する手筈でした。
中身はもちろんですが、箱も高価なものです。こじ開けるわけにはいきませんし」
「そうでしたか…壊れてなくて良かったですね」
「はい」
頷いたソフィアは、窓から雪化粧の街並みを眺めている。
やがて馬車は、壮麗な館の前で停車した。「こちらです。どうぞ」
出迎えた執事やメイドに軽く頭を下げたソフィアは、二階の広い部屋へと二人を案内した。
「この部屋で保管しております」
二つの鍵が取り付けられた重厚な観音開きのドアを開くと、
執事とソフィアが持っていた蝋燭の明かりが室内を照らした。
以前、調査で訪れた海堂家とは趣が違う豪華な部屋だった。
「封印を調べて頂けますか?」
乞われた吾郎と寿也は封蝋を確認し、頷き合う。
「大丈夫、です」
「ありがとうございます。では、部屋に施錠をします」
忙しなく施錠をしたソフィアは、執事に鍵を預けると息を吐いた。
二人の視線に気付いた彼女は、唇の端を引き上げて笑った。
「これで私の役目は終了です。後は当主が管理なさいますので。正直、ホッとしました」
「そうですか」
寿也が微笑むと、つられた様にソフィアの唇にも笑みが浮かんだ。
「じゃ、これで終わりなんだろ?」
「えぇ、ご足労をお掛けしました」
「俺達は引き上げるわ。見送りはいらねぇけど、馬車は使わせてもらっていいだろ?」
「もちろんです」
「行くぞ、寿也」欠伸をした吾郎は、悠然と階段を下りていく。
「いい小遣い稼ぎになったな」
帰りしなに渡された礼金を眺めて、吾郎は機嫌よさそうに笑った。
「パブのおやっさんに礼をするから、明日飲みに行こうぜ?」
「それって… お礼じゃなくて、自分が飲みたいだけだろ」腰を抱こうとした腕を叩き落として、寿也は逃げるように窓際へと身を寄せた。
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